第555話  大概の上役が馬鹿だ

 いよいよ明朝に作戦を開始するにあたり、本日はグーダイド王国とアーテリオス神国を交えての最終作戦会議だ。

 明日からの動きに関しては、大凡のところは決まっているのだが、細かい部分に関してのすり合わせをする、といったところだろうか。


「では、僭越ながら、私が明日からの作戦行動に関して、この場で説明をさせて頂きます」

 今までの様な、一部の首脳陣だけとの会合では無く、本日は兵を率いる部隊長さん達も一堂に会しているので、人数的にはかなりの物で、さすがの俺も緊張している。

 この作戦会議には、我が家のメンバーも全員が参加しているので、いくぶん気は楽なのだが…

「明日からの作戦における皆さんの役割と行動を、これより説明させて頂きます。まずは、会議に際して配布しました作戦概要の書かれております資料をご覧ください」

 この世界の何が不自由かって、コピーが無い事だ。

 こんな会議では、コピーが無いとマジで大変で、全ての資料は手書きなのだ。

「では、まず資料の1ページ目に関してです。この戦において、何を最重要視するかと言う事ですが、それは…はい、そこの騎士さん、お分かりになりますか?」


 こういった会議においては、ほとんどの場合が有無を言わせず上司の意見に唯唯諾諾と従うのが、この世界では一般的。

 だけど、俺はそれは違うと思うんだ。

 だって、上役が馬鹿だったら、兵が無駄に死ぬだけだ。

 出来る上役ならいいけど、大概の上役が馬鹿だ(個人的感想です)と思う。

 前世の地球だって、軍のトップは前線に出た事も無いような政治家だった。

 もちろん参謀役はバリバリの現場からの叩き上げだろうけど。

 警察だって、所轄の署長ならノンキャリアでも就く事は可能だが、警視庁のトップクラスだと、まず無理。

 自衛隊だって、防衛省のトップはキャリアだし、大臣は単なる政治屋。

 アメリカ軍だって、核の発射を決めれるのは大統領で、やっぱ政治屋。

 いや、軍部が政権を取る事もあるけど、それはそれで恐怖政治になりかねない。

 この世界だったら、我が国の軍務大臣を見れば分かるだろうが、王族の王子様だ。

 戦争に行っても、決して前線に出ない様なのが指揮をとってるんだから、現場の苦労なんざ分かるはずも無い。

 戦争と言ったら、絶対に負けるな! 敵を殲滅しろ! 下がる事は許さん! まあ、それが普通だわな。

 そりゃ、自軍の損耗を考慮しないのであれば、色々と手は考えられるけど、現場の兵達はたまったもんじゃない。

 だからこそ、俺は戦争では、出来る限り自軍の損耗をゼロにする事を、第一目標としている。


「何を…ですか? そうですね…敵軍を壊滅させる事では無いでしょうか?」

 うん、兵隊さんらしい回答ありがとう。

「なるほど。では、そこの貴方は、どうお考えですか?」

 資料から目を上げた兵隊さんに振ってみた。

「わ、私ですか? はい、早期決着です!」

 これまた兵隊さんらしい答えでした。

「なるほど、なるほど。確かにどちらも重要ですね」

 俺がそう言うと、2人共ほっとした顔をしていた…が、

「ですが、私の考えは違います。この戦争で最も重要な事、それは我が連合軍に、人的被害を出さない事です」

 そう言うと、途端に場が騒めき始めた。

「質問であります!」

 お。元気がいい兵隊さんが居るなあ~。

「はい、そこのあなた。どうぞ」

「はい! 2つ質問があります!  それは味方に死傷者を出さないという事でありましょうか?  そして戦争の勝ち負けは二の次という事でありましょうか?」

 ほう?

「なかなか良い質問ですね」

「お褒め頂き、ありがとうございます!」

 いや、あんた固いよ…もちょっとリラックスしておくれ。

「うん、では答えましょう。それはYESでもありNOでもあります」

 あ、元気のいい兵隊さんも、首を傾げちゃったか。

「まず、連合軍に人的被害を出さないという事は、誰も死なせないという事です。申し訳ないですが、怪我は有るかもしれません。もちろん、怪我すらも無いように作戦は練っておりますが、可能性としては十分にあると思ってください」

 全員を見回すと、難しい顔や、当然と言った顔、それぞれ色んな表情をしている。

 表情を変えないのは、我が家のメンバーと一部の重鎮ぐらいか?

「そして、戦争の勝ち負けですが、二の次にはしません。ただし、貴方達が望む形かどうかは分りません。ですが、私が必ずあなたたちを勝利に導きます」

 微妙な言い回しに、理解がついて行かないのかな?

 ならば…

「では、資料をめくってください。次のページから数ページに亘って、此度の戦争の作戦概要が書かれていますので、そこをまずは熟読してください。質問は後程受け付けます」

 さて、ようやっと本題ですな。


 最初は、資料を黙って捲る音だけが聞こえていたが、だんだんとまた場が騒めき始めた。

「皆さん、読まれた様ですね。では、質問を受け付けましょう」 

 この一言を皮切りに、会議は怒涛の勢いで流れ始めたのであった。  

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