第425話  恐怖のずんどこ

「そんなに怖がらなくても大丈夫だよ。よく見てみろって、こいつら可愛いじゃん」

 俺の言葉に照れたのか、テーブルの上でぐねぐね身を捩る、イノセント型モンスター軍団達。

「ちゃんと紹介するから、こっちゃ来てみ」

 ちょいちょいと手招きすると、漸く皆がテーブルの周りに集まって来た。

「んじゃ紹介するね。彼(?)が蠅型魔物のベルゼ君。彼は蚊型魔物のモスキー君。蝶型魔物は、バタフリャー君。蛾型魔物は、モスラーヤ君、蟻型の魔物のアントン君に、最後は蜘蛛型魔物のアサグモ君。ほら、挨拶挨拶」

 全員の紹介が終わると、並んで嫁~ず及びユズユズにペコリと挨拶をする魔物達。

 うん、やっぱ可愛いわ。

「た、確かによく見ると可愛い…かも」

 おお、メリルも分ってくれたか。

「でもちょっと大きくないですか?」

「うん、ミルシェのいう通り、ちょっとだけ大きくしてるんだよ」

 サイズ的には倍ぐらいかなあ。

「どうして…大きくしたのですか?」

「それはね、あまりに小さいと活動範囲が狭くなりすぎつからなんだよ、ミレーラ君」

 なるほど~と感心した顔で、マジマジと虫達を見つめるミレーラ。

「それで、この魔物は強いんですか?」

 やっぱイネスは強い弱いが知りたいのか…脳筋だなあ。

「いんや、全然弱い!」

「え? それでは、彼等は何が出来るんですか?」

 さすが嫁~ずの情報収集担当マチルダ。詳しく知りたいとな? 良かろう、説明して進ぜよう。

「では彼等の能力を紹介しよう!」


 蠅型魔物のベルゼ君は、敵と認識した者の周囲を飛び回りイラつかせる。あと、情報収集担当。

 蚊型魔物のモスキー君は、先に説明したんで省略。

 蝶型魔物のバタフリャー君は、優雅に飛んで敵の油断を誘う。あと、敵の幻惑担当。

 蛾型魔物のモスラーヤ君は、鱗粉を振りまき、敵を不愉快にさせる。あと、夜間監視担当。

 蟻型の魔物のアントン君は、大軍で敵の食料を食い散らかす。あと、輸送担当。

 蜘蛛型魔物のアサグモ君は、敵の顔とかに蜘蛛の巣をくっ付けて何だこりゃ! と言わせる。あと、虫型魔物の指揮担当。

 そしてここには居ない、最悪の嫌がらせ担当の"虫"もまだ複数いるのだが、きっと全員にひかれるのは間違いないなので、内緒にしておく。


 俺の説明を聞いた一同は、もの凄く微妙な顔で虫達と俺の顔を見た。

「伯爵様、1つ聞いてもいいですか?」

「ん? どうしたユズキ」

 今までじっと黙ってたユズキからの質問であれば、答えるのも吝かではないかもしれない様な気がしないでも無い。

「結局は、敵対者への嫌がらせが、虫達の役割なのですか?」

「その通り! と言いたい所ではあるが、もちろん本当の役割は他にあるよ。モスキ―君みたいにね…(完全な嫌がらせ担当も造っているけど…)」

 その俺の回答を聞いたユズキは、

「すると、蟻だと蟻酸で敵を攻撃したり、蛾や蝶だと鱗粉に麻痺とか毒の効果があったり、蠅とか蚊は疫病を媒介したり、蜘蛛だったら敵の捕縛とか…いや、まさかそんな単純じゃないですよねえ。はっ! まさか自爆攻撃とか!?」

「……………」

 ユズキ…こいつ…

「え? 伯爵様、ユズキの言った事、当たってる?」

 ユズカよ、嬉しそうに言うな!

「…ほぼ正解…」

 くっそーーーー!

『え? 本当に!?』

「ホントのホントだよ! 最終手段として、自爆攻撃もあるよ! どうせ俺は単純だよ!」  

 ぷっ…って、誰だ、今笑った奴は!

 いいよいいよ! もう泣くからな! 泣いちゃうからな!

「いえ、…私は、びっくりしましたよ?」

 メリルよ、口元が笑ってるぞ。慰めてくれるなら、表情を何とかしてからにして欲しい。

 良いんだ、単純でも…現在すでに各イノセント型モンスターは、数億匹に達しているし、まだまだ増える予定だ。

 この大陸にやって来た奴らを、すでに恐怖のずんどこ…じゃない、どん底に叩き落とす事も可能な数なんだからな。


 いくら笑われようと、馬鹿にされようと、この大陸で全部の始末を、俺はつけるつもりだ。

 もしも転移者が俺達の住む大陸に来ようと企んだ時は、このイノセント型モンスター全員が転移者に張り付いて確実に息の根を止める事になっている。

 もし俺達に敵対せず、なお且つ仲良くしたいと望む性格の良い奴がいれば、もちろんそんな手段は取らない。

 そういう奴は保護して、ちゃんと俺達の住む大陸にご招待するつもりだ。

 だが敵対するのであれば容赦はしない。

 俺がずっと昔に誓った様に、俺と俺の家族、大切な物を護るためなら、何だってやってやる! 人道に外れようとも構わない。この手を血に染める事になろうとも、躊躇ったりはしない。

 だからこいつらをモフリーナに造らせたんだ。

 もちろん、更なる能力も持ってはいるし、更に恐ろしいイノセント型モンスターも控えてはいるが…見せたり聞かせるべきではないだろう。

 どこかのB級パニック映画の様な事になると、色々と後が面倒だし。

 

 ま、これで転移者を受け入れる準備は整った。

 後はこの大陸を撤退して、モフリーナと共に遠い俺達の住む街から、高みの見物でもしましょうかね。

『高みの見物ですか…』

 そうだぞ~サラ! 前線に出てドンパチなんて面倒だからな。

『それにあの例の"虫"は、完全に嫌がらせですわよね?』

 もちろんですとも! リリアさんの言う通り!

『大河さんは、いい性格してますね』

 だろ? もっと褒めてくれてもいいんだぞ、サラ。

『サラは褒めてるわけじゃ無いと思いますが…』

 ふっ…そんな事は分かってるさ、リリアさん。

『『やっぱいい性格してるよ、あんたは!』』

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