第487話  番外)リリアさんの主張

☆ 番外編を見てくださる皆様へ ☆


* 本編の進行とは何の関係もありません。結構な長さになっておりますので、お時

間のある時にお愉しみくださいませ。


* この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは一切関係ございません。


* 作者の本心でも愚痴でもございません。違うったら違うんだからね!



 それはとある日の午後。

 俺が書類仕事の合間の一休みをしている時だった。

 ソファーでこった肩を解していると、リリアさんが薫り高いお茶を淹れたカップをそっと俺の前のテーブルに置いてくれた。

 そして…それは始まった。

 

「調査の結果、異世界への転生や転移で前世の記憶を持っていた、または思い出した、もしくは覚醒した者は、年間のべ約1,000人を超えます! あくまでも空想上の物語の中ですが!」

 いきなりリリアさんが何か語り始めた。

 しかも前世で言う所のキャリアウーマン風の装束を身に纏い、いつか見たちょっと厳しい目の女教諭風の眼鏡を掛けて。

「はあ…それって、リリアさん調べ?」

 そりゃ、聞きたくもなろう。

「いえ、地球に居る派遣管理局員の調査によるものです」

「へ~…」

 確かに前にも聞いたな、地球の管理局員の話は。

 どうやら有名な漫画家とか作家さんとか芸能人とか、いろんな所に潜んでいると思われるが… 

「で?」

 そう聞きたくなるのも仕方ない事だよね?

「もちろん、ラノベや漫画、アニメなどで重複している人数もあるかと思いますので、あくまでものべ人数です」 

 いや、聞きたい事はそこじゃない。

「なるほど…で?」

「貴方様は、おかしいとは思わないのですか?」

 おかしいとか言われてもなあ…俺も前世の記憶を持ったまま転生しちゃったし。

「そこは少し違いますね」

 こいつ、俺の思考を読みやがったよ!

「いや、どう違うんだよ…一緒だろ?」

 だって前世の記憶を持ってるとか、もう転生・転移物ではデフォじゃん。

「違いは、はっきりしています」

 お?

「ちょっと興味がわいてきたぞ。その違いとは?」

「貴方様は、神と会っていませんし、チートなスキルもありません!」

 うん、そうだけど…局長には会ったよ?

「でも、女神とか神とかに会わないで転生とかする話もあるじゃん」

「ええ、そういった話もありますね。しかし、根本が違うのです」

 よくわからん…

「まず、そもそも貴方様は普通に死んでいますのでリアルです。空想上のお話とは違います。それに、どこぞのラノベの様に、別に神がうっかりしてとか、何らかの選別をしたとかは一切ありませんし、時空の裂け目に落ちたわけでもありません。貴方様は純粋に惨めに惨たらしく間違いなく死んだのです。普通に惨めに惨たらしく車と車の間に挟まれて、口から内臓が飛び出してました。しかも仕事中です。ご愁傷さまでした…ぷっ」

 同じフレーズを繰り返しやがった! 

「笑うな! 確かにそうだけど! 言い方って物を考えろ…よ…あれ? そう言えば、俺って確かに選ばれたわけじゃないよな?」

 確かあの時は…

「気付きましたか? 貴方様は、魂となって輪廻転生システムの割り振りに従って、次の転生先へと進んでいる最中でした」

 そうだそうだ、確かにそうだ!

「転生を待つ列に並んでいた所で、貴方様に前世の記憶が甦ったのです」

 うん、それは間違いない。今でもはっきりと思いだせるな…懐かしい…。

「普通は魂の状態であれば、何の意識もありません。ただシステムの指示する場所へと向かい、ただ黙って転生の列に並ぶだけなのです」

 確かにあの時は、ただ光る球が見渡す限り整然と並んでるだけだったな。

 耳が痛くなるかってぐらいに静かだった記憶がある…耳がどこにあったのか知らんけど。

「そして転生の順番が来たら、システムによって前世の記憶はその一切が消去されて、機械的に次の肉体へと宿されるのです」

「へ~そうなんだ」

「なので、貴方様の場合は、非常に珍しい超レアケースです! 珍獣です!」

「なるほど…」

 超レアケースね。確かに、言われてもいれば納得だな。珍獣は嫌だけど。

「そもそもですが、魂が持つ潜在的なエネルギーが転生に足りない場合は、システムが多少は融通する事もあります。貴方様は有り余るほど持ってましたが」

 え?

