第314話  蟻さんの引っ越し?

 明くる朝、朝食を終えた頃合いで目的地であるあの盆地の着陸ポイントに到着した。


 ホワイト・オルター号の降下中に、あの岩に偽装した出入り口に向かって走っていく人の姿があったので、俺たちの帰りを待っていたのかもしれない。

 慌てても仕方ないので、誰かやって来るまでここで待っておくことにしよう。

 などと考えていたが、すぐにわらわらと大勢の人達がこちらに向かってやって来た。もうその姿は、まるで蟻が群れで巣穴へと餌を運んでいるみたいだ。

 でっかい荷物を担いだ人々が、何故か一列に並んで同じ場所目指して歩く様は、誰の目にもそう映るだろう。


 せっかくなので出迎えってわけでも無いが、タラップを降ろしてアルテアン家勢ぞろいで待ってみた。

 先頭は知らないおっさんだったが、3番目ぐらいにカパス老が居た。

 蟻の如く並んだ人の列は俺達の前まで来ると、まるでに甘い餌にたかる蟻の様に周りを取り囲み始めた。

 夏の熱い道路に落ちて半分溶けた飴ちゃんとかの周りに、蟻がびっしり集ってたのと同じ光景だ、これ。

 やけに全員がニコニコしているし、適度に距離をとってくれているので、そんなに威圧感は無いから良いのだが。

 ってか、全員が身の丈を超す大荷物を背負って、ニコニコしてるって…ちょい不気味だぞ。


 コルネちゃんが怖がるから、あんま近寄らないでくれ。

 はい、全員5歩バック!  ハウスしろ、ハウスだ! 

 こら! そこの少年! コルネちゃんに馴れ馴れしく声を掛けようとすんな!

 まずは兄である俺を倒してからにしなさい!

 コルネちゃんが超絶可愛い天使であるからして、声をかけたくなる気持ちは良くわかる。だが、マイエンジェルに声を掛けるなら、お前はその命を賭ける覚悟でこい! うん、分ったか? そうだ、大人しく下がってればよいのだ。 


 落ち着きの無い周囲の人々の騒めきの中、カパス老が俺の前にやってきた。

 よく見るとこの爺さんも、クソでっかい荷物担いでるけど、あんた歩くのにも苦労して無かったっけ?

 どんだけこの地の人は力持ちなんだよ。

「使徒トールヴァルド様。此度は私共の移住のために仲介の労をとって頂き、まことに有難うございます」

 カパス老が腰を折ると、背負った荷物が俺に向かって落ちそうだ…ってか、腰は大丈夫か、爺さん!?

「あ、いや…んんん! 皆さまを安住の地へと導くのは、私の都合です故、お気になさらないでください。ただ、ネス様、太陽神様、月神様の信に応える為にした事ですから」

 ここは押しつけがましく感じられない様に、そして神様をそれとなく持ち上げてっと。

「そうでございますか…しかし、私達が感謝しているのは確かな事でございます。礼を言わせてくだされ…」

 そう言って、またまたカパス老が腰を…深々と下げるな! 荷物がやばいって! ド〇フのコントかよ!

「ところで…孫娘は気に入って頂けましたかな? 使徒様の側仕えとして挨拶に向かわせましたが、帰ってこなかった様ですので気に入ってもらえたのだと思って宜しいのでしょうか?」

 やはり、お前か…お前が全ての元凶か…口元がピクピクしてるが、絶対にコマしてこいとか言っただろう、不思議ちゃんに!

「ええ。月神様が大層気に入られまして、昨日より太陽神の教会にて修行を始めております。将来は月神の巫女として、教会を任せられる事となるでしょう」

「…月神様の巫女…ですか?」

 目が点になったな、御老体。

「ええ、月神様の【純潔の】巫女です。この先は、月神様へと生涯を通し祈りを奉げる聖職に就く事となりましょう」

「それは、あのぉ…使徒様の妾とか…」

「何と畏れ多い事を! 巫女は純潔でなければなりません。月神様が次代の巫女を指名しない限り、縁組などもっての外。生涯を教会にて過ごして頂く