第582話  確認確認

 翌朝、まだ空気も冷たい日の出前、モフリーナからの連絡が入った。

 どうやら、あの蟲の詳細が分かったらしい。


『それで、あの蟲の正体って何なんだ?』

『あれは元々この世界に存在する虫をベースに、ダンジョンの能力によって改良された蟲です』

 うん、その答えは予想通りだけど、

『問題は、その能力だな…でもその前に、あの蟲の本来の能力って何?』

 順番に確認確認。

『はい、元々は死肉食虫といわれる、汚い場所に生息する虫で、主に死んだ動物などの死肉などを食べる虫で、それを改造した様ですね』

 シデ虫みたいなもんか?

『生者には影響を与えないため、一部の地方ではゴミ処理などに使われてた様です』

 虫で処理ねえ…ちょっと気持ち悪いかも。

『死肉を食べるのは幼虫だけで、成虫は飛ぶ事も出来ず、攻撃能力も無く非常に弱い生き物です…ただ、少し臭いですが』

 臭いだけって…そんなとこもシデ虫に似てるのか。

『特徴は、長い触角を1対持ち、上からの見た目は頭部から尾部まで縦長の楕円形をしています。羽は持たず、腹部は5~10節で構成されています。脚は短いですが、先端が鉤状になっており、肉食に適しております。幼虫から成虫へはサナギを介さない不完全変態となります』

 って事は、あの白い幼虫からいずれ足が出てくるのか…

『ダンジョンがあの蟲に付加した能力は、生きた生命体を宿主として卵を産み付ける事と、孵化した幼虫は生命体のエネルギーを養分として吸収し、宿主を操ると言う事です。蟲達が宿主に命ずるのは、とにかく遠くへと移動する事です』

 ふむふむ…

『恐ろしい事に、寄生している宿主を己ごと他者に食わせ、食った者を新たな宿主として、その体内で活動を続ける事も出来る様です』

 …それって、地球でカタツムリに寄生するレウコクロリディウムって寄生虫と同じじゃねーかよ…

 確かアレもカタツムリをゾンビ化するとか聞いたな。

 アレを紹介するTVの動画を見て、気分悪くなった記憶がある…

『孵化してから成虫まで、およそ1ヶ月。成虫になった蟲は、今まで宿主だった生物を食い、また卵を産み付ける事が出来る新たな宿主を探して彷徨います。成虫の寿命は数日ですが、幼虫の時には次々と宿主を変える事も可能な様です』

 少しずつ生息範囲を広げるのか…しかも、宿主を変えて…

『実際問題として、あの皇都の城壁は高く分厚く外敵の侵入を阻む物ですが、それが幸いして、寄生された人々を閉じ込めている様です。ですが、一部が外に出て、獣などに食われている様ですので…一体、どれほど広まっているのか…』

 まあ、観察した限りでは、そう多くは無さそうだけどな。

 

 こうなってくると、周辺の村や街の人々を、ダンジョン島や後方に移したのは正解だった。

 まさか、こんな奴らが居るとは夢にも思わなかったが。

 それに食料をたっぷり持ってきたおかげで、獣を狩って食わなくても済むから、人へのあいつらの拡大は防げそうだ。

 皇都は、もう完全に終わってる様だが…

『現在、皇都周辺は完全にダンジョン化が完了しております。私の領域に侵入して来た別のダンジョンの寄生蟲という事で、敵性生命体として所在は把握しております』

 おっと、流石は出来るビジネスウーマンっぽい格好のモフリーナさん。

『って事は、その気になったら寄生された奴らは、全部一気に処分できるって事?』

『はい、皇都の外に関しましては、お任せください』

 よし、ならばやる事は決まったな。

『ありがとう、モフリーナ。大凡の方針は決まったよ。例の第一番ダンジョンに関しては、また相談させてもらうから、よろしくね』

『はい、どうかよろしくお願いいたします』

 そう言ってモフリーナは通信を切った。


「……という分けです。あの新発見の蟲に関しましては、人々に寄生をしますので、一掃する事に致します」

 極秘に集まってもらった、両軍の首脳陣への説明をする。

「くれぐれも、この周辺に生息する野生の獣などには近寄らない様に。寄生されて、死にます」

 自らが寄生される姿でも創造したのだろうか、全員青い顔をしていた。

「この寄生虫に関しましては、またかと思われるかもしれませんが、我が家の神具持ちよ妖精達で対処いたします。1匹たりとも残すわけには行きませんので、完全に皇都は焼き払います」

 結局、戦争って我が家のメンバーだけで事足りるんだよねえ…

「トールバルド卿、申し訳ないが頼めるだろうか。勿論、我らで協力出来る事は協力させてもらうつもりだが、我が兵達をあの様な寄生蟲で失いたくない」

 いや、第三王子様の言いたい事は良く分かるよ。

 そりゃ、一般の兵士達が寄生されたら目もあてられない。

「うむ、使途殿。誠に申し訳ないが、よろしくお願いいたします。もしも寄生蟲の勢力範囲が広がれば、次に狙われるのは神国です。国民に被害を及ぼす前に、駆除したい…皇都の様にだけは…」

 神国からこの皇都までの村や街は、ほぼ焼き払ってしまったから、次に人の犠牲者が出るのは神国…になるのかな?

「はい、お任せください。聖なるネス様の使徒として、一掃する事をお約束いたします」

 俺の言葉に、大きく頷く一同。

「つきましては、万が一があってはいけませんので、兵達を直ちにこの場から徒歩1日ほどの距離まで撤退させて頂きたいです」

「なる程…寄生された獣対策といった所ですかな?」

 うん、それだけじゃ無いんだけどね。

 これがダンジョン関連だと分ってしまったら、きっと第一番ダンジョンの処遇が面倒になるからな。

「ええ、それだけ下がって頂ければ、まず問題は有りませんので」


 全員、大きく頷き、すぐさま兵達へと指示を出し始めた。  

 さ、これで邪魔者への対処も出来た事だし、もう一気に終わらせましょうかね。

 この戦争、長すぎて疲れたよ…トホホ。

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