第322話 夢いっぱい?
俺は自室のベッドに寝転がりながら、久々にダンジョンの駐留員である猫又のノワールをじゃらしつつ、ぼ~っとしていた。
ベッドの下では、ブレンダーとクイーンが静かに横になっている。
実に良い。こののんびりした時間は、久しぶりだ。
こうした時に思索に耽るのが、正しいスローライフじゃなかろうか。
まあ、考えているのが、現在最も頭を悩ませている案件である事を除けば。
新大陸か…個人的には、あまり関わりたくないのだが…
『夢いっぱいの大陸を創ればいいんじゃないですか?』
夢いっぱいって言われてもなあ…サラは何かいい案は無いのか?
『私が創るなら、そりゃショタ帝国です!』
もちろん却下だぞ?
『それは分かってますよ。現実的じゃないですからね』
…どうした? いつものサラらしく無いんだが…
『ふっふっふ。サラちゃんだって、色々と進化しているのですよ!』
そうか、そりゃ良かった。ようやくアウストラロピテクスからネアンデルタール人ぐらいまでには進化できたか。
『そりゃ人類の進化でしょうが! サラちゃんは思考能力が進化したんですー!』
うん、それは無い(きっぱり!)断言できる。
『…そう言い切られると、何故か自分に自信が持てなくなる不思議…』
冗談はおいといて、何かいい案は無いのか?
『そうですねえ、まずはどこの海域に大陸を創るかで、方向性が変わってくると思うのですが』
ああ、なるほど! 赤道付近だとか極点付近だとかで気温も違うもんな!
『まあ、それもありますが…一番問題なのは、重力ですね』
what? 重力ってなんでだ? んなもん、どこでも一緒だろ?
『何言ってんですか? 地球だって重力異常を観測されている場所は多数あったでしょうに』
マジで? いや、俺は知らんけど…
『詳しく説明すると、膨大な時間を無駄にしますので簡単に説明しますが、地下にあるマグマ層の不均質さとか、真球ではない事から起きる偏心自転による引力の偏りとか、チェリーボーイ・パワーだとかその他諸々の原因があって、地球では重力異常地帯はきちんと観測されています』
ちょっと待とうか。何やら最後におかしな原因があった様な感じがしたんだが、気のせいか?
『気のせいです。この地でもヘタレ童貞による重力異常が観測されて…』
気のせいじゃねーだろーが! そんなもんが重力に影響すっか!
『ちっ! これだから、童貞野郎は!』
意味わかんねーよ! 関係ねーだろ、それは!
『ふんっ! 私的には重要な案件なんです!』
ああ、もう話が進まん! それは置いといて、重力異常? ってのがこの星にもあるってのか?
『もちろん有りますよ。この星は水の星です。大陸は私たちが居るここだけです』
それは以前、聞いたな。
『水の球体の一か所だけ中心から続く陸地が有るんですよ?』
ん? それが?
『この惑星を回転されると、当然ですがバランス悪いですよね』
ん~…ん?
『あ~直径50cmの鉄の玉があったとします。表面を厚さ2cmのゼリーで覆ったとして、その一部だけ鉄を中心部から伸ばして突出させます。しかもゼリーよりも外側に』
ふむふむ。
『その球の真ん中に、突出させた部分を外して芯を通し、回転させてみてください』
え~っと…どうなる?
『もともとの重量が大きいので大した影響は出ませんが、微妙に出っ張った鉄の部分が回転運動を乱します。軸がずれて行くほど顕著にその傾向は現れます。独楽だって車のホイールだって、バランスが崩れたらジャダー現象が起きますよね』
おお、ジャダーは知ってるぞ!
『つまり遠心力のバランスが崩れたんです』
なるほど…つまり、この大陸があることで、もともとこの惑星はバランスが崩れていると?
『理解が早くて助かります。意外と頭いいですね?』
うるへ! そうか、重力にその崩れた遠心力が作用するのか。
って事は、地軸からこの大陸は離れてるって事か…
『もちろん、その他にも遠心力や地下のマグマ層や地盤の地質、海の水深、太陽の引力、その他複雑怪奇に絡みに絡み合った要素によって、この惑星上で異状重力は起きていますし、しっかりと観測されています』
あ~、ん~? それは分かったけど、それが大陸創るのに何か問題でも?
『やっぱり、お馬鹿さんですね。現在、この惑星は微妙な重力バランスの上に成立しているのです。ここに新たな重力異常を引き起こす原因を創ったらどうなりますか?』
どうなるんだ?
『最悪、この星に大災害が起きて、生命が死滅します』
「マジか!?」
思わず漏れ出た声に驚いたノワールが、ベッドからぴょんと飛び降りて、ベッド下のブレンダーとクイーンの間に逃げ込んで行った。
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