第649話  リリアさんの案

 シンプルに見えて実は非常に複雑で面倒な、この世界の建国のルールと言うか、一種のマナー的な物はある。

 だが、そんな物、俺には関係ねーのだ!

 大体だな、「俺、この度、王様になりました~!」って宣言したら国が出来るっていう基本ルールがあるんだ。

 なのに根回しだの何だのって面倒くさい手順なんて、知ったこっちゃねーんだよ!


『貴方は何をそんなに興奮しているんですか?』

 おう、リリアさん、ちょっと聞いておくんなまし!

 実は、この戦争の…と言うか、俺達が更地にした国の跡地に関して、さっき王子様や首長様に提案してきたんだよ。

『ほう、それはどのように?』

 いや、両国で余ってるのが居たら貸して~! 国を造るから、そこの国王にしてあげる~! ってな感じでね。 

『ふむふむ』

 そしたら、トップの奴らは口を揃えてこういったんだ。

『何と?』

 それならお前がやれ!(トールこはこう聞こえました)って言われたんだよ! 酷くね!?

『いや、私でもそう言いますが?』

 何でだよ! 国元にいたって王位継承権も無いわ、首長なんて世襲制でも無いんだぞ?

 そこで燻ってる奴を国王にしてやるから貸せって言ってんだ。

 どう考えても両国にとって美味い話だろうがよ!

『いや、そうかもしれませんが…そもそもですが、この戦争の最大の功労者って誰だと思います?』

 ん~~~~~~~ダンジョンマスターず?

『んな分けないでしょうが! 貴方と…おまけして奥様方とかご両親とか、とにかくアルテアンの一族郎党です』

 その言い方に、そこはかとない悪意を感じるのは気のせいだろうか?

『気のせいです。話を戻しますと、誰がどう考えたって、貴方が最大の功労者なのです。その論功行賞も済まないうちに、戦争に関わってい無い様などっかの誰かに美味しい所を与えれる訳ないでしょうが!』

 いや、俺は気にしないけど?

『貴方が気にしなくとも、与える側が気になるんですよ! 大体ですね、ダンジョンマスターずって何ですか! あの3人を衆目にさらすつもりですか?』

 そんな事するわけ無いだろうが。

『だったらダンジョンマスターずなんて、言い出さないでください! 確かに裏方としては破格の功績を叩き出しましたが、決して表に出せない功績なんですからね』

 でも、ちょっとぐらいは表に出しても良いかなあ…って思ってるんだけど

『貴方は、アホですか? そんな事をしたら、でっち上げの神の存在はどうするんですか?』

 え、女神とダンジョンマスターが協力したとか…だめかな?

『ダメです! ただでさえ、ネス、太陽神、月神、大地神と4女神を抱え込んでると思い込まれているのに、そこに現存する4つのダンジョンの内、3人もダンジョンマスターを手元に引きいれたなんて知ったら、世界中からうらやまけしからんと目の敵にされますよ?』

 そう言われてみたら、確かにそうかも…

『あの3人は秘密にしなければならないので、功績があっても表には出せません! わかりましたか?』

 はい…。

『まあ、あの3人の処遇はそもそも決まってましたでしょう? 例のダンジョン大陸を3人で分け合うんですよね?』

 うん、そのつもりで準備してる。

『それで、この戦の跡に建国する国に、ダンジョン大陸へ転送するためのダンジョンを造るんでしょう?』

 そうなんだけどぉ…

『貴方はこの戦の跡地に建国して、両国から誰かトップに据えられる人間を引っ張って来たいと?』

 そうなんだよ!

『だったら、貴方のする事は簡単です』

 ほえ?

『まず、両国から建国する国の数の倍の数の人を準備してもらいます』

 うん、それで?

『それぞれの建国した国に、両国から準備された人をペアにして据えます』

 それは、当然だと思うけど…

『ダンジョン大陸から解放された善良な人を選出して、それを国のトップとしましょう』

 え、一応…敗戦国の人だよね?

『ええ、そうですけど、何か問題が? アーテリオス神国でも、同じような事をしたと伺ってますが?』

 あ、そうだ! べダム首長…確か元は聖騎士団長…

『両国から選出した人達には、元々あった国の復興支援及び新国王の政の補助をさせます。まあ、宰相的な役割ですね』

 なるほど…いきなりトップじゃなくて、裏で? 表かな? 国王を支える役目の…文官トップとか?

『文官でも構いませんし、軍事関係でも構いません。グーダイド王国で言えば、軍務大臣と内務大臣ってとこですか? ついでに人手が有る様でしたら、外務大臣も欲しい所ですね』

 確かに、それなら話しやすいかも…

『実際の所、両国の植民地の様な扱いになるかもしれませんが、それはそれで両国にうま味も有るでしょう』

 そりゃあるよね。

『そして、ここであなたの論功行賞です。この案を報奨として採用して欲しい…と言うのです!』

 おぉ! 

『ついでに、女神様からうんたらかんたらと、理由は何でも構いませんので、建国後にダンジョンが出来たと、神の啓示を受けた…とでも言うのです!』

 お、おお!?

『そのダンジョンは、他の世界にあるダンジョンに繋がっている。そこには多くの戦で傷ついた人達が女神によって保護されている』

 うんうん!

『そして、そこは3人の国王によって統治された地であり、こっちの大陸には興味を持ってない…つまり侵攻は絶対にしないとでも言いましょうか』

 攻めても意味ないもんな、ダンジョンマスターが。

『大陸を統治する3人の国王は、女神様のご加護で非常に長命。しかも争い事を好まない。ただし、多くのモンスターが徘徊する広大なダンジョンがその大陸にはあって、各国とも隣接している。ダンジョンには貴重な鉱石や物資が豊富にあるので冒険者には是非とも来てほしい』

 へ~そうなんだ。

『そうなんだじゃありません! そういう設定にするのです! そして、この内容で両国を説得すれば、あの大陸にも冒険者がどんどん押し寄せるでしょう』

 確かに確かに!

『ダンジョンマスターずも、この設定を守ってもらえれば、永続的にエネルギーを搾取できるというものです。ついでにあの大陸の人々も、心の傷が癒えたり、代を重ねればこっちの大陸に来たいと考える者も出るかもしれませんし、繁殖も出来るでしょう』

 繁殖って…動物みたいに…

『人は動物です! 産めや増やせでじゃんじゃん人口を増やすのです!』

 いや、まあ…うん。リリアさんの案で、もう一回話してみるよ。

 ありがとうね。

『お礼は、ユズキと同衾でめくるめく耽美の世界を見せて頂ければ…』

 うん、それは却下ね。

『ちっ!』

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