第424話  イノセント型モンスター軍団

「あれこそが、このダンジョン最悪にして最強の魔物なのだ!」

「あ、蚊!」 パチンッ!

 自慢げに俺がそう告げた時、ユズカが蚊を叩き潰そうとしていた。

「まてまてまてまて! 潰すな!」

 へっ? って顔で俺をみながら、手の平パッチンを止めないユズカ。

「あれは味方だ! 俺達の血は吸わないから、殺そうとすな!」

 そなの? って顔をしながら、パッチンを止めたユズカ。だが、まだ半信半疑といった顔で、ぷ~~んと飛ぶ蚊を見つめている。

「お~い、こっちゃこ~い」

 俺が人差し指を伸ばすと、その先にちょこんと止まる、モスキート型魔物。

「こいつはこんな姿だが、立派な魔物だ。説明を忘れていたが、この大陸には植物以外には自然の生命は存在しない。一見すると虫や動物に見えるのも、全てダンジョン産の魔物だ。もちろん、この蚊もそう」

 俺の説明を聞いていた一同は、指先の蚊をじ~~っと見つめた。

「あ! よく見たら目が真っ赤!」

 ミルシェがいつもよく見ている蚊との違いを見つけたようだ。

「本当ですわね…それに何となく大きいような…」

 いや、蚊にも種類があるから、大きいのもいるのよ、メリルさん? 

「トール様…叩いたら潰れそうな、この蚊が最強なんですか?」

 ミルシェの疑問はもっともだ。

「そう、最強。確かに戦闘力という点で見たら、コルネちゃんでも叩き潰せるほど弱いよ。けどね、こいつらには特殊能力があるんだ」

「特殊能力とは、一体?」

 何だろう…いつも思うけど、嫁~ずは順番に話す規則でもあるのかな? いや、それはとてもありがたいんだけど…

「それはね、マチルダ。こいつらは、一年中寝ている奴の耳元で、一晩中ぷ~~んと飛んで、安眠を妨害するんだよ」

『………』

 全員、呆れ顔になっている。

「もちろん、それだけじゃ無いぞ? 血を吸って代わりに痒くなる成分をプレゼントするんだよ」

『………』

 あ、皆して俺を馬鹿にしてるだろ?

「それは、普通の蚊と何が違うんです?」

「ふっふっふ…イネスよ、良く聞いてくれた! 普通の蚊と比較して、その不快度合が10倍違うのだ!」

『………』

 何故だ…かなり嫌な部類に入ると思うんだが…

「えっとな、例えば普通の蚊に刺されたとすると、赤くなるのは大きくてもこれぐらいだろ?」

 親指と人差し指で丸を作って皆に見せると、うんうんと頷いた。まあ、当然だな。

「ところが、えっと…例えば腕をこいつらに刺されるとするだろ? そしたら、なんと腕の半分ぐらいが痒くてたまらなくなるんだよ」

 俺の言葉を聞いて、自分が刺された姿を想像したんだろう。もの凄くいやそうな顔をした、一同。

「しかも痒みは10倍長く続く。あ、言い忘れてたけど、血を吸う量も10倍だから」

 あ、今度は俺の指に止まってる蚊から視線を外さずに、一歩下がった。

「もちろん飛ぶスピードも移動距離も寿命も、普通の蚊の10倍あるよ。っていうのが基本性能。本当の目的は、吸った血を集める事なんだ」

『血を集める?』

 驚いた? そうだろうそうだろう!

「そう! 血を集めるの。そんで、その血から敵の複製を大量に作って、敵にぶつけるんだよ。つまり、血を吸われた奴は、自分の複製と戦わなきゃならないってわけ」

『おおー!』

 どうだ、褒めるがいい! 讃えるがいい!

「しかもその複製が倒されても、その戦闘経験を上乗せして強化された改良型がまた造られるから、手に負えなくなる。止めに、ネス様の御力の続く限り何体でも生み出されるから、気が付くと辺り一面、自分の複製が取り囲んでる…とかなる」

 想像してみて欲しい。

 チートを持っている転生者であっても、遺伝子情報を抜き取られ、戦闘経験をかすめ取られ、制限が無く製造数される自分の複製。いつ終わるとも知れない、無限に続く自分の複製軍団と戦わなければならなくなる場面を。怖くて仕方ないだろ?


 もっとも、それすらも表向きの能力と役割なんだが。


「もちろん、機能が制限されているこのモスキート型の魔物だけでは、どんな対策がされるかわからない。だから、ほかのタイプの魔物も多数造っているのだよ。さあ、今ここで披露しよう! 出でよ、イノセント型モンスター軍団!」

 蠅、蚊、蟻、蝶、蛾に蜘蛛型の魔物が、俺達のテーブルにシュタッ! っと登場!

『きゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!』

 女性陣は、一目散に逃げ出しました。

 え? その気持ち悪い? こんなに可愛いのになあ…



 注:作者注:ちなみにインセクトでは無くイノセントなのは、単なるシャレです。インセクトやバグ、つまり昆虫では無く、無垢なタイプ…という意味です。本文でもそのうち解説が出ます。

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