第638話  泣いちゃった…

 一度行った事のある場所へ行く時って、何であんなに近く感じるんだろう?

 確かボーディ―のダンジョンっていうか棺桶の合った下水までも、長い廊下と階段を通った記憶が有るんだが、何故かあっという間に到着してしまった。

 ここまで来たのは、俺とボーディとカジマギーの3人。

 もちろん、俺は幼女達の護衛も兼ねているので、変身済みである。

 ま、前回来た時にゾンビも始末してたんで、特に危険も無かったわけだけど。

 そんな分けで、俺達3人は下水をじゃぶじゃぶ音立てながら突き進んだ。

 あの後の話合い? で、ダンジョンハートとやらをまずは回収し、皇都焦土作戦終了後に、ダンジョンを丸ごと取り出して別の所に設置する事にした。

 ダンジョンが地面の下にあったら、いくら神経を繋げてても…ねえ?

 

 

「く、くちゃいでちゅぅ…」

 鼻をつまんだカジマギーが、ボーディに下水が臭いと文句たらたら。

「し、仕方なかろう! 妾が寝ている間に、人がこの様な物を妾のダンジョンの上に造ったのじゃから!」

 まあ、ボーディが言うのも間違いじゃないが…

「ねでるがらでちゅぅ…ふちゅうばぼぎまちゅよぉ…」

 うん、俺もそう思う。

「出来立てほやほやの星に降り立ったのじゃぞ!? 人どころか生命体が単細胞しか存在せぬ星にじゃ! 寝る以外に、一体妾に何をしろと言うのじゃ!」

「あ、そんな昔から居たのね…」

 どんだけ昔からやねん…

「でぼ、ねぼずげでちゅ…」

 まだ責めるのね、カジマギー君は。

「うっ…そこまで言わんでもよかろう? そもそもお主は妾が生み出してやったのじゃぞ? もう少し、妾に優しくしてくれてもよかろう」

 ほら、ボーディ―の泣きが入りそうだぞ。

「ぶがにやざじざをもどめるじょうじば、だべじょうじでちゅ!」

 ん~? 部下に優しさを求める上司は、駄目上司ってか? 

「ちょっと厳しすぎやしませんか、カジちゃん?」

「だりゃが、がじじゃんが!」

 お、怒った?

 ってか、ダンジョンマスターが生み出す眷属って、なんだか似てるよなあ…性格的に。

 もふりんといい、このカジマギーといい。

 何だか出来の良い上司を持った部下に、出来の悪い上司を持った部下が、居酒屋で愚痴ってる様子が目に浮かぶ…。

「ほれ、ボーちゃんもカジちゃんもその辺にしとけ~。もう着くぞ~」

「誰がボーちゃんか!」「だがりゃ、がっでにりゃぐじゅにゃー!」

 やかましい奴らだ、まったく。


 さて、ボーディ―を叩き起こし…んんっ、ごほんっ! 救出したポイントまで戻って来た俺達だが、問題が発生した。

「な、何じゃ、こりゃあ!」

 あ、ジーパンだ。

 いや、それはどうでも良くって、

「見事に汚水の底に沈んでるな…お前の棺桶」

 そう、救出時は精霊さん達によって造られた、汚水をせき止めていた壁が消え去り、見事に元の汚水の底にボーディの棺桶が沈んでいた…きちゃないぞ。

「棺桶では無いわ! ファースト・ダンジョンじゃ!」

 名前なんてどうでもいい。

「ふ、蓋が開いた…ままなんじゃよ…な?」

 ボーディが真っ青な顔で俺に確認をするが、もちろん俺の答えは、

「おう! 閉めた記憶は無いぞ!」

 ボーディの顔は、完璧なまでに Σ( ̄ロ ̄lll) ガーン! って 顔文字になってた。

 あ、カジマギーは…もしかして喜んでないか? 上司の不幸は蜜の味なのか?

「も、もう…ええわい…この水を止めておくれ…妾のハートが可哀想じゃ…」

 めっちゃ泣きそう。

 ちょっと可哀そうだったかなぁ。

「あ~、俺が取り出してやるから」

 そう言ってみたのだが、

「いや、妾が救い出してやるのじゃ…もう1人の妾の様なものじゃからな…うっうっううううううう…」

 あ、泣いちゃった。

 幼女を泣かすなんて、滅茶苦茶申し訳ない気持ちが…。


「分った、ちょっと待っとけ!」

 精霊さん精霊さん、またここの水を止めてちょうだい! んで、乾かして! 

 お願い、マジでお願いします! ロリっ娘が泣いてるんで、大至急お願いしまっす!

 目に涙を湛えたボーディを見たのか、いつもより若干だが焦り気味の精霊さんが、ちゃちゃっと水をせき止め、汚水を壁の向こうへと瞬時に移動させたと思ったら、残る水分も全て綺麗さっぱりと瞬間乾燥。

 何やらボーディに向かってペコペコ頭を下げてるけど…何で?

 え? ロリっ娘救出したら、もう元に戻しても良いと思って元に戻しちゃったから、責任感じてるって?

 いや、まあ…俺もこんな事になるなんて思わなかったし、仕方ないよ。

 なので、棺桶を持って行く? どこに? お外? え、出来るの?

「あ、あのな…ボーディ。お前のダンジョンだけど、城の外に…ってか、あの飛行船の所まで持って行ってやろうか?」

 俺の言葉に、目を見開いて驚いたボーディは、

「で、出来るのかや!? 妾のダンジョンを…外に?」

 振り返り、驚いた顔で俺を見た。

「ああ、出来る……………と精霊さんは言ってる…」

「ん~? 最後は何と言ったのじゃ?」

「ああ、気にするな、出来る出来る! だから、ちょっと待っとけ」

 精霊さんは、こいつ等にも見えないんだなぁ。

「ふぅ…やっと臭いが無くなりました。ボーディ様のダンジョンを出す事が出来ると言うのでしたら、是非ともお願いします」

 指で摘んでいた鼻が若干赤くなっているカジマギーが、俺に頭を下げた。

 んじゃ、さっさとこの地下から脱出しようかね。


 ところで精霊さん…こんな棺桶、どうやって持って行くの?

 取りあえず蓋を閉めろ? そんで埋めて固める? 

 はっ? この皇都を更地にしてから掘り出す? 

 あ、俺達の作戦実行後に取り出すのか、なるほど!

「ボーディ! 今からお前のダンジョンを埋めるからな。んでこの辺り一帯を焼き尽くして更地にする!」

「お主、妾のダンジョンに何する気じゃーーーーー!」

 暗い下水道にボーディの絶叫がこだました。

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