第426話  I'll be back 

「んじゃま、この大陸でやる事はやったから、俺達の家に帰ろっか」

 俺の宣言に、皆がきゃいきゃい喜んだ。

 この大陸での俺の仕事は、確かに大まかには完了した。後は転移者達の動向次第といったところか。

 実際の所、転移者達と直接対決は最終手段としているので、これ以上はモフリーナに任せるしかないのだが。

「まあ、帰ってもモフリーナの転移ですぐに来れるしね。大勢の神の眷属が来る日には、俺もここに戻ってくる予定だから」

 何事も最初が肝心。転移者が来る日には、モフリーナと共に来る予定にしてる。

 ここは、ちょっと格好つけて、サムズアップしながら真っ赤に燃える溶鉱炉に沈みつつ"I'll be back" と言った、未来からやって来たサイボーグの暗殺者的な気分に浸りたい所だな。今度このダンジョン大陸に来た時に使ってみようかな。

 いやいや、ここはやっぱりあの歌が似合う場面か。

 今〇で全てが終わるさ~♪ 〇日で全てが変わる~♪ 今〇で全てが報われる~♪ 〇日で全てが~始まるさ~♪

 く~~~~! あの吠えるフォークシンガーが懐かしい! 今ではただの五月蠅くて面倒なおっさんになってるけど…心に沁みるいい歌だったなあ…


「あの、トール様。その日、私達は?」

 ん? 俺が懐かしい昭和の想い出に浸ってるというのに、どうしたんだ?

「メリルも皆も、当然だけどお留守番。その日の内に戻るから、心配しないで」

 最初だけ色々と仕掛けるけど、長くとどまるつもりはないから、すぐ帰るよん。

「これは…皆さん、緊急嫁会議を開催します! 全員集合!」

 何故か、嫁会議が開催された…メリルの号令で隅っこで何やらゴニョゴニョ話し始めた嫁~ず一同。

 一体、何を話してんだろう? 気になるが、首を突っ込んで良い事なんてある訳ないので、知らん顔しとこう。


「あの巨乳猫耳娘と一日中一緒なんて、危険じゃありません?」

「ええ、メリル。私は子供の時から、あのおっぱい泥棒猫は敵だと思ってました!」

「でもでも…私は、トールさまを信じてます…」

「ミレーラは少し甘いです。ヘタレなトール様は信じられますが、あのモフリーナは信じられません」

「いざとなったら、旦那様でも抵抗するだろう。マチルダは心配し過ぎだ」

「そうは言ってもイネスさん。監視は必要だと思いませんこと?」

「確かにメリルさんのいう通りです。ではこの私、ミルシェが当日お供しましょう」

「なっ! ミルシェさん、抜け駆けは…私もトールさまと一緒に…いたいです」

「そうだぞミルシェ。戦力として私が共をしよう!」

「待ちなさい、イネス! ここは情報収集と戦力分析に長けたこのマチルダが相応しいかと」

「何を言い出すんですかマチルダさん! 第一夫人として、私が同行するのが最も相応しいはずです!」

「そ、それを言うのは反則です! ここは昔からあの泥棒猫の動向を知っている私が最適だと思いますけど!?」

「だ、大丈夫です…私が…ちゃんとトールさまに付いて行きます…から…」

「それはミレーラが一緒に居たいだけでは?」

「それを言うなら…私こそが…」

「いや、私が…」

「私こそ…」

「ここはやはり私が…」

「いえいえ私が…」


 あのぉ…嫁~ずの皆さん、ヒートアップしすぎて声量が…全部聞こえてますけど。

「伯爵様は、奥様方に好かれてますね」

 ユズキがニコニコしながら、俺の横に立ってそう呟いた。呟くってほど小さな声でも無いけど。

「やっだ~柚希ったら~。あなたには私が居るじゃない。ま・さ・か…ハーレムが欲しいとか考えて、な・い・わ・よ・ねぇ~~」

 お茶の乗ったお盆を片手に、何やらドス黒いオーラをまき散らしながら近づいてきたユズカ。怖いんですけど。

 ほれ、隣のユズキもガタガタ震えて…無いな? 何故に余裕顔?

「馬鹿だな~柚夏は。僕が愛してるのは柚夏だけだって。他の女性なんて目に入らないよ」

「もう、柚希ったら…本当に?」

「もちろんさ! 愛してるのは君だけだよ…」

「柚希…私も…」

 何だコレ? 痒! めっちゃ背中が痒い! 砂糖吐きそう!

『私が行くんです!』『いえ、私がついて行くんです!』『私…一緒に行きたいです…』『戦略的にも私が…』『私で決まりだろ!』

 あっちでは喧々諤々の嫁~ず会議。

「あのね、柚希…今夜はいっぱいサービスしてあげる…ね♡」「こんなとこで、恥ずかしいから止めなって…それに、サービスするのは僕の方だよ♡」

 こっちでは転移者組夫婦の2人のラブラブシーンって…。


 こんな時、絶妙なボケをかましてくれるサラとリリアさんは、どこ行った?

『そんな桃色空間に居たら、私の頭の中までショッキングピンク色に染まるじゃないですか! 逃げるに決まってるでしょう!』

 サラ、逃げるなよ! この空気をぶち壊してくれよ!

『サラに同意です。それに私は従順な下僕にしか興味はありませんから。早く帰ってあの娘にご褒美あげないと…』

 リリアさん! 聞き逃せない一言があったぞ? あの娘にご褒美って、誰か毒牙にかけたのかよ!

『毒牙だなんて、酷い言い方ですね。あの娘も悦んでいるというのに』

 喜ぶじゃなく悦ぶって漢字のイントネーションだったぞ! おい、俺の領内に変な性癖を流行らすなよ!


『トール様、是非とも私を同行させてください!』

「柚夏…」「柚希…」

 うっわーーーー! この大混乱を誰か収拾してくれーーーー!

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