第423話  デチューン

 虫型の魔物。

 皆に見せたモスキート(蚊)型に始まり、フライ(蠅)型、アント(蟻)型、バタフライ(蝶)型、モス(蛾)型、スパイダー(蜘蛛)型、もちろん元となったビー(蜂)型などなど、日本で身近にいる虫などをモデルにした、新型の魔物の開発に成功したのであった。

 この世界のダンジョン内において、ダンジョンマスターに出来ない事は、ほとんど無い。言い換えれば、ダンジョン内ではダンジョンマスターの権限は、時間操作以外ほぼ何でも出来るという事だ。

 俺のクイーンやブレンダーは、ガチャ玉によって創造された疑似生命体であり、本来は遺伝子などという物はその体内に内包しているはずも無かったのだが、躰のごく一部分を切り取りそれを魔物を複製するのと同様に培養して促成成長を促すという一手間をモフリーナが掛けた事によって、ダンジョンの魔物と同じ性質を持つ生命体としてリバイブされた。

 ダンジョンの魔物と同じ性質を与えられ、新たに生まれたクイーン(改)は、当然ながらモフリーナの思うがままにカスタムやチューンナップ出来るのだが、ここで俺がとある提案をしたのだ。

 それは敢てデチューンというかダウングレード化とと言うべきか、とにかく弱く小さくする事により、少量のエネルギーで大量生産するという、今までとは真逆の発想である。

 通常は魔物のチューンやカスタムといえば、当然だがより大きなエネルギーを使って、より強くするために行う物である。

 しかし俺の提案は、姿形や防御・攻撃力は既存の生き物を模して、実物大より少し大きい程度まで小型化、弱体化するという物。

 機能に関しては徹底的に簡略化し、ただ命ぜられたままに行動する。

 この2つの提案を実行した結果、この大陸に虫型魔物が生れたのである。


 【環境改良かえる君】は、環境を変える事は出来ても、新たな生命体を生み出す事が出来なかった。

 緑豊かな大地へと環境が変わったにも関わらず、植物以外の生命が存在しない歪な環境となってしまったこの大陸。

 どうすれば自然な大陸…森に見えるか? 簡単な事だ。適度な生き物を、適度な数だけ配置してやればいい。

 もちろん小動物であれば魔物から創り出せるし、それはモフリーナも考えていた様だったが、その考え方が固すぎた。

 ダンジョンの魔物とはこうあるべき…という、固定観念というか既成概念が邪魔をして、創りだす魔物全てが凶悪な物となってしまった。例えばウサギは良くラノベで見る様な角の生えた魔物だし、魚は全身が刃物で出来た様な鋭い魚。

 そんな強そうな魔物は不要なのだ。いや、要所要所には必要だが、それらが溢れかえる必要はない。

 強者を倒すのが、須らく強者である必要はない、倒した者が強者なのだから。

 禅問答みたいになってしまうが、つまりは最小の力で最大の力を持つ敵を倒せればそれでいいのだ。

 俺のクイーンと兵隊蜂達みたいな物だ。

 この話をした時のモフリーナは懐疑的であったが、計画の全貌を聞いた後は目から鱗といった感じだった。


 俺の予測するチート持ち転移者達の身体能力は、強力なパワー、頑強なボディー、途轍もない防御力、そしてあらゆる事柄に耐性を持っているかもしれない。

 能力として考えられるのは、索敵能力、各種属性の魔法、錬金術などに代表される特殊な技術。

 だが、それらも転移者本人の性格が残虐であるか穏やかであるかによって、発揮できる能力に制限や優劣はあるかもしれないし、あくまでも使う本人に因ってある程度は能力は変わるはずである。

 転移者同士でパーティーを組む事も十分に考えられるが、初めて会った転移者同士ですぐに信頼し合えるとも思えない。

 急造パーティーになるだろうことは誰にでも予測できるし、そうであれば幾らでもつけ入る事が出来る。

 おっと、話が横道に逸れた。

 そんな転移者達であるが、絶対に油断する事などないだろう…と思う。

 全く知らない土地に放り出されて、油断して生き残れるわけがない。

 いや一部では、油断したりパニックになる奴が出るかもしれないが、そいつはその時点で死亡確定だろう。

 そもそもあの管理局長の事だ。

 この大量の転移において、転移者に何らかのアドバイスをしていたっておかしくない。来る奴等も油断などしないだろうが、俺も油断など絶対にしない。


 もし来訪者達が、俺達の世界を壊そうというのであれば、徹底的に叩き潰す! 

 いや、もうはっきりと言おう。そんな奴等は、生かしておくわけにはいかない。

 早々にこの世界からお引き取り願おう。

 そして輪廻転生の輪に戻って、ミジンコからやり直すがいい!


「それで、トール様。あの蚊がどうしたのですか?」

 あ、説明の途中だった…忘れてた!

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