「そんな事もできるの?」

 ってか、話が飛んだ? 急に話が変わった気がするんだが?

「ええ、勿論です。当然ではありますが、エネルギーは利息付きで回収します。年率32.7%で」

 おまっ! それは!

「それは明らかにグレーゾーンを超えて真っ黒だろ! 過払いエネルギー分を請求されたらどうすんだよ!」

「誰がしますか?」

 ん? 誰って、そりゃ…借りた全ての転生者?

「どこへ?」

「…管理局?」

「どうやって?」

「あ…!」

 そうだ、一般人には管理局への連絡方法が無い!

「ご理解いただけましたか? 転生者達は記憶がありません。つまりは、覚えてないのです。そもそも回収は本人も知らない所で行われます。だいたい、借金している奴らには、管理局との連絡手段もありません。なので、どんなに有能な弁護士であろうと、管理局への連絡は不可です。つまり、陰で金利取り放題でウハウハなのです! 濡れ手に粟とはこの事です!」

「……悪徳金融会社より酷ぇ。知らないうちに搾取されてるのか…」

「まあ、死ぬまでには返済できます。そして次の転生でもまた借金をする…借金地獄に嵌ったら最後、延々と繰り返すのです。げっへっへ…こりゃ、笑いが止まりませんな、旦那」

 めっちゃいい笑顔で親指と人差し指で指を輪っか造ってるけど、それ大阪ミナミの高利貸しがやるポーズだからな。

 それと…

「誰が旦那か!」

 そっか~あの輪廻転生システムとか管理局員のお給料って、きっとこのエネルギーを(販売した物?)なんだろうなあ。


 ところで…

「それでリリアさん。最初に話してた転生者がどうとかって言うのは?」

 話をふりだしに戻さないと、いつまでもグダグダだ。

「ああ、いえ…地球の人は転生物が好きだなあ~って話です」

「あ、それは俺にもよく分かる! 俺も好きだった!」

 うんうん、あれは読んでて楽しいんだよな。

 まあ、だんだん転生した意味とかチートの内容とかが、めっちゃ作者のご都合主義で変わっちゃうんだけどさ。

 最後まで貫き通して欲しいもんだよな~特にタイトルの意味って奴を。

「ええ、そうでしょうとも。もちろん、色々なチート物、追放物、ざまあ物、悪役令嬢物、成り上がり物、ハーレム物。最近ではゲーム内に転生や異種族転生物なども大人気ですし」

「ああ、俺も成り上がり物とかよく読んでたよ」

「そう…ですから私は主張したいのです! 言いたい事があるのです!」

 これは…この流れにのるべきなのか? 

「な~~に~~?」

 いや、学校に行きたいわけじゃ無いけど。

「本当の転生・転移は、そんなに甘くないと、私は声を大にして主張します! 特にハーレム物など、モテない男がシコシコと妄想掻き立てながら書いてるだけです。御覧なさい! 日々奥様方に搾取されて干からびる寸前の、目の前の悲しい男を!」

「やかましーーーーーわ!」 

 話が全然進まねえ!

「まあ、それは良いのです」

「転生物が大人気だって事なのか? それとも、搾取されて干からびる俺の事か? なあ、どっちが良いんだ?」

「実はですね…」

「せめてどっちかはっきりしろーーー!」

 ぜぇはぁぜぇはぁ…息切れたわ!

「斯様に、異世界転生や転移物が巷に溢れておりますが、作者や原作者または製作サイドの方々というのは、なんと…」

 斯様か然様かわからんが、話の続きが気になるな… 

「ごくりっ…なんと?」

 溜めに溜めたリリアさんが、大きく息を吸うと、真剣な顔で俺を見つめて言った。

「異世界に行った事が無いんです!」

 がくっ!

