第673話  何も起こらないわ?

 来ちゃったのは仕方ない…そう、仕方がないんだ。

 だから、創った装備を渡して、嫁ーずとダンジョンで試すのも仕方がない事。

 俺とユズユズ夫婦とドワーフメイド衆が食堂で、のんびり食後のお茶をしながらダラダラのんびり出来たのも、これまた仕方ない事。

 ブレンダーとクイーンは…隅っこで食休み中ですか? 日当たりの良い窓際で寝てました。

 君達は、いつもマイペースにのんびりだよね…一応、俺が創ったんだけどなぁ。

 

 朝っぱらから母さんの襲撃に合った我が家…いや、違うな俺であったが、母さんのご要望の物を迷うことなく即座に献じた。

「これがネス様から賜った、母さん専用の装備だよ」

 そう言って差し出したのは、淡いピンク色でハート型をしたネックレス。

「こ、これが…!!」

 めっちゃ母さん感動してるけど、そんな大した物じゃないですよ…多分…

「父さんの分は、母さんが王都に帰る時に預けるんで、あっちで渡してあげてね」

 面倒だから、母さんに持って行ってもらおう。

「ええ、それは大丈夫よ。それで、これはどうやって使うのかしら?」

 父さんの事なんて、きっとどうでもいいんだろうなあ…もの凄くハート型のペンダント・トップを撫でまわして、ニヤニヤしてるし。

「えっと…まずそれを首に掛けて…」

「トールちゃん、着けて頂戴」

 俺の言葉に被せ気味に、即座に俺にペンダントを渡す母さん。

 長く豊かな艶を持つプラチナブロンドの髪を、首元からかき上げて、真っ白なうなじを俺に向ける。

 母さんって、何時まで経っても若いから、ちょっとこういう仕草にはドキッとする。

「はいはい…」

 ペンダントを受け取った俺は、背中側から手を伸ばして、母さんの首にペンダントを着けた。

「どう? 似合うかしら?」

 いや、その大きさのペンダント・トップって、ドレスに似合わない気がするんだが?

『お義母様、すっごくお似合いです!』

 嫁ーずは、嬉しそうに立ってクルクル回る母さんを見て、即座に声を揃えて褒めたたえた。

 そして、何気に俺に向かって視線が嫁ーずから投げかけられる。

 何も言わなくとも、何が言いたいのか目の動きで分ったよ… 『早く褒めろ!』だな?

 まあ、機嫌を損ねると色々と怖いから、ここは心にもないけれども言っておこう。

「勿論、似合うに決まってるじゃないか! 母さんの為にあつらえた様で素敵だよ」

 あ、言っててゲロ出そう。

「そう? なら良かったわ。それで、どうやって変身するのかしら?」

 はいはい。

「えっと、ここで変身できないから、ちょっと裏庭に行こうか」

 どうせ変身したら遊びたがるだろうから、広い所に行きましょうね。


 何故か我が家のメンバーの全員が、裏庭までゾロゾロと着いて来た。

 そんなに新しい装備見たいの?

 嫁ーずを筆頭に、ユズユズもドワーフメイドさんも、妖精達一同も、もの凄~~~くワクワクしてる。

 ってか、ブレンダーとクイーンだけでなく、蜂達もゾロゾロとファクトリーから出て見学に来てるし。

 お前等、どんだけ見たいんだよ!

「トールちゃん、もう大丈夫?」

 これは、意訳すると、『ホレ、こんだけの広さあったら十分だろ? さっさと教えろ!』って、事なんだろうな。

「あ、ああ…うん。それじゃ説明ね」

 俺の言葉に、ニコニコ顔の母さん。

 機嫌を損ねるわけには行かない…絶対にだ。

「まず、そのネックレスに触れながら、【雪月風花】って言って…」

「せつげつふうか! ………何も起こらないわ?」

 いや、ちょっと待て!

「いや、まだ続きがあるから、最後まで聞いて! お願いだから、最後まで聞いてから行動してくれる?」

 どんだけ待ち遠しいんだよ。

「わかったわ。それで次は?」

「はあ…。まず、 【雪月風花】って言った後に、ペンダントから槍を引き抜き…」

「せつげつふうか! ぬ、抜けない…!」

 母さん、あんたって人は…

「だから待てって言ってるだろ! 最後に呪文があるんだよ!」

「あら、そう。早く言いなさい」

 もうヤダ…この人…

「ネックレスに触れながら【雪月風花】って言った後に、ペンダントから槍を引き抜きながら、【天鎧招来 穿牙】って言うんだよ」

 もう、一気に話してやった。疲れたよ…。

「せつげつふうか!」

 母さんがそう言った後、ペンダント・トップから小さな槍を引き抜きながら、

「てんかいしょうらい せんが!」


 さて、では変身のプロセスをもう一度説明しよう。

 【雪月風花】とペンダントから槍を引き抜きながら【天鎧招来 穿牙】とキーワードを重ねる事により、母さんの着けているペンダントはピンクの光の粒子へと変わり、装着者の周りに展開する。

 周囲には、母さんの回りに、何の物理現象をも伴わない淡いピンクの光を纏った不思議な旋風が巻き起った様に見える。

 その粒子は、実は極小のヘキサゴン形の半透明のシールドであり、それがまずは母さんの素肌へと貼り付く。

 もちろん、身体の線がはっきり見える様な極薄では無い。

 ちょっとだけ厚みのある薄手でストレッチ性の高いウェットスーツの様な物だ。

 母さんの頭部以外の素肌を全て覆うと、白色へと変わる。

 これは極小のシールドが何重にも重なっており、その位置を変える事によって、パワーアシストが出来る様になっている。

 次いでその時に着ている服に合わせて、淡いピンクの装甲となってくっ付く。

 とは言っても、母さんの場合は基本的にドレスなので、動きを阻害しない形状の文字通りドレスアーマーになるって事。

 残る粒子は、母さんが引き抜いた槍のミニチュアにガンガン集まって、巨大な青龍偃月刀へと姿を変えた。

 そして最後に、母さんの顔の半分ほどを覆う淡いピンク色のターミナルデヴァイスが、目の前に展開して変身終了。

 基本的に、このターミナルデヴァイスもシールドの集合体であり、頭部への攻撃などに対しては、シールドが必要に応じて展開して自動的に防御する。

 もちろん身体を覆う装甲も同様に、自動的に極小のヘキサゴン・シールドが、必要量だけ展開して防御をしてくれる、フルオート・アクティブ・シールドとなっているのである。

 ここで全ての光が収まり、変身終了した母さんの全身が現れるというわけである。

 実にここまで0.02秒の早業だ。


 はっきり言って、基本的に戦いではお飾りな母さん…いや、こんな装備を手にしたら喜々として前線に出そうな気もするけど…ともかく、敵に狙われやすい侯爵家の夫人なのだから、これぐらいあってもいいんじゃないかと思った結果の装備です。

 嫁ーずやユズユズ、コルネちゃんやユリアちゃんの装備からは数段劣る簡易的な物となっていて、毒ガスとかを防ぐ事は基本的に出来ない仕様。。

 だが、ただ装備が欲しいだけの母さんならこれで十分だろう。

 若干、やり過ぎた気がしないでも無いのだが…。

 ま、お飾りの侯爵夫人のガードを固めるぐらいは、特に問題にはならないだろう。


 そう…この時、俺はそう思ってたんだよ…。



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