第372話 王城での結婚式⑦
さて、その後の話をちょっとだけしよう。
一旦退場した俺達6人は、そのままメイドさんに先導されて、また薄暗い廊下を通り、小部屋で待機。
今度は、俺達の後に、花嫁花婿の両親の合計18人が勢揃い。
うん、人口密度が上がって、ちょっと息苦しい感じ。
みんなでわいわいと談笑をしていると、またまたメイドさんがやって来て、次の会場へとご案内。
俺達6人が先に歩き、続いて両陛下、俺、ミルシェ、ミレーラ、マチルダ、イネスのご両親と続いて廊下を歩く。
たどり着いたのは、この王城で晩餐会などが行われるでっかいホールの前。
すでに扉は開かれており、また一番奥が一段高くなっている。
花道になっている赤い絨毯の道の左右には、多くの円卓が配置されており、すでに指定の席に来賓客は着席していた。
拍手の前の中、明るく照らされた室内をまっすぐ進んで、最奥のテーブルにたどり着くと、俺を中心として右にメリル、ミレーラ、イネスが、左にミルシェ、マチルダが着席する。
すぐ目の前の円卓には、それぞれの両親と陛下夫妻、べダム首長などが着席すると、お食事会が始まる。
地球のような披露宴じゃ無く、この世界では祝いの食事会って感じになっている。
一体、どこに潜んでいたのかという位、あちこちからメイドさんが給仕にやって来ると、次々に料理を運んでそれぞれのテーブルに並べていった。
一通り配膳が終わった頃合いを見計らい、陛下が目の前のグラスをそっと持ちながら立ち上がると、
「婚姻の儀は無事終了した。これから6人は夫婦となる。新しいこの夫婦の門出を祝って、乾杯!」
短めの挨拶の後に乾杯の音頭を取ると、俺達を含めた全員がグラスを持って『乾杯!』と言ってグラスに口をつけた。
もちろん酒の苦手な人や子供には最初から果汁が、そうでない人にはワインが注がれている。
マナーとして、乾杯の時に手にしているグラスの中身は口にしなければならない。
全部飲む必要はないが、せめて量が減ったと一目でわかるぐらいは飲むのがマナー。
婚約者…じゃない、嫁~ずでは、ミレーラが最初から果汁。ミルシェはワインを薄めた物で、あとの4人は赤ワイン。
イネスは豪快に一気飲みしてたが、ワインって結構アルコール度数高いんだけど大丈夫か?
俺は半分程度、メリルとマチルダは一口二口で止めている。無理する事はないから、それでいい。
「この日のために、我が王城の料理人達が技法の限りを尽くした料理だ。心行くまで堪能して欲しい!」
そう続いた陛下の言葉を皮切りに、来賓たちは一斉にナイフとフォークを手にした。
目の前に並べられた、かなり手の込んだ美味そうな料理を食べて俺達も談笑していると、徐々に挨拶にやって来る人が出てくる。まあ、大半が『おめでとうございます』と言いに来るだけなんで、にっこり笑顔で『ありがとうございます』と返事をするだけなんだが、これが数が多いのでちょっと大変。
これが地球の披露宴みたいに、酒をグラスに注ぎに来るような奴とかは居ないだけマシとも言えるのだが、途切れぬ挨拶の人の列は、表情筋をプルプルさせるほど疲れさせる。
目の前のご馳走を口にする暇も与えられず、なんとか全ての挨拶の人の列が終わった頃には、このお披露目会も終わりとなっていた。
実にあっさりしているのだが、料理を堪能し、挨拶が終わった人から、自分の好きなタイミングで退出しても良い事になっているので、少しづつ人が減っていく。
ある程度の時間、この場は開放されているので、料理を食い続ける者、ガハハと笑いながら何本もボトルを空けている者なども当然ながらいるのだが、個人の都合に合わせて退出しても良いルールなので、残りたいのは追い出されるまで残ってればいいのだ。
俺達6人は、そんなに料理に手を付けては居なかったが、早々に退場させてもらう事にした。
もちろん各人の両親や親族も、俺達に合わせて退場。
示し合わせたわけではないが、両陛下も退場となった。
こうして結婚式とお披露目会自体は無事に終了したのだが、やはり陛下のお小言が待っていた。
退場した俺達6人は陛下に捕まり、そのまま結婚式を挙げた謁見の間に連れて行かれたのだ。
メリルが、自分が先導してやった宣誓だと言い張ったが、俺の発案だと主張し、全責任は俺にあるんだと陛下に断言した。
「トールヴァルドよ…別に怒ってはおらんのだぞ? べダム首長も大変喜んでおったし、何よりお主では無くメリルに対する好意的な意見が非常に多く、貴族平民を分け隔てなく接する行いは、王家に対する好感度も同時に上げてくれた」
陛下はそう言うと、俺達6人を見回して、
「ただ一言ぐらいは言って欲しかったのだ…わし…式の最中に驚いて、心臓が止まるかと思ったぞ…いや、かなり本気で…」
『申し訳ありませんでした!』
全員で平謝りでした。こんな事で崩御とか、どんなギャグ漫画の結末だよ! そうならなくて良かったぜ。
一応、前世では応急手当普及員って資格もあったけど…それで何とかなる医療体制でもないしな、この世界は。
心臓発作って、ほぼ一発であの世行きなこの世界、ご都合主義的な回復魔法や蘇生魔法がマジで欲しいぜ…じゃなくて!
これからは出来るだけちゃんと相談しますって、陛下と約束したよ。
ええ、出来るだけね。もちろん、出来ない事は出来ないよ。
「ところでお主達は、今夜は王城に泊まっていくのだろう?」
最後の最後に、めっちゃニヤニヤした陛下が爆弾を落としてきやがった!
そっと皆に目くばせをし、息を合わせる。
こういう事を言われるかもしれないと思い、全員で事前に決めていたのだ。
そんな事を言われた時は、こう言ってやろうと。
『お断りいたす!』
お妃さまは大爆笑していたが、苦虫を噛み潰したような陛下の顔が印象的だった。
こうして、俺達の王宮での結婚式は終了した。
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