第571話 復興支援の見返り
あの巨大防壁から進む事、何と1,800km。
とは言っても、直線距離では無く道のりなので、地図上の直線距離では800kmほどだろうか。
最初の村の鬼畜共に天誅くらわせてから、すでに今日で7日目。
俺達は、敵の本丸である暗黒教ダークランド皇国の国境を越えた所にある草原に、陣を構えた。
良く考えると、父さんの住む領地から、グーダイド王国の王都への道のりが約1,600kmで、直線距離では700km。
領都リーカと王都間の距離は、ナディア達が測量して出来た地図のおかげで分かってはいたのだが、実際の直線距離がそんなに近いとは思いもよらなかった。
いや、全然近いと言える距離では無いのだが。
領都から王都までのぐねぐね道がそれ程に多く、今まで遠回りして馬車を走らせてきたって事なのだろう。
王都への途中にでっかい山があるので、馬車で上京してたクセなのか、ホワイト・オルター号もそのぐねぐね山をう回する道のりの上空を飛んでいたのかもしれない。
そういえば、サラ達にお遣いであちこち行って貰っていた時は、やたらと早かったのだが、もしや最短距離を飛んでたからかな?
でっかいとはいえ、例の盆地の山脈よりもかなり低いので、上空を飛ぶ事は可能。
って事は、障害物の無い高度を真っすぐ飛べば、今までももっと早く到着出来たんじゃなかろうか?
俺って、何て馬鹿なんだろう…。
『今頃?』
サラの罵倒に文句も言えない…。
『まあ、気付けただけ上等です』
うん、ありがと…。
さて、いよいよ暗黒教ダークランド皇国の国境線となる森林を、我が家のメンバーは、わりとあっさりと越えた。
そりゃ、モフリーナによってこの国までにある村や街以外のありとあらゆる場夜がダンジョン領域にされているのだから、彼女の特殊能力の転移で移動なんて一瞬だからな。
しかし、今回は流石に敵国の本丸に乗り込むとあって、第三王子様やべダム首長を始めとした首脳陣、父さんを筆頭とした騎士団の半数が、皇国の首都を望む事が出来るこの地へと集結した。
無論、移動は我が自慢のアルテアン運輸とホワイト・オルター号。
一般の騎士さんや兵士さん達は、陸路でバスやトラックに満載されて揺れながら、この地へと集結しつつあった。
元々、本陣へと保護した人々を送っていた時に、母さんやサラ達が、戦況の移ろい具合を詳細に報告していたこともあり、徐々に戦線を押し上げていた。
また、戦線を押し上げるにあたり、精霊さん達の協力によって、滑らかで真っすぐな道を新たに敷設したのも移動速度アップに繋がった。
豊富な物資と強力な輸送力、そして新たな街道の敷設といった要因も重なり、長大で巨大な防御壁を護るために、最低限の人数だけを残して、どんどんと敵地の奥深くまで兵達は侵攻していた。
もっとも、俺達が露払いも兼ねて村や街を焼き払っている為、敵の姿はどこにも無く、せいぜい危険な相手と言えば野生動物ぐらいだろうが。
偉い人達には、お空の旅路を満喫していただいた。
最後まで本陣で踏ん張っていた首脳陣ではあるが、いよいよ敵の本丸に突入となっては、陣頭指揮を執って貰いたかったからだ。
こういった多くの国を巻き込んだ戦争では、幾ら活躍しているからと言っても、俺の様な下っ端貴族程度が戦後の交渉など出来るはずも無い。
それに戦争という、大きな出来事に関わらせないわけにもいかない。
間違っても、女神様頼りには出来ない。
もしもそんな事をしてしまったら、この先どこまでも女神様を頼ってしまう。
あくまでも戦争の責任問題と、戦後交渉や被害者達と復興の支援に関しては、国家主導の元、人の手によってなされるのが一番だろうと思う。
『貴方様が、下っ端?』
下っ端ですけど、リリアさん、何か?
『もしかして、戦後交渉とか復興支援とか、面倒な仕事を丸投げするつもりでは?』
……そんな気は…無いよ?
『………』
ってなわけで、到着早々ではあるが、彼等に休む暇は無かった。
まずは、首脳陣へと、この国で起きていた惨劇を、事細かに説明。
両国首脳陣は、内容を聞くや義憤にかられ、正義感をメラメラと燃え上がった。
ここ最終目的地を前にして、もう隠す必要も無かったし、道中の全ての村や街を焼き払い、更地へと変えたあとなのだから、ばらしても問題ないと判断したからだ。
ネス様のお言葉として、両国には最終的には、焼き払った村や国の復興のための支援が要請されている。
もちろん、その為の原資は、十分とは言えないが敵軍からの鹵獲品が充てられる。
不足分に関しては、ちょっと考えている事があるので、後ほど。
一部の被害者達に関しては、ネス様が居られる神の国の元で、一時的に保護している事は伝えてある。
本陣で保護した人達や、このネス様の御元(ダンジョン大陸)で保護した人々に関しては、元住んでいた国や村に戻りたいと言っても、それは既に無い。
だからこその復興支援。
両国首脳が、それを断るなどという蛮勇を持ち合わせているはずも無い。
もちろん、俺もモフリーナも陰ながら色々と復興支援をするつもりだが、ここでとっておきを皆に披露した。
何を隠そう第6番ダンジョンと、その主であるモフレンダの存在である。
両国が、復興支援に反対する事はまず無いだろうが、それでも不足分を無償で支援など首脳陣が認めても、血税を使われる国民が認めるかというと、それは微妙だ。
なので、支援の見返りを用意しておいたのだ。
さて、見返りといっても、ハイエナのごとき皇国軍の出鱈目な物資の徴発や、クソ共によって根こそぎ奪われた人々に、そんな物を用意出来るはずも無い。
そもそも村や街を焼き払ったのが俺…とは正確には違うが、とにかくそれを指揮したのは俺だ。
責任を感じてとかじゃないが、せめて支援への見返りのネタだけは提供したいと思って、色々と考えたのだ。
「そこで、復興支援への見返りと言っては何なのですが、今まで謎のベールに包まれていた第6番ダンジョンでの素材採取に関して、無条件でネス様より許可が下りました」
『おおぉー!』
俺の一大発表に、なかなか良い感触です。
謎のベールって、本当は誰にも見つける事が出来ず、移動すら出来ない、断崖絶壁の上にダンジョンが有っただけなんだけど…。
「皆様へ素材を提供していただけるのは、第6番ダンジョン。こちらでは、モンスターを倒した時に採取出来る素材や魔石は元より、あらゆる鉱石や宝石が宝箱やダンジョン自体から手に入るそうです。無論、その価値は計り知れないとも…」
『おおぉー!』
ま、その辺の調整は幾らでも出来るそうなんだけど。
「興支援の見返りとして両国には、そのダンジョンへ向こう5年間、自由に入る事が出来る権利が譲られます」
『おおぉー!』
同じ反応しか返ってこないんだけど…皆、ちゃんと聞いてる?
「そして、第9番ダンジョンと同様に、開放してから5年間は、出現するモンスターによる死者は有りません」
『おおぉー!』
ま、これはダンジョンの発展にも関係してるけどね。
「なので、素材取り放題となります。それをもって、復興支援の対価としてほしいと、ネス様より言付かっております」
『おおぉー!』
もう、同じ反応でもいいや…
ちなみに、モフレンダにはモフリーナを通じて、この話はしてある。
ここまでの俺達の粛清と、俺からのプレゼントで、十分なエネルギーは手にしているはずなので、快くOKしてくれたそうだ。
なのに、いまだにまともに会話してくれない。
なんか、寂しい…。
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