「当たり前だ、ぼけーーー!」

「何故ですか? 異世界の事を知らずして、想像だけであの様な物語を紡ぐ事が出来る方々なんですよ? これはもの凄い事だとは思いませんか?」

 いや、まあ…

「凄いとは思うけどな。もしも原作者とかが本当に異世界に行った事があるとしてだ…どうやって帰って来たんだ? 帰って来なきゃ作品は創れないだろう?」

 俺、何の説明させられてるんだろ…

「むむむ…確かに貴方様の仰る通りですね…これは盲点でした!」

 こいつ、意外と抜けてるな。

「リリアさんがそう言うって事は、もしかして本当に異世界の話として、ちゃんと成立してんの?」

「いえ、してませんけど?」

 おい…

「そもそも、異世界転生とか転移が、あんなにしょっちゅう起きるわけ無いじゃないですか。あのままだったら、近いうちに大規模な誘拐事件とか失踪事件とか新聞にデカデカと載っちゃって、世間を大いに賑わせていますよ」

 まあ、1人2人なら別として、クラス丸ごととかあったもんなあ。

「そんなニュース見たことあります?」

「いや、無い」

 もしかしてあったっけ? いや、見たことは無かったはずだ…新聞、とってなかったし、ネットニュースしか見てないけど。

「でしょう? そもそも日本からばっかり転移とか転生って偏り過ぎですからね」

 それは俺も思った…ってか、これって創作物の中の話じゃ無かったっけ?

「人口比率的で考えたら、中国とかインドなんて日本の10倍は異世界行って無きゃ変ですよ」

 いや、まあ…それはそうなんだけど…

「確かに…」

「なのに、その様な話は一切聞いた事がありません! これはゆゆしき問題です!」

 どこがゆゆしき問題かはわかんないけど…、何度も言うけど創作物の中だろ?

「つまり、何が言いたいんだ?」

 結論が見えないぞ?

「ラノベ作家の育成が世界的に遅れている、もしくは日本だけがやたらと文化的に進んでいるという事です」

「うん?」

「そのせいで、日本人が地球から日々異世界へと送られている現状を嘆いているのです。空想上ですが」

 もう意味不明だな…この話って、どこに着地すんだろ…

「そして、空想上の異世界は日本人で溢れかえるのです! これはラノベ作家の99.99%を抹殺しても良いかもしれない事案です!」

「何故にラノベ作家限定なんだよ…しかも無駄にフォーナインって…」

「そうしないと、いつかはどこかで見た様な設定のラノベだらけになってしまいます! 某小説投稿サイトを御覧なさい! 長ったらしい説明調のタイトルばっかりじゃないですか! しかも設定は成り上がりと追放とザマアとか、もうパクリかクリソツな話だらけですよ! しかもそんな作品ばっかりが上位です! この現状をおかしいと感じませんか? どうなんですか?」

「あ、はい…まあ、感じます…」

「そうでしょうそうでしょう! ですから、私は思うのです! ここでサイトも小説も漫画もアニメも、一度全て綺麗にリセットすべきだと! 原作者や作家や製作サイドを、練りに練った町内会の福引で1等賞が当たった事にして、全員まとめて異世界旅行に送り出しちゃいましょう! 地球上から一掃すればきっと新たな文化が芽生えるはずです! そう、これはラノベ革命なのです! そうしなければ文化が停滞するのです! いや、停滞だけならばまだ手痛いだけで済みます…私、上手いこと言いましたね? いや、そうじゃ無くて、廃退する可能性もあるのです! そうなってしまったら、地球のエネルギー量が…………………」

 なんか、リリアさんが1人で語り始めた…リアルと空想上がごっちゃになってる気がしないでもないし、言ってる内容も意味不明すぎるんだが…

 っと、呆然とリリアさんを見つめる俺の前に、サラがお茶の入ったカップを置いてくれた。


「大河さん、何を真面目にリリアの話に付き合ってるんですか?」

「いや、ほら…何だか真面目そうな話題だったから…」

 ついつい付き合ってみたんだけど。

「たま~にリリアはぶっ壊れますから、真面目に相手したら疲れるだけですよ?」

 確かに…

「何であんなにリリアさんは荒れてんの?」

「いやぁ…実は大河さんのこれまでの 一挙手一投足から思考と言動に到るまでの全てを管理局からダウンロードしまして」

 俺の半生が丸裸かよ…まあ今はいいか…

「それを文章に起こして、ネット小説投稿サイトに投稿したんです」

「はっ?」

 何してんだ、あのド変態は…

「リアル異世界物キタコレ! っと、勇んで投稿したにも関わらず、PVが伸び悩んでいる様で…それでランキングトップの作品群を見て、発作が出た様です」

 ん?

