第583話  寝れない夜

 それは、その日の夜の事だった。

 

 なかなか寝付けず、瞼が閉じて意識を手放したかと思ったら、目が覚める。

 また眠りに入ったとおもったら、少しの時間で目が覚める。

 夜中に何度も目が覚める…の繰り返しだった。

 前世でも、ごく偶にこんな中途半端な眠りを繰り返したことが有った。

 原因は良く分からなかった。

 病院で話を聞くと、睡眠障害の一種で、中途覚醒じゃないかと言われた。

 大きな悩みでのプレッシャーやストレス、不規則な生活などが原因で、交感神経が刺激されて、活発化しているとの事。

 その時は、睡眠導入剤を貰って、2週間程服用して、何とか元に戻った記憶がある。

 この世界に生れて来てからこれまで、こんな事は一度も無かった。

 それだけ今度の皇都攻略が俺のストレスとかプレッシャーになっているんだろう。

 

 船室の殆どを占める巨大なベッドの上で、俺は何とか眠りにつこうと目を閉じた。

 しかし、寝よう寝ようとすればするほど、意識がはっきりしてくる。

 心臓の拍動がはっきりと感じられる様だ。

 おかしい…確かに皇都の攻略は、そう簡単な事では無いとは思う。

 だが、そこまでストレスになったり、プレッシャーに感じるほどだろうか?

 

 ダンジョン大陸における、管理局の手違いでこの世界にやって来た転移者達達の大量虐殺…指示したのは俺だ。

 もちろん、この世界に居てはいけない者、危害を加える者のみを排除したつもりだが、後悔はしていない。

 あの時も、こんな風にプレッシャーに押しつぶされそうになったりはしなかった。


 この戦争でも、ここにたどり着くまでに、多くの外道を始末してきたし、村や街を焼き払った。 

 後半は、外道の処理はモフリーナ達に任せっぱなしだったが、それでも命はかなりの数を刈り取って来た。

 これだって、俺は後悔も反省もしていない。

 生かしてはいけない命だってある。

 命の価値に貴賤は無いと思うが、それでも生かす必要性を感じない命だってある。

 死ねば罪を清算出来るとは言わないが、殺す事で救われる心があるのなら、俺はこれからもこの手を止めないだろう。


 だとしたら、このプレッシャーは、一体何なのだ?

『このプレッシャーは何だ?』

 唐突に思考に割り込んできたな、サラ。

『迷いは自分を殺すことになる。ここは戦場だぞ』

 ああ、うん…それって赤い彗星の台詞だよな?

『戦いの中で人を救う方法もあるはずだ。それを探せ』

 今回は、結構しつこいな…何だよ、眠れない原因を知ってるのか?

『え? 知りませんよ?』

 何だよ、知らないのかよ…んじゃ、何で夜中に念話飛ばして来たんだよ…

『いくつになっても、そういう事に気付かずに、人を傷つけるものさ…』

 ん? 気付かずに? 何に?

 あ、もしかして、2人の新しいダンジョンマスターの事か!?

『新しい時代を作るのは老人ではない!』

 あ、それ…まだ続けるのね…もう、お腹いっぱいだけど…

 いや、懐かしいけどね。


 そうだよ、ダンジョンマスターだよ。

 あと、思いっきり後回しにしてたけど、ダンジョン島で保護中の転移者達と、今回の戦争での被害者達と、投降して来た兵達の事を忘れてたよ。

 全然処遇が決まって無かったんだよ!

 あの白い蟲を見て、全部すっかり忘れてたよ!

 

 まずは、保護している転移者の子供達。

 確か、かなりお世話モンスターに心を開いてくれて、最近では仲良く遊んでいるとも聞く。

 ならば、ダンジョン島の正式な住民にしてしまうのはどうだろう?

 元々、総数はかなりの人数なんだし、住居は塔の部屋で十分に間に合ってる。

 

 ん? そう言えば、この戦争の被害者達も、あそこに送ったよな。

 彼等に面倒を見てもらうってのも手だな。

 投降して来た兵達も居る事だし、男手も十分に確保できそうだ。

 あ、でも変な野心持った奴が居たりして、あの島で建国とかされたら嫌だなあ。


『何をそんなに悩んでるんですか?』

 今度はリリアさんかよ…そりゃ、悩みもするだろう?

『これだから、金〇のちっさい奴は…』

 オイコラ! それは関係ないだろうが!

 ってか、ちっさいの、俺?

『気温や溜まり具合でも違いますから、今度じっくりにぎにぎして計測します』

 せんでええわ!

 んで、何の話だっけ…ああ、悩みの事か。

『ええ、解決なんて簡単ですよ。貴方様が建国すればいいのです』

 いや、俺はそんな表立って何かするのは嫌なんだよ。

 これ以上目立つのも、ねえ。

『ですから、表の王族でも擁立すればいいのです。それをしっかりとコントロール出来れば、別に問題はないはずです』

 …なるほど…傀儡 の国王か…

『そうすれば、元々の問題も解決しません?』

 どゆこと?

『貴方様は、保護した転移者達や被害者達を、落ち着いたらこちらの大陸に戻そうとしているんですよね?』

 ああ、うん。勿論、そうだけど

『でしたら、このままにしておくのがベストではないかと』

 いまいち理解出来ないんだが?

『あの島を創った目的をすっかり忘れてますね。局長は何といいましたか?』

 ん~? この大陸がだけだと将来的に…人の…生存圏が…ああああ!

『理解できました? ガンガン村とか街とかを焼き払って、今ならかなりの土地が余ってるんですよ?』

 お、おお! 確かに確かに!

『つまりは、生存圏は格段に広くなったという事です』

 なるほど!

『転移者達や今回送った者達の合計は、せいぜい12~3万程度でしょう』

 正確には知らんけど…そんなに投降したんだ。

『たったそれだけの人数があの大陸で生活するのですから、全員が東京ドームぐらいの家を造っても大丈夫ですね』

 比較がおかしいけど…まあ、確かにリリアさんの言う通りだな。

『しかもすでにダンジョン化しています。ならば、こちらの大陸でも、誰かが支配する前にさっさとダンジョン化すればいいのです』

 おおお!

『これぞ、一石二鳥作戦です!』

 あんた、天才や!

『いえ…こんな簡単な事を想いつかない、貴方様がアホなのでは?』

 返す言葉がございません…

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