第672話  だよねえ…

「えへっ! きちゃった♪」


 我が家の玄関は、その美しい某カリ〇ストロのお城の様な、形姿に見合った大きさと美しさを兼ね備えている。

 その大きな扉の目には、門から続くしっかりと石畳で舗装された道が続き、馬車などが横づけしやすい様にロータリー状になっており、道の周囲には一年を通して緑が茂り、今この時期であれば白い花が咲き乱れている。

 そこにやって来たのは、我が自慢のアルテアン運輸の中型の蒸気自動車。

 本日は貸し切りとなっており、王都から賓客を乗せて来たという分けだ。

 んで、その賓客というのが、冒頭の年齢に似合わない「えへっ!」とか言ってる人…つまり母さんだ。


「あ~、ん~、え~っと…母さん?」

 そう聞き直してしまったのは、無理も無い事だと思わないかい?

「そうよ、お母さんよ~♪」

 あんた、もうアラフィ…目前…いや、それは言ってはいけない事だったな。 

「母さん1人で?」

「もちろん、ナディアちゃんも、アーデちゃんも、アーデちゃんも、アーフェンちゃんも一緒よ?」

 ああ、うん…そうじゃない。

 質問の意味は、そうじゃ無いんだ!

「父さんは?」

「お留守番よ?」

 何で疑問形なんだよ!

「何でここまで来たの?」

「もちろん、蒸気自動車で来たのよ?」

 ここまで来た手段を聞いてんじゃねーよ! 目的、理由を聞いてんだよ!

 絶対に分かってて、答えをはぐらかそうとしてるだろ?

「いや、そんな事は聞いてねーし! な・ん・で・母さんが来たのかって事だよ!」

「もちろん、トールちゃんと可愛いお嫁さん達に会いに来たに決まってるじゃない! もう、や~ね~!」

 駄目だこりゃ…口で母さんに勝てるはずなど…口だけじゃなくて全てにおいてかも知れないけど…兎に角、勝てるはずない。


『お義母さま、お久しぶりです!』

 嫁ーずは、嬉しそうに母さんにじゃれついてた。

「みんな久しぶりね~! んで…で…を…搾り…ったら、そろそろ…しれないわね?」

「日々…」「…毎夜…」「…男の子が…」「私は女の子が…」「がっつり種付けしてもらってます!」

 怪しい会話が母さんと嫁ーずの間で…って、イネスのは、滅茶苦茶はっきり聞こえてるぞ!

「それで、今日は私達の顔を見に来ただけでは無いですよね。本来の目的は何でしょう?」

 おぉ、さすがメリル! ズバリ斬り込んだな。

「え、もちろんネス様から頂いたっていう装備を貰いに来たのよ。あと、ついでにダンジョンで試そうかと思って」

 あ、そうだった…あの嬉し恥ずかし魔法少女ネックレスの存在を忘れてた。

「それは素敵です! 一緒にダンジョンに行きましょう!」

 あ、馬鹿ミルシェ! そんな事言ったら、母さんは…

「そうね。それじゃ、女だけでダンジョン攻略しちゃいましょうか?」

『きゃ~! ご一緒します~!』

 嫁ーずと盛り上がっておりました。

 もう、俺の力では止める事は出来ません。

 ええ、止まりませんとも。


 こうなったら… 

 ナディア、アーデ、アーム、アーフェン…聞こえるか?

『はい、マスター』 『『『聞こえてます、マスター』』』

 もしもあの6人がダンジョンに行くと言った時は、面倒だろうけど付き合ってやってくれ。

『『『『了解しました!』』』』

 一応、気の荒い冒険者とかが出入りしてるからな。

 ナディア達も入れたら、女だけで10人の集団だから、危ない奴に狙われるかもしれないけど…。

『大丈夫ですよ、マスター。素手でもその辺の冒険者如きに負けはしません。奥様方をお護りすればよろしいのですね?』

 うん、その通りだ、ナディア。

 まあ、アルテアン家の女にちょっかい掛ける様なバカは居ないと思うけど…いたら生きてない気がするし。

『…そうですね。なんぱ? でしたっけ…そんな事をしてくる奴は、漏れなく地獄行きでしょうね』

 だよね…怖い怖い。

『マスターのご心配する気持ちも十分に承知いたしております。きっちりガードさせて頂きます。ね、あなた達』

『『『お任せください!』』』

 うん、その時はお願いね。


 取りあえず、未だに嫁ーずとキャイキャイと楽しそうに話をしている母さんを、屋敷に招き入れた。

 いや、そうしないと、運転手さんも困るじゃん。

 嫁ーずと楽しそうにお喋りしながら玄関扉を通って中へと入って行く母さんを見送りながら、運転手さんに声を掛ける。

「王都からご苦労様。面倒な客で悪かったね…これ、少ないけど…」

 あんな客乗せた心労、察するよ。

 俺にはこれでしか誠意を表せないけど、運転手の手に幾らかのお金を滑り込ませた。

「あ、有難うございます! 大奥様をお運びできるなど、畏れ多い事です。…ですが、疲れました…」

「だよねえ…」

 中年の運転手さん、めっちゃげっそりしてた。

 うん、今日は温泉スパリゾートでゆっくり体と心を休めて欲しい。

 そう伝えると、嬉しそうに街の温泉街へと蒸気自動車を走らせて行った。

 その走り去る車から立ち昇る蒸気を見送りながら、俺は大きく息を吐きつつ肩を落とした。


「何してるの、トールちゃん! 早くこっちに来なさい!」

 背後の玄関ホールに響く、母さんの声。

 はあ、この先が思いやられるなあ…



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 断罪の刃  闇を照らす陽の如く

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