第514話  地下室で作戦会議?

 俺の屋敷の地下に、どどーんと広がる、大地下室。

 その一角は、サラとリリアさんの愛の巣に改造したわけなのだが、それでも有事の際には、千人以上を避難の為に収容できる程の広さを持つ。

 前世の経験でこの広さを表現すると、一般的な学校の体育館の3倍ぐらいかな。

 地下の密閉された様な空間なので、換気には気を使って創ったのだが、陽の当たらないだだっ広い空間は、やはりちょっと寒い。

 屋敷の敷地からはみ出て、ネス湖の湖底まで一部は広げてるから仕方ないけどな。

 でも、いくら有事の際の避難のために創ったとはいえ、不快な環境では避難生活はただの苦行になってしまう。

 そこでこの地下室には、火と風と水の精霊さんが常駐している。

 彼等は常に室温や湿度を一定に保つべく、この大地下空間を管理してくれているのだ。やはり、精霊さんは万能だ…。

 もちろんおやつの時間には、他の精霊さんときちんと交代をしている。具体的には3交代なのだ。

 おやつは屋敷の塔に設置してある、俺のエネルギーを注入したクリスタルっぽい何かを、ちゅーちゅー吸っている。

 このクリスタルっぽい何かとは、元々は街を守る為のシールド発生装置だったのだが、創ってから一回も出番が無いので、精霊さんのおやつの役割を担っている。

 いや、もちろん今でもシールドを発生させることも出来るんだが、本当に幸運な事にその様な事態が来てないだけだ。

 もしもそんな事態が起きそうだったら、サラかリリアさんが教えてくれるだろう。

 シールド発生の為のエネルギーが足りない様であれば、それらを聞いてから注入すればいいだけなんで、当分は精霊さんのおやつ担当になっている。


 そんな巨大な地下空間に、我が家の全メンバーが集合した。

 ユリアちゃんは次第に重くなる瞼を必死に開いていたが、年齢的にもそろそろ寝る時間なのだろう。コルネちゃんが横に付いているけど、ほとんどユリアちゃんはもたれかかってて、身体に力が入ってない様だ。まあ、寝る子は育つっていうしな。

 その他のメンバーは、輪になって床に広げられた巨大な地図を前にしていたが、実際はそんなに巨大でも無い。

 だって、紙面のほとんどを海が占めている様な地図は見ても無駄なので、俺達の住むこの大陸が描かれた部分だけを並べ、ちょっと離れた所にダンジョン大陸と海が描かれた紙は山積みにしておいた。

 今、本当に必要なのはこの大陸の地図だからね。

 

 さて、この大陸の地図を見ながら、まずは作成者であるナディア達から色々と必要な情報を聞かないと。

 この場に集まったメンバーは、巨大で詳細な地図を前にしてざわついているんで、ちょっと落ち着くまで待ちましょう。

 メリルは王族としての視点から無言で地図を睨んでいるが、こういった情報の取りまとめはマチルダが得意だ。

 ミルシェとミレーラは、グーダイド王国やアーテリオス神国の周辺に興味津々で眺めていた。

 父さんとイネスは、軍を預かる者として、騎士としての視点から、我が国周辺の地理を確認している。

 母さんは…何故か応接セットに座ってお茶を愉しんでいたが…それ、どっから持ってきたん? いや、気にしたら負けだ…。

 

「じゃあ、アルテアン家の内緒の作戦会議を始めたいと思います。まずはナディアさん、アーデさん、アームさん、アーフェンさん、この国を取巻く他国の情報を。旅立った時…2月ほど前の事だから、色々と変わった所もあるだろうけど、その時のでいいから話してもらえるかな」

 巨大で詳細な地図を前に、色々と思考を巡らせていた皆が、ちょっと落ち着いてきた頃合いを見計らって俺は切り出した。

「はい、マスター。まずマスターの居られるグーダイド王国が、ここになります。隣国のアーテリオス神国はこちらです」

 ナディアの指さしたところは、北を12時の位置をして地図を見た時に、ちょうど7~8時に当たる場所が我がグーダイド王国で、それよりも少しだけ中央側にあるのが神国だった。

 自分では真南かもうちょっと東寄りの海沿いだと思ってたんだけどなあ。

「グーダイド王国は、海とこの山脈により他国とは接しておりません。神国とはこの大河を境としています」

 あ、それは知ってた。だから陸の孤島みたいな事になってるんだよね。

 よく、口性無い人々に、僻地とかド田舎とか悪口を言われるのも当然だな。

「そして神国を越えた所にあるのが、この巨大な盆地です」

 神国よりもさらに中心に近い所にあるのが、恐怖の大王と戦い、地底人…じゃなかった、地下に住む人々の居た場所だ。

「そして侵攻してきている暗黒教ダークランド皇国は、こちらになります」

 それは、盆地を挟んでちょうど真逆、時計で言えば2時の方角。

 盆地と暗黒教ダークランド皇国の間には、小さい国が幾つもある。いや、あったと言った方が正確か。

「私達の調査の時には、暗黒教ダークランド皇国とこの巨大盆地の間には、5つの国家が存在しておりました」 

 ふむ…いよいよ戦争に必要な情報か。

 これは心して聞かねば。


「では、我々に近い方から順にお話していきたいと思います」

「うむ。ではこの盆地から少し離れた小国だな。ここも皇国に併呑されたと思っていいだろう。ナディア、この国の簡単な情報を」

 ここに到っては、アホな事を考えてる場合じゃない。真面目に対策を練らねばな。

「はい、マスター。この国は主にネコ系とイヌ系の獣人が国民の9割を占める国であり、総人口は9万人弱です」

 お、ケモ耳王国なのか? あ、いや…真面目に真面目に…獣人だったら、肉体的にかなり高性能なんだろう。

「国の名前は、〔 わんにゃん連合国 〕 です」

 はっ?

「待て! ちょっと待て!」

「この国の主な産業は…」

「だから、ちょっと待って! しれっと無視すんなや、ナディア! 何だそのネーミングは!」

 何故に表情を変えないんだ、ナディア?

「国の名前に関しては、私に責任は御座いません。では、先程の続きですが…」

 

 え? どうして誰も何も言わんの? え? おかしいのは俺なの?? 

 いや、ユズカもユズキも、笑い出したい様だが、さっきまでの真面目な話の雰囲気から、必死に笑いを堪えようと我慢しすぎて変な顔になってる。

 ほら、やっぱりおかしいだろ? 獣人の国でわんにゃん連合国だぞ? 絶対におかしいって! みんな、何でそんなに普通なんだよ! 

 

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