第435話  神からの注意事項

 デス・ゲームなんて格好つけてはみたものの、実際にはそんな物騒な事は始まらない。

 無駄に人を殺したいなんて考えは、欠片すら持ち合わせていない。

 あくまでも俺達の住む大陸や、この世界自体にとって害悪と見做された場合のみ、全力で叩き潰すというだけの事。

 なので、きちんと見極め期間を設けているのだが、害悪だと見做した者には、一切の躊躇なくこの世から消えてもらうつもりだ。

 この殺伐とした俺を見せたくないというのが、嫁達を連れて来る事が出来なかった理由の1つ。

 そしてもう一つは…


『世界から来た者達よ。我は水と生命の神、ネスである』

 ダンジョン大陸に乱立するダンジョンの塔から、空に巨大なネスの像が浮かび上がり、滔々と語り始める。

『皆が己の意思とは無関係にこの世界へと飛ばされて来た事、誠に不憫なれど、我には元の世界に戻す術はない』

 まずは現実を突きつけておこう。

 モニターに映る人々は、何やらわめいたりしている様だが、いちいち構っていられない。

『然るに、この世界で生きるしかない其方らに、この世界で生きる為に最も大事な事を伝えよう。一度しか言わぬし、質問も受け付けぬので、心して聞け』

 ん~~まだモニターの中では騒いでる奴がいるなあ…あと、めっちゃワクワクしてるのも居るけど…あれって日本人じゃね?

 もしかして『異世界転移きたーーー!』とか、『チート無双!』とか思ってるんじゃないだろうな? 

 そんなラノベやゲーム感覚だと、即死だぞ? 騒いでないで、よく聞けよ。

『この世界はダンジョン世界である。この広大な大地の全てがダンジョンだという事だ。其方たちには、このダンジョンを攻略してもらう事となる。このダンジョン攻略にあたって、神の加護は一切存在しない。己の力のみで己の生をつかみ取るのだ。勧めはしないが、幾人かで徒党を組み事も認めよう』

 ここまでの放送で、黙ってじっと聞く奴、未だに騒ぎまくる奴、泣き崩れる奴など、様々な反応があった。

 泣いてるのは女(推定女も含む)が多い感じ。騒いでるのも、チートだ魔法だスキルだとファンタジー脳を持った奴と、訳も分からず錯乱状態っぽい奴に別れる感じかな…あ、でも背中に仁王の絵を背負った奴は、違うベクトルの怒りっぽい騒ぎかただな。

『この大陸の河川や池や湖などの水は、全て飲用可能であるが、食料は植物の果実や倒した魔物がドロップする物しかない。また、ありとあらゆる場所に魔物は存在している。現在、其の方らが魔物に襲われていないのは、其の方らの存在が、この世界でまだ確立されていないからである。太陽が天頂に来る時、其の方らのこの世界での存在が確立されるであろう。つまり、それ以降は魔物に襲われる事もあるということである』

 実際は、モフリーナともふりんが、魔物達に待てをしているだけなんだけどね。

『魔物を倒さねば食料は手に入らぬ。この地上を生存圏とする魔物達は、比較的弱い魔物が多い。しかし、それらは満足な量の食料とはならない事を覚えておくが良い。十分な食料を手に入れようと思うのであれば、地下か空高く聳える塔に巣食う魔物を倒さねばならない』

 おや? 急にモニターの中の人達が大人しくなったな…何でだろ?

『そして、其方たちがこのダンジョン大陸を完全に攻略する事が出来たのであれば、其の方らの存在していた世界の神が、元の世界に戻す事も考慮すると約束をしてくれた事も、覚えておくが良い』

 ハイ、大嘘です。実際には、何があっても戻れません。死んで輪廻転生の輪に戻れたら、もしかしたら元の世界に生れるかもしれないけどね。ま、考慮するだけだから、大嘘とも言い切れないか…考慮した結果、却下です…でも良いわけだしな。

『魔物のドロップ品には食料の他、衣類、生活用品、武器、防具、その他色々な物がある。生きる為には、戦うしかないと心得よ。また、其の方らで争うのも自由ではあるが、相手を死傷せしめたる様な行為は、神罰が下る事も覚えておくように』

 転移者同士の殺し合いは、俺の望むところでは無い。

 特に女性を寄って集って襲うなんて無法は、絶対に許さない。即、魔物の大量投入で咎人には死を与える。

『互いに助け合い生き残るか、独りで戦うかは自由である』

 その辺は好きにしてね。

『さて、皆が我の話を理解した物として、話を続ける。先にも述べた様に、この地は全てがダンジョンである。まずは高く聳える塔を目指すが良い。そこにこのダンジョンの攻略の手がかりがあろう。また地上1階層には、皆が安心して休める様に個室が用意してある。その部屋がこの世界で其の方らが最初に手に入れる事が出来るセーフティーゾーンである』

 ちゃ~んと、ビジネスホテルのシングルルームっぽいのをご用意させてもらいましたので、どうぞご利用ください。

『この"ダンジョン世界"で気を付けねばならぬ事が書かれた、迷宮世界における規則書も置いてあるので、熟読しておく事をお勧めする。この世界の決まり事は、そこにかかれている物が全てであり、我が其の方らに与える事が出来るのも、それが全てである』

 チートも加護も無いよ~って意味だけど、理解できるかな?

『尚、其の方らの相互理解を深める事が出来る様、言葉だけは転移してきた如何なる種族であろうとも通じる様にだけは、其の方らの元の世界の神がしておるようだ。それをどう生かすかは、其の方達次第という事となる』

 エイリ〇ンとかと話が出来ても困るかもしれないけど…

『我の顕現も、そろそろ終わりの刻となった。最後にこの厳しい世界で生きて行く其の方らに、この言葉を贈ろう。焦るな、怒るな、威張るな、腐るな、負けるな。さすれば自ずと未来は開けるであろう…』

 空に浮かんだネスの像は、ゆっくりと霞んで行き、やがて空と一体となる様にして消えた。

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