第316話  秘密の…

 そらもう頑張りました。

 何をって? もちろん移住のための往復便ですよ。

 結局、全ての人を移住先へと送るために、神国とあの盆地の間を5往復する事になってしまった。

 いや、実際にはオートパイロットがあるので、発進時と着陸時だけ操縦席に座ってればいいだけなのだが、何せ運んでいる物が人なだけに気を使うのだよ。


 このホワイト・オルター号は、キャビンと船倉間の移動はちょっと難しい。

 狭いメンテナンス用通路(メンテなんて不要なんだけど…)が有るには有るのだが、キャビン後方から船体へと垂直に伸びる15mほどの高さにもなる、狭いパイプの中の梯子を昇らなければならない。

 しかも緊急用として設置されている通路なので、照明も疎らでとっても暗くて…つまりは、かなり怖いのだ。

 もちろん間違って入り込んで落っこちたりしない様に、出入り口は厳重なセキュリティーが施されているので、事故など起きようはずもないのだが、一応この通路の事は我が家の面々にも内緒にしている。

 外からも中からも、一見すると単に飛行船本体からキャビン部を吊下げて支える為の柱にしか見えない様に偽装しているので、大丈夫だと思いたい。


『それじゃ何でそんな物を作ったんですか?』

 そりゃ~何かと不幸な場面にぶち当たって、毎回誰かと派手に戦ってるアメリカの刑事さんみたいな人の為だよ。

『意味わかりませんけど?』

 もしもテロリストと正義感の強い刑事さんがこの船に乗り込んだら、こういった秘密の通路が活躍するんだよ。

『いえ、そもそもこの船に不審者が乗り込む事はかなり難しいと思いますが』

 もしかしたら、俺達を謀って乗り込んでくる奴がいるかもしれないだろ?

『そうかもしれませんが、では刑事さんは?』

 そこは騎士さんでもいいけど。

『はあ。妄想設定するのは、まあ良いですけど、そもそもこの船は、私か大河さんぐらいしか操縦できませんよ? テロリストが来ても立てこもる事ぐらいしか出来ませんし。だってこの船って、ほぼ破壊不可能な仕様ですから』

 いや、サラが脅されてこの船の操縦をさせられたり…

『美少女メイドのサラちゃんが、こんな船を操縦できると誰がしってますか?』

 …婚約者~ずを人質にとられて俺が脅されたり…

『あの婚約者~ずなら、変身してそんな輩は一蹴出来ますけど?』

 母さんとかコルネちゃんとか…

『妹ちゃんなら、変身して魔法でポン! ですね。奥様が旦那様のそばを離れますか? あの旦那様がそんな隙を賊に与えますかねえ?』

 …つまり、お前は何が言いたい?

『もんのすごい無意味な通路です』

 良いだろ! 男のロマンなんだよ、秘密の通路ってのは!

 秘密基地とか、秘密の通路とか、秘密の小部屋とか、少年の冒険心をくすぐるんだよ! 

『まあ、ロマンでも何でもいいですけど、取りあえず婚約者~ずには教えときます。説教は大丈夫だと思いますけどね』

 あのぉ…危険なのでメンテナンス通路には入らない様にって軽~く伝えてね…

『お客様のご要望について、誠心誠意しっかりと検討させて頂きますが、ご要望に沿いかねる場合もございます事を、ご理解ください』

 何だよ、そのクレーム対応マニュアルみたいな物言いは!?

『では、さらば!』

 ちょ、待て待て待て! 変な言い方すんなよー! 絶対だぞー!

『こうご期待!』

 何を期待しろってんだよ! お前、ふざけんなよ! 俺の命が懸かってんだからな!

 おい、こら! サラ、返事しろ! おーい! おーーい!  おーーーーい! 

 

 その後、婚約者~ずに怒られはしなかったが、じっとりとした目で他に秘密にしている事は無いかと詰め寄られました。

 秘密なんて無いと言い張ったのだが、屋敷に帰ったら婚約者~ずによる俺の部屋のガサ入れが決定してしまった。

 俺に拒否権は無いそうである。

『信用されてないんですね…マスター』

 ナディアの何気ない一言が、俺の心に突き刺さる。 

 

 ああ、あの秘蔵のお宝本とか見つかって没収されたらと思うと…泣きたい…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る