第477話  肩こった!

「もういいや…んじゃ、さっさと起こそうか」

 もう何とでも好きに言うがいいさ。どうせ俺なんて、その程度の男なのさ…はははは…はぁ。

「大河さん、大河さん! 起こすのは良いんですが、名前は決めたんですか!? 私はまだ聞いてませんよ!」

 さっきまでのたうち回っていたサラが、急に元気よく飛び起きて、唾を飛ばしながら俺に詰め寄った。

「そりゃ言ってないからな。来る前に父さん達や国王陛下に相談して決めてきたぞ」

 ここい来る前に、隙間時間でちゃんと報告と相談をしたのだ。報連相をきちんと出来る俺って偉い。

「何で教えてくれないんですかーー! 私と大河さんの仲じゃないですかーー!」

「どんな仲だよ…はいはい、悪かった悪かった」

 もう面倒くさい。

「あ、今…このサラちゃんを面倒くさいとか思ったでしょう?」

「うん、思った」

「ひ、否定もせずに、即座に肯定した…がーーーーーーーーーーーーーん!」

 マジで面倒くさい。勝手に落ち込ませておこう。

「んじゃま、さっきまでの条件で良いから目覚めさせてくれるかな、リリアさん」

「了解しました…けど、あの地面にめり込みそうなぐらい落ち込んだサラは、ほっといて良いんですか?」

 ちょっと真面目に心配してるリリアさんだけど、心の中では面白がってるよね? 

「いいのいいの。あんなアホは無視して作業を進めましょう」

 サラを視界にあえて入れない様にするのは、結構難しいな。

「分りました。では、名前の部分はブランクにして、まずは被験者の肉体と精神の融合から行いましょう。サラの脳と管理局の演算装置を強制的にリンクして、この生命維持装置に情報を、これまた強制的にインストールしてから被験者にロードします」

 被験者って言っちゃったよ、この人!

 しかも落ち込むサラの脳を無理やり使うって、どんだけ鬼畜なんだ…あ、サラが頭抱えてジタバタし始めた。

「あ、たま…が、急に……割れるーーーまたかーーーリリアーーー!」

「サラ、ちょっとうるさいです。ほんの5分ほどの辛抱です」

 リリアさん、怖いよ!

 5分間の激痛に耐えるのはかなりのもんだと思います…俺。

「では、リンク開始! 続いて、記憶情報と生命活動その他諸々に関する全情報のダウンロードを実行。これもついでに、サラの脳に無理やり保存」

 あ、もうサラは言葉も出ないみたい。

 口から何か変な臭いのする液体が逆流してきてる気がする。

 目と鼻の穴と耳からも、赤い何か…まさか血なのか!? おい、マジで大丈夫か?

「…ロードおよび保存は完了っと。生命維持装置へのアクセス開始。被験者とのリンクの確立を確認。サラの脳に圧縮保存した情報をコピー。情報を解凍…完了」

 とか言ってるうちに、終わったのかな?

「被験者の持つ情報との統合を開始」

 あ、まだだった。

「被験者の各部位への情報伝達の確認…完了。初期設定は覚醒後に続けて実行予定なので保留。情報統合まで残り時間233分35秒。覚醒ミッション完了」

 あ、今度こそ終わった…かな? 目覚めるまで4時間弱かかるのか。長いんだか短いんだか…

「これで全て終了です。情報や記憶の統合は、急ぐと色々と齟齬が生じる可能性があります。また名前に関しましては、覚醒後に刷り込みを行います。情報の統合には管理局の演算装置の計算による最適な時間を割り出して設定しましたので、しばしお待ちください」

「あ、うん。急いては事を仕損じるって言うしね。焦らず待つ事にするよ」

 リリアさん、あっち見なくてもいいの?

「ああ、サラの事ですか? あんなの唾でも付けときゃ治ります」

 クールな顔して滅茶苦茶な事言ってるよ、この人!

「目覚めるまで、あちらでゆっくりとお茶でも飲みましょう。モフリーナさん、お茶はありますか?」

「ええ…もちろん用意してございます」

 黙って事の成り行きを見守っていたモフリーナだが、さすがにあの状態のサラを見て顔を青くしてたんだが、

「では、私は少しだけ渋いお茶にしてください。あ、お茶請けは甘い物が良いです。疲れた脳には甘い物が一番といいますし」

 首をコキコキと鳴らしながら、リリアさんは後ろも振り返らず、部屋の遥か彼方にある応接セットを目指し歩きだした。

 もちろん俺とモフリーナは、リリアさんと死体の様に地面に横たわるサラを交互に見ながら、

「「本当にほっといて良いんだろうか(でしょうか)?」」

 同時に呟くのであった。

「いきてまちゅか?」

 こら! もふりんも、つんつんするんじゃありません!

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