第572話  思い出した!

「なあ、トールよ…何かおかしくないか?」

「うん…何かがおかしい…」

 真っすぐに続く街道に立った俺と父さんは、その先にある異様な雰囲気をプンプンさせている皇都を見ていた。

 俺達が今から攻め入ろうとしてる皇都の様子を見る為、偵察というか先鋒というか、とにかく敵の本丸の様子を確認しに来たわけなのだが…どうに様子がおかしい。


 皇都を護る城壁の門は開け放たれているのは、まあ分かる。

 門を護る衛士が不在なのも、あれが見た目だけの第一防壁であり、あの門を越えた先に本当の関があるのだとしたら、納得は出来なくとも理解は出来る。

 だが、門から足取りも怪しい人達が出入りしていたり、それを貪る獣が溢れているのは、違和感どころじゃない。

 あの人達、ラリってるわけじゃないよな…ゾンビにしては、陽の下なんだけど…どうなってんだ?

 もしかして、地球でのゾンビの常識は役に立たないのか? って、そもそもゾンビが空想上の産物か。

 いやいや、あいつらが単に酒に酔っている…って事は無いな。

 獣に手足を喰い千切られてるというのに、悲鳴の一つも上げてないし、喰い千切られた所からは、血も噴き出してない。

 しかも、その手足を喰い千切った獣たちは、やはり酔った様な千鳥足となり、力なく倒れて動かなくなってしまう。

 もちろんだが、手足を喰い千切られた人は、人らしくやはり死んだように倒れて動かない。

 城門前は、動かない人と獣が散乱しているのだから、誰がどう見ても異様だろう。

 ここまで通って潰して来た村や街とは、明らかに何かが違う。

 でもなあ…どこかで似た様なのを見た気がするんだよなあ…どこだっけ?


「父さん…ここは一旦、後退しよう。皆に状況説明も必要だし、偵察には妖精さんにでもして貰うよ」

 隠密性ではピカイチの妖精さんに、ここはお願いするのが良いだろう。

「そうだな。そうしてもらえれば心強い。では戻ろう」

 俺と父さんは、王子や首長が待機している陣へと、そっと戻った。

 あの、変な人達や獣を引き連れて行くわけには行かないから、ゆっくりそっと音を立てない様にだ。


 ナディア…聞こえるか?

『はい、マスター』

 皇都に、妖精さん達を偵察に向かわせてくれ。どうにも嫌な予感がするんで、しっかりと全員が結界を展開し、光学迷彩で姿を消す様に。

『結界に光学迷彩ですか? あの静かな皇都に何があるのでしょうか?』

 うん、それを探ってもらうために、妖精さん達に、向かってもらうんだ。城門の様子を見る限り、何か悪い流行り病でも発生しているかもしれないから、絶対に結界は解かない様に。

『なる程…了解しました、マスター。先行部隊として、10名ほど送り込みます』

 ああ、よろしく頼む。

 

 観察して正確な分析をするという事にかけては、精霊さんじゃ今一つ正確性に欠ける。

 精霊さんは、どうにもこうにも的確な指示の下に動くという事と、感情の昂ぶりのままその力を使う事には優れていが、きちんと考えて分析して報告するって事は苦手みたいだからな。

 精霊さんは生き物では無いから、病原菌とかへの耐性は高いのだろうが、今回はお留守番だ。


「…という状況でした。どうも、レイフェル皇国…じゃ無かった、暗黒教ダークランド皇国の皇都では、何かが起きたのかもしれません。無暗に突入するのはお勧めしません。せめて何が起こったのかを確認してからの方が良ろしいかと思います」  

 俺と父さんが見て来た敵の本丸である皇都の様子を話すと、首脳陣は「う~む…」と考え込んでしまった。

 そりゃそうだろう。

 今まで俺達が潰して更地にして来た村や街は、異様は異様であったが、それはド畜生欲望のまま好き勝手に暴れていたという、猥雑で無秩序な状態ではあったが、それでも馬鹿野郎が好き勝手にすれば、そういう状態になるであろうという、予測が出来る状態であった。

 しかし、敵の本丸である皇都の様子は、俺の予想の斜め上を行く有様だった。

「トールヴァルド卿。一体、皇都で何が起きているのだ?」

 我がグーダイド王国の第三王子ウェスリー・ラ・グーダイド様が、怪訝な顔で俺に訊ねてくるが、分かるわけ無いじゃん。

「現在、ネス様の眷属である妖精族の方々が、姿を消して偵察に赴いております。情報が入りましたら、すぐに報告させて頂きますので、しばしお待ちください」

 まだ偵察に出たばっかりなんだから、ちょっと待っとけと、暗に言ったつもりなんだけど、理解してくれたかな?

「うむ、了解した。では、皇都に関しての軍議は、ここまでとしましょう。べダム首長からは何か御座いますか?」

 お、分かってくれたみたいだ。

「私からウェスリー殿下にも使途殿にも特に物申す事は御座いませんな。ただ我等神国兵は、神のお言葉に背く輩にこの剣を突き立てるだけです」

 べダムさん、漢前すぐる。


 その後、細々とした事を話し合った後、俺と父さんはホワイト・オルター号へと戻って来た。

 嫁達にちょっと考え事が有るんで、1人にさせてくれと言って、自室へ俺は引っ込んだ。

 巨大なベッドに大の字になりながら、先ほど見た皇都の様子を思い浮かべる。

 あの千鳥足の奴等は、一体何だったんだろう。

 そして、記憶にある似た様な奴…どこで見たんだっけ? 

 ダンジョンだったかな?

 ん~~~~喉元まで出かかってるのに、出てこない…もどかしい… 


『マスター、ご報告が有ります』

 どうした、ナディア?

『偵察に向かわせた妖精からの報告です』

 おお、待ってたぞい。んで、どうだった?

『結論から申し上げますと、あの街に生きている者は居ません』

 はっ?

『そしてあの動き回っている者ですが…どうも、似た様な気配を感じます』

 似た様なって、何と?

『お忘れですか? 恐怖の大王の手下たちです』

 あっ! そうだ、思い出した!

 あの時の、キノコの胞子付きのゾンビとそっくりだったんだ!

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