第612話  ん? 何の話だ?

 ふっふっふっふっふ…思った通りに事が進んでるみたいで良かったよ。

 リリアが口を滑らしそうになった時は、ちょっと焦ったけど、彼は気付いてないみたいだし。

 気が付いたとしても、別に問題は無いけど、やっぱり秘め事は秘めてこそ意味があるってもんだよね。

 予定していたエネルギー収集も、そろそろいい具合に溜まって来たみたいだし、そろそろこっちにも手を付けないとね。

 え~っと、こっちの彼は…あ、居た居た。

 新たな輪廻転生システムの構築は順調?

 ふむ、進捗度は46%か…なるほど、まだ少しかかりそうだね。 

 必要エネルギーは、十分なのでは? まだ構築に足りないのかな?

 ん? 私の要件定義は、そこまで内容が品質や性能の基準は高くなかったはずなのだが…どこに手を入れるというのだい?

 どれ、これが基本設計だね…基本設計はこれでいいけど、この外部設計や概要設計は外部に発注したのかい?

 君のプロジェクト・チームだけでは手が足りないというのなら、増員も考えようと思うのだが…え、不要?

 ああ、あの世界の5人に将来任せる予定なのか。

 あっちの世界だと、まだ50年も60年も先になるけど…

 うんうん、なるほどね…確かに、あっちの100年なんて、僕にとっては一瞬だけど…

 まあ、気にが納得いく物を構築してくれたらいいよ。

 そうなると、総合テストまでは、まだまだ掛かりそうだねぇ。

 いや、別に時間は気にしなくてもいいよ。

 ああ、僕が時間とか言ったら、皮肉に聞こえるかもしれないけど、本当に気にしないでくれ。

 君が君自身で最も良いと思えるシステムを創ってくれたらいいから、気にせずに進めてくれたまえ。

 運用テストまでは、あの宇宙のあの星を使ったらいいよ。

 完成したら、君の為に新しい次元に新しい宇宙を創るつもりだから、そこでお披露目だね。

 え、あの星が欲しいのかい? なら、君にあげる。

 新しい宇宙に移してあげるから、持って行きなよ。

 ああ、礼なんていらないよ。

 どうしてもって言うなら、完成したシステムのコピーを貰えたら、それでいい。

 何に使うのかって?

 そりゃ、あの次元の宇宙のシステムを、全て新システムに置き換えるんだよ。

 混乱? そりゃ少しはあるだろうさ。

 その時はその時だよ。また誰かをあの次元の世界に派遣すればいいさ。

 ああ、君は派遣するつもりはないから、安心して。

 だって、新しい宇宙の神になるんだろう、トールヴァルド君。


 *********


「それで、トール…あれは、どうするんだ?」

 もしかして父さんは、今回出番が無かったから暴れたいのか? 

 妙にそわそわわくわくしてるけど、あんな妙な奴の所には行かせないからな?

「まずは観察。ドームの内部の空気が冷えて空気の対流が収まれば、もう少し視界がクリアーになるだろうから、じっくりと色んな角度から観察してから、どうするか考えるよ」

「たいりゅう?」

 あ、翻訳されてないのかな? いや、そもそも対流って概念が無いのかな?

「えっと、熱対流って言って…どう言えばいいんだろう。そうだ、父さんは空気は知ってるよね?」

「馬鹿にするな! ここにある奴の事だろ?」

 目に前で手を振ってるけど、まあ間違ってはいない。

 大気の成分までは解明されてない世界だから、まあこんなものだろう。

「そうそれ。それが熱せられた空気が上へ移動して、上に行った空気のあった場所に、周囲の低温の空気が流れ込む。上に上がった空気は、徐々に冷えてまた下の空気のあった場所に戻るって事を繰り返すと、ぐるぐる空気が回るでしょう?」

 あれ? 父さん、考え込んじゃったよ…まさか、これでも難しかったのか?

「う~~ん…熱い空気が上に行って下に冷えた空気が来て上の空気が冷えて下がる? ん? それじゃ鳥はどうするんだ?」「いや、鳥はどうでもいいから! とにかく、しのぐるぐる回るのが対流!」

 対流は熱だけじゃないけど…まあ、いいや。

「うむ…何となくわかった気がしないでも無い…」

 どっちだよ!

「あ・な・た? トールちゃんに説明させてるようですが、まさか対流を知らないとでも?」

 父さんの背後に、もの凄く冷めた目で父さんを見る母さんが。

 冷めた目というか、馬鹿にした目かな?

「え、ウルリーカは知ってるのか!?」

 滅茶苦茶驚いた顔で母さんを振り返った父さん。

「はぁ…あなた…ちょっと二人でお話をしましょう。それだから脳筋馬鹿と言われるんですよ…」

「の…脳筋…馬鹿…」

 母さんの毒舌に、父さん唖然呆然。

 そんな父さんの首根っこをグワシッ! と掴んだ母さんは、

「ちょっとお勉強しましょう。コルネリア、ユリアーネ、一緒に居らっしゃい。こんなお馬鹿な大人にならない様に、お勉強しましょう」

 にっこりと笑顔でそういう母さんの目は、全然まったくこれっぽっちも笑ってなかった。

「は、はい…行きましょう、ユリアちゃん…」「はひ、こるねおねえちゃん!」

 妹2人は、母さんに引きずられていく父さんの後を、まるでロボットの様にギクシャクしながら歩いてついて行った。


「何だかなあ…真面目な話だったはずなのに、この締まらない感が当たり前に感じてしまう…」

 俺が何気なく呟いた言葉を拾ったユズキは、

「これがアルテアン家の日常でございます」

 真面目な執事モードで答えた。


 やだよ、こんな日常…



*新作始めました。


 闇を照らす陽の如く 断罪の刃

https://kakuyomu.jp/works/16816927861644288297

 良かったら、読んでみてください。

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