第371話 王城での結婚式⑥
メリル達の宣誓の言葉は、参列者にも大きな衝撃を与えた。
王城の謁見の間で行われる結婚式であり、今回の主役は第四王女のメリルのはずだった。
それが花嫁5人が声を揃えて宣誓するなど、思いもよらない事だった様だ。
もちろん、花嫁のご両親や親族は涙を流して大喜びだったし、ベダム首長に至っては大人げなく声を上げて号泣していた。
お妃様もちょっと驚いたようだが、にこにこ笑っていた。
渋い顔をしていたのは陛下と…多分、この式次第を長い時間かかって練っていた内務卿さんだろうなあ。
兎にも角にも、宣誓の義も終わり、ささっとメイドさんが持ってきたテーブルに置かれた地球で言うところの婚姻届に、俺から順番にサインをしたら、結婚式は一旦終了。
うん、あっさりしてるけどこんなもんだ。
この後は、場所を同じお城の中にある巨大なホールに移し、披露宴的な食事会となる。メイドさんに先導されてしずしずと元来た道を戻るのだが、盛大な拍手の大音響で、ちょっとびびった。
メリルは堂々と胸をはって、ミレーラもしっかりと前を見て、歩調を合わせて一歩一歩出口に向かう。
出口にたどり着いた俺たちは、全員一直線に横並びになり、参列してくれた人々と、壇上の国王陛下夫妻へ、深々と頭を下げてから退場した。
「メリル、聞いて無いよ?」
さっきの宣誓について、メリルに声を掛けると、
「ええ、言ってませんもの。これは皆で決めた事ですから」
にっこりと笑いながらそう言うのだが…いや、もしも陛下が怒ったらどうすんのさ!
「あの…トールさま…もしもお伝えしてたら、陛下に怒られた時…トールさまも怒られてしまいます…」
ミレーラが申し訳なさそうに、
「トール様が、何か言われた時には、私達だけで決めた事ですって言えるように内緒にしてたんです」
ミルシェがやっぱりどや顔で、
「トール様にご迷惑が掛から無い様に、もしもの時は私達だけで責任を負える様に考えました」
マチルダがきっぱりと、
「大丈夫だ、私達5人が揃えば怖い物なんてない!」
イネスが漢前に、そう言った。
出来た嫁だよ、本当に。
「でもな…もうこんな事は無しにしてくれよ。何かするときは、俺を入れて6人だ。6人で考えてやろう。だって、もう夫婦なんだからな」
そう言うと、全員嬉しそうに恥ずかしそうに、
『はい!』
声を揃えて、そう言った。
うん、これで良い。何かあった時に、嫁にだけ責任を取らす? 馬鹿な事を言ってんじゃねーよ!
俺は夫だぞ? 旦那だぞ? 嫁だけを矢面に立たせるなんて出来るか!
本当は、メリルの立場であればやっちゃいけない事だろうに。
隣国からの来賓が首長なんだから、ミレーラと並ぶ所まではきっと陛下も許容範囲だろうけどさ。
ミルシェやマチルダは貴族でも無い単なる平民だし、イネスも良い方は悪いけど下級貴族の子女。
その3人まで同列に扱う様なメリルの今回の行動は、俺的にはもの凄く誇らしいし褒めてあげたいけど、きっと国や陛下の立場からだと問題だったはず。
それでも決行したメリルの器は、俺よりも遥かに大きい。
小市民的考えしか出来ない俺だったら、きっとびびって同じ事は出来なかっただろう。
「本当に出来た嫁達だよ…でも、これからは俺が皆を守るんだ! 全員で幸せになろう!」
こぶしを突き上げて、俺は声を大にして皆に告げた。
『Yes, Of course!』
自動翻訳さん…何故に英語なんだよ? いや、意味はわかるからいいけど…
『そうですか、何でも相談するんですか』『隠し事は何ですか? 言い難い事ですか?』
いきなりどうした、サラ。ちゃんと相談する、いい良人になるぞ?
リリアさん…それは、ちょっと違うと思う。もしかして、探し物の歌じゃない?
『いえね、約2ヶ月後に迫った大問題をどう相談するのかと思って』
『そうですそうです。夫婦の間での隠し事は、何でもかんでもオープンにすれば良いという物でも無いですよ?』
ん~確かにサラの言う様に、相談の仕方は考える必要があるな。
リリアさんのアドバイスも含めて、一度2人と打ち合わせが必要かもしれないな。
今度、時間を作るから、相談に乗ってくれ。
『りょ!』『わかりました』
そうだよな…何でもかんでも話せばいいってもんじゃ無いもんな。
前世の話とか転生の話とかは、うまくぼかした方がいいかも。
まあ、それは追々考えればいいか。
今は、この結婚式に集中集中!
『でも、そろそろこの緊張感に耐えられなくなって、グダグダになる予感がす』
こら、サラ! そんな的確な予想すんじゃない!
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