第446話  仮称・火御華さん(26歳)

 恐怖の大王の欠片を宿した、仮称・火御華さん(26歳)は、蛇行する河川の畔で小石を拾っていた。

 やがて何か納得したのか小さく頷くと、河川に向かってアンダースローで…投げるを繰り返していた。

 何してんだ?

 投げた石は、水面をピョンピョンと水を切って跳ねるのもあれば、1,2回で跳ねた後、ドボンと水中に沈む石もある。

 跳ねた回数で、もの凄く一喜一憂している様に見えるのだが…

「な、なあ…サラ。あれって何してんだ?」

 横でポカーンと口を開けたままモニターを見ていた間抜け顔なサラに訊ねてみたのだが、

「遊んでる?」

 サラにもその行動の意図が理解できないらしい。

「あくまでも私見ですが、あの仮称・火御華は幼児退行とまでは言いませんが、精神的に子供化している様ですね」

 リリアさんが、そう分析した。

「どうやら恐怖の大王の欠片が、仮称・火御華の意識や思考を乗っ取りやすくするために、精神年齢を退行させているのではないかと思います。子供の思考であれば、誘導や洗脳がしやすくなりますからね」

 な、なるほど。

「という事は、まだ恐怖の大王の欠片は、身体に馴染んでないって事? それなら上手く欠片を取り出したら…普通の人に戻ったりするんじゃね?」

 外科的な処置が必要かも知れないけど…何とか出来ないかな?

「いえ、すでにあの仮称・火御華の身体と一体化してますので、分離は不可能です。仮称・火御華を人として残すのであれば、可能性があるのは…新しい身体に、意識や思考をコピーして移す事ぐらいでしょうか」

 リリアさん、そろそろ仮称取ってあげようよ。ってか、そんな事が出来るの? 

「幾らか記憶や知識が失われる恐れがありますので、完全に同一人物かと言われると微妙ですけれども」

 だったら、他の危険生物も何とか出来るんじゃね? 無駄に人殺しはしたくないし。

「他の転移者には無理です。精神操作が進んでいる火御華だからこそ出来る裏技的な物ですね」

「なるほど、よくわからん。んで、どうやって新しい身体を造るんだ? モフリーナ、出来る?」

 横でじっと話を聞いていたモフリーナに話を振ってみたが、

「出来なくはないのですが、それだとどうしても私の遺伝子情報が混ざってしまいますので、ダンジョンの魔物化します」  

 そ、そうか…なるほど。

「一応、更に確認なんだが、管理局長はあいつの存在を知ってるんだよな?」

「ええ。プロフィールをここに焼き付けたぐらいですから、当然ですね。もうゲロは嫌です」

 自分の頭を指さし、嫌そうな顔であの日の事を思い出しながら、サラが答えた。

「そうだよな…んじゃリリアさん、管理局で火御華のボディーって造れない? ついでに意識っていうか精神のコピーも。サラの時にも出来たんだから、もしかして…」

 淡い期待を込めてリリアさんに向かってそう言ってみると、

「ええ、可能ですよ。というか、簡単です。ただしその為には、火御華を捕縛しなければなりません。あと、完全に恐怖の大王に精神を乗っ取られる前でなければなりませんね」

 実に簡単に答えてくれた。

「あのまま精神年齢が幼児以下まで退行すれば、すぐにでも浸食が始まるかと思います。特に精神的な負担は退行を早める可能性がありますので、くれぐれも注意してください」

 ふむ…対応策と解決方法が見えてきたな。

「って事で、モフリーナよ。仮称が取れた火御華をすぐに確保だ! 出来れば怖がらせない様にして、もしもの場合に備えて、他の転移者とは別に隔離用のセーフティーゾーンも用意してくれ」

 急ぎ、モフリーナに向かい指示を出す。

「了解しました」

「このダンジョン大陸には一度に大量の転移者が来てるんで、この星で一番エネルギーの量的には多いというか濃度が高い可能性がある。きっと恐怖の大王が火御華の意識や身体を乗っ取ったら、すぐにエネルギーが溜まるだろう。そうなったらまた戦いが始まってしまうから、その前にケリをつけるぞ!」

 あとは、

「って事で、火御華の新しいボディーと、精神体…アストラル体? の移植って言うのかな? の作業は、リリアさんに任せる。恐怖の大王の影響を完全に取り除いて、移す事って可能?」

「管理局の超高速演算装置とリンクすれば可能です。お任せください」

 輪廻転生管理局の、クソッたれなミスで起きたシステムバグのせいなんだから、多少は管理局にも協力してもらうぞ!


「ちなみに、大河さんにも火御華の新ボディーを創れますよ?」

 まさか、ガチャ玉で?

「この世界には無い物にする必要があるので、完全なコピーは無理ですけど。すでに火御華はこの世界に存在してますし」

 ガチャ玉での創造の時のルールの中にあったな、そんなの…

「どうします?」

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