「ちょっと待とうか! 俺の半生が書かれた小説のPVが伸びないと!?」

「ええ、はっきりいって面白くないですからね」  

 こいつ、はっきり言う奴だな。確かに山も谷も無い平々凡々な日々だけど…

「こんなもんですよ、リアル異世界なんて言うものは。面白可笑しい毎日や事件に頻繁に遭遇なんて無いですから。ほとんどの人が普通の日々を送ってるんですから。それよりも、スルースキルを磨かなきゃリリアとは付き合えませんよ?」

  そりゃ、一体どういう意味かな?

「独演会はじめたリリアは良いとして、お仕事が山盛り残ってますので」

 そう言って、サラが見たのは、俺の執務机に山積みとなった書類。

「この状態のリリアさんをほっといていいの?」

「構いませんよ~定期的な発作ですから。多分、1時間もすれば何を力説してたのかすら忘れて、ケロッと元に戻ってますから」

 そっか…んじゃ、おれは仕事でもしようかな。

「あ~何かめっちゃ肩こった!」

「そうですか。大河さん…私がエロエロとマッサージしてあげましょうか?」

 今度はこいつか!

「のーせんきゅー! さあ、サラは無視して仕事だ仕事!」

「そんな殺生な~大河さ~ん! ちょっとだけ、先っぽだけでいいですから~!」

「何があっても拒絶する! ってか、マッサージじゃなかったのかよ!」

 いつものサラとのお馬鹿なやり取りをしつつ、俺は執務机に向かった。

 まとわりつくサラを手で追い払いつつ、俺はペンを握って書類との格闘を再開したのであった。


「そうなのです! この世からラノベも消し去らなければならないのです! これが第二の文明開化の始まりです! それこそが第三次世界大戦を回避する唯一の方策であると、世界中の民は気付かねばならないのです! きっとこの事態もアインシュタインは予想して数式化していたはずです…それはとても美しい数式で…」

 リリアさんの独演会は、まだ続いていた。

 いや、アインシュタインの数式は気にはなるが…下手に口を挟むと、きっと抜け出せない泥沼にどっぷりつかる事になりそうだから、俺は無言でお仕事に集中する事にした。

「大体、毎度毎度事件が起こってお涙頂戴な展開が起きる日常っておかしいじゃないですか! そんなに事件に遭遇するのが異世界物のデフォルトなんですか? 探偵物で毎回殺人事件に遭遇する少年探偵も、知らないうちに異世界か異次元の穴にでも落っこちてるんじゃないですか? もう異世界物だけで全ての作品をカヴァー出来ちゃう気がします! 最近は歴史物やスポ根物の要素まで取り入れた作品も出回るし、もうこの世界の全ての書籍が異世界物だけでも問題ないのでは? というか、必ず登場する巨乳美少女って何ですか!? 絵師さんのデザインのおかげで人気出てるだけでしょう! そもそも美少女キャラの装備や服装が露出過多なんですよ! ビキニアーマーなんて、実用性皆無じゃないですか! あれで街中を歩くって、単なる露出狂ですよね? 史実に基づけば、ボディーラインに沿った形にはなっていても、あんなに露出が多い鎧は防具としてあり得ないですよ! 大体ですね、戦闘にミニスカートって馬鹿でしょ! 魔法使いの少女が防御力捨ててどうすんですか! 女の事を知りもしない引きこもりが想像だけでしこしこ書いた様な物です! そんなクソみたいな物語でも絵師さんが可愛いイラスト付ければ、これまたモテない引きこもりが有り難がって人気が出るって何ですか!? 製作側の買わせたろ策にずっぽし嵌ってるじゃないですか! こんな見え見えの策に乗せられる馬鹿のおかげでスパイラルが発生して…………」

 ますますヒートアップするリリアさんだが、聞かなかった事にしよう。

 色々と俺にもダメージが大きい気がする。

「少~しだけ、味見ならどうですか? 青い果実の匂いを嗅ぐだけでも…」

 ウザいサラの攻撃を往なしながら、こうして俺の穏やか(?)な午後は過ぎて行ったのであった。

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