第554話  絶対に躊躇うな!

 朝食前に、長い説教は無かった。

 いや、そもそも戦争前なんだから、こんな事で長い時間拘束する愚を、頭の良い我が家のメンバーがする筈も無い。

 だから、10分程で解放されました。

 でも、サラの例のブツは没収されました。

 何故か俺の宝物は、誰の目にもとまらなかった…何でだろ?

 まあ、そのおかげで長い説教を免れたとも言えるのだが。


 サラの例のブツ…もう暴露本でいいや、アレを見た嫁達は赤面して説教をする事を忘れている様だった。

 同じく目を通した母さんには、「まぁまぁ! トールちゃんも大人になったのねえ!」と、何故か喜び、説教タイムは見送られた。

 父さんは、「お前も大変だな…」と、俺の肩をポンッと叩いて、食堂へと消えた。

 ユズカは、他人の夜の営みには興味無いようで、さっさとどこかへ行った。

 ナディア達からは、ものすごく白い目で見られた。

 コルネちゃんと、ユリアちゃんは、どんな本なのか内容をしつこく聞かれた。

 俺だけじゃなく、暴露本を見た者、全員に聞いて回っていたようだが、誰も口を割らなかった。

 サラは…『武士の情けです。薄い本は私が隠しました。大きな貸しですね』と念話が入った…ありがとう、サラ。



 色々とゴタゴタもあり、少し遅くなったが朝食を摂った俺達は、恒例の本日の…いや、開戦前の最後のミーティング。

「え~いよいよ、明日の早朝に敵陣へと攻め込みます」

 いつもの事だけど、ミーティングなのに、俺しか喋らないってどうなん?

「想定外の出来事もありましたが、仕込みはほぼ完了です」

 新しいダンジョン発見とか、想定外も良い所だけどね。

「敵を例のポイントまで追い込むのは、モフリーナに一任していますので、我々アルテアン一家は、敵陣の奥深くに巣食う害虫退治をしたいと思います」

 そうです、あの大軍はモフリーナにお任せなのです。

 これが作戦であり、その為の仕込みが昨夜の作業だったのですよ。

 そして、色々と酷い話を聞いて、怒り沸騰している我が家のメンバーには、その怒りの原因たる害虫退治をするわけです。

「父さんには物足りないかもしれないけど、敵は戦う力の無い人達を食い物にしてる悪漢どもだから、今回は許して」

 父さんは難しい顔? してるけど、コクンと頷いた。

「だけど、あの時の騎士さん達が来てるなら、同行しても良いよ。ただし、負傷しても助けれるかどうかわからないけど」

「ああ、先ほど到着したらしいから、事情を話して連れて行く。民を害悪から護るのは、騎士たる者の務めだ。これこそが騎士のなすべき事だ。遠慮はいらないんだよな?」

 あ、父さんが喋った。

「うん。では騎士さん達を率いて、父さんは悪漢を自由に退治して、人々を救護する事に専念して」

 父さん、自由に暴れられると聞いて、ちょっと嬉しそう。

「メリル達5人は、俺と一緒に来るように」

 嫁達も無言で頷く。

「もちろん。害虫は、クイーンとナディアが協力して教えてくれる。ナディア、妖精達に連絡は?」

「はい、済んでおります。悪漢どもの頭上でお教えいたします」

「うん。クィーン、ナディアと同じように蜂達にも連絡を」

 俺の横、食卓の端っこに飛んで来たクィーンは、器用に片手を上げて諒承の意を表してくれた。

「皆は、妖精達と蜂達が指し示す害虫を駆除。皆が怪我をするとは思えないけど、危ないと思ったらさっさと逃げる様に」

 俺の言葉に、全員がゆっくりと深く頷いた。

「ブレンダーは、俺と来るように。コルネちゃんとユリアちゃんは、ナディアとアーデ、アーム、アーフェンと一緒に、害虫に酷い事された人達を保護して船まで誘導。母さんとサラ、リリアさんは、船に残って救護者をカーゴルームに誘導して」

「「はーい!」」

 元気よく返事する、可愛い妹2人。


「トールちゃん、保護するのは良いけど…すぐにいっぱいにならないかしら?」

 そりゃ当然の疑問ですな。

 なんせ、数か国分の救助者が居るんだから、すぐにいっぱいになる。

「母さんの疑問は当然だね。なので、いっぱいになったら、サラとリリアさん達には飛んで欲しい場所がある。例の場所ね」

 これはちゃんとモフリーナとポイントを決めて、事前にサラ達には言ってある。

 モフリーナにお願いして、もふりんに、ダンジョン大陸に造ってもらった緊急避難用の塔の1つで保護するのだ。

 あの巨大な塔であれば、地上全階層を使うまでも無く、数万人は保護できるはずだ。

 ダンジョン内に外の人を留め置くだけで、ダンジョン的には収支がプラス方向に跳ね上がるんだから、喜んで協力してくれる。

 もちろん、俺からも御礼のエネルギーをあとから上げるつもりだし、もうモフリーナはニッコニコで協力してくれる。

「はい、了解しました。私達はどんどん往復すればよろしいのですね? 怪我などをしていた場合は、どうしましょう?」

 それも、もふりんが治療してくれる手はずになっているので、リリアさんの考えている様な心配は無い。

 最悪、生死に関わりそうな時は、転送先のもふりんがモフリーナの居る第9番ダンジョンに送り込むことになっているのだ。

 モフリーナの元には、治癒魔法が使える魔族さんを送り込む手筈も整っている。


 どっかのラノベとかの様に、便利なポーションとかがあればいいんだが…

 いや、この世界にあるには治癒薬は、有るには有るんだが、もの凄く高価。

 少なくとも一般市民の月収の数倍が、1回の治療で吹っ飛ぶ。

 なので、魔族さんに頑張って貰うつもりだ。

 悪い奴らが少数種族を害している。

 悪い奴らが善良な人々を苦しめている。

 そう呟いただけで、心優しい魔族さん達は、全面協力を申し出てくれた。

 騙したわけではないけど、ちょっと申し訳ない。

 後で、きちんと報酬は用意しよう…放牧地を広げるとするか…。


「大丈夫。送り先で治療はする予定だから。気にせずどんどん送って欲しい」

 そう伝えると、リリアさんも母さんも納得してくれた。

 サラは…寝てるな…あとで殴っておこう…

「ユズキとユズカは、もう完全に自由。好きに動いてくれ」

 ビシッ! と敬礼するユズカと、小さく頷くユズキ。

 本当は同郷の2人に、人殺しはさせたくないんだが…そうも言ってられない。

 もう2人は、色々な意味で価値観の違う世界に来てしまったのだ。

 我が家の家族にしてもそうなんだが、だからこそ最後にこう言って締めくくる。


「皆、絶対に命を奪う事を躊躇うな! たとえ相手が人であろうと、やってる事は畜生にも劣る奴らだ。だから必ず息の根を止めろ。情けは無用だ!」

『はいっ!』

 全員が力強く返事をした。

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