第613話  て? 手!?

「ま、マスター! 対象に異変があります!」


 俺がそんなお馬鹿な日常を嘆いていると、ナディアが突如立ち上がって叫んだ。

 常に冷静でいて思慮深く、淑女の見本の様に振る舞っていたナディアの慌てふためいた姿など、滅多に見れる物じゃない。

 珍しい物が見れたと、食堂に集まっていた一同、ナディアを興味津々に見つめていたのだが…どうやら、ナディアには、この緊急を告げる自身の言葉に、皆が注目していると見えた様で…なんだか、興奮までしてるみたい。

 その証拠に、もの凄く鼻の穴が広がって、ふんすふんすと鼻息まで荒くなっていた。

 俺のデザインでは、鼻の穴ってちっちゃくって…じゃなくて、鼻自体も小さ目で高く、鼻筋が通ってて可憐なデザインだったはず。

「そんな…マスター…可憐だなんて…」

 何故かモジモジし始めたナディアを、さっきから見つめていた一同、不思議な生き物を見る様な顔で見ていた。

 いやさ、ナディア君? 緊急事態なのに、俺の思考を読むんじゃない!

「はっ、そうでした! えっと…そう、緊急事態なのです!」

 まあ、変な事を考えてた俺も悪いんだけど…

「まあ、ナディア、落ち着いて深呼吸でもしろ。それで緊急事態ってのは何だ?」

 急がば回れって言うだろ? 使い方違ったかな?

「すーはーすーはーすぅ…はぁ…。はい、緊急事態なのです。結界ドームを見張っていた妖精達からの連絡では、あのドームの中の謎の物体に亀裂が入ったとの事です」

 ほう、確かに緊急事態だ…だがな、

「爆発とかするんだろうか? だが、その程度ではあの結界は破れないから平気だと思うんだが?」

 あの鉄でさえ蒸発させるような熱量を誇る炎すらも完全に抑え込む結界が、そうそう破られるはずが無いぞ。

「確かにそうかも知れませんけれど…妖精は危険だと判断した様で、私に連絡を…」

 むぅ…ナディアの声がだんだん小さくなってしまった…つまりは、落ち込んだってわけか。

 落ち込んだ理由は、色々ありそうだけど、ここはナディアの顔も立てるべきだな。

「わかった。では、確認に行くとしよう。ナディア、アーデ、アーム、アーフェン、ついて来い!」

「「「「はいっ!」」」」

 おい、お前ら…めっちゃ嬉しそうだな…遊びに行くんじゃないんだぞ? 分ってるよな? 

「「「「マスターとお出かけ~♪」」」」

 …めっちゃ不安…


 本当は、家族も含めてホワイト・オルター号で上空から観察したら良いんだろうが、あの炎でも死なない変態生物の残した…残したで合ってるのか? ともかく、あの炎の中で残った物だから、燃えカスってわけじゃないだろう。

 安全性が完全に確保できるまでは、要注意だ。

 なので、完全にシールドで防御したナディアを始めとした天鬼族3人とで手分けして地上も上空も含めた全方向から偵察だ。

 何故にこのメンバーかというと、空を飛べる彼女らは結界を使えるだけに防御面でも完璧だし、おまけに念話があるので、リアルタイムで俺と情報も指示もやり取りできるという、もの凄く便利な存在だからなのだ。

 それに姿を隠してはいるが、念話能力を除いて、彼女らと同じ能力を備えた妖精さん達も多数ついて来ている。

 もちろん家族の為に半数はホワイト・オルター号に残してくるのも忘れない。

 とどめに、俺の周りにわらわらと集まって来た精霊さんも居る事だし、まあ…大丈夫だろう。


 薄っすらと赤く色づいた結界は、精霊さんの活躍もあってか、もう触っても大丈夫な程に温度が下がっていた。

 中心と思われる場所には、薄茶色でゴツゴツとした丸い物体が鎮座している。

 ぐるりとその物体を1周していると思われる、胡桃の特徴的なあの合わせ目の様な凹凸が微妙に開き始めている。

 しかも、何故か微妙に開いた部分から、光が漏れ出ている。


 えっと、精霊さん…もう、この中は冷えた? 

 あ、まだちょっと温度高いのね。

 恐怖の大王と戦った盆地ぐらいの温度?

 なるほど…それなら、まあ大丈夫だろう。

 ん? 土の精霊さん、慌ててるみたいだけど、どうした? 

 え、あのでっかいクルミの下の地面がどうしたって?

 地面が溶け始めてる? それって、大丈夫なの!?

 もっと地面を硬くする…の? 

 え、俺の領地にあるトンネルの長さぐらい深く固めるつもりなの? 

 それって、浅い地殻だったら届くんじゃないか?

 ま、まあ…土の精霊さんのする事だから、俺は干渉しない様にしよう。

 逃がさなきゃいいよ、逃がさなきゃ…うん。

 

 精霊さんとの、お気楽のほほん呑気なやり取りをしている間も、妖精さん達もナディア達も、四方八方からあのヒルコの残した物体をじっくりと観察し、監視していたのだが、上空かにいる妖精さんから報告がナディアに入った。

『マスター、あの物体に更なる異変があったそうで…え? 本当ですか!?』

 んぁ? ナディア、どうした?

『いえ…その…あの物体から…人の手の様な物が出て来たと…』

 な、なんだってーーーーー!? 

 って、わざとらしく驚いてみたけど、『て』って言った? 人の手?

『はい。まだ割れた部分から指と思われる物しか見えませんが…殻をこじ開けようとしている様にしか見えないと…』

 ん~~? ちょっと上から見てみようか。

 自分で見なきゃよく分からんけど、それってあのヒルコの触手なんじゃね?

 確か、最初に見た時には、うねうね動いてたし…触手の見間違えだよ、きっと。


 ってな事で、またまた変身だーーー! 



*新作始めました。


 闇を照らす陽の如く 断罪の刃

https://kakuyomu.jp/works/16816927861644288297

 良かったら、読んでみてください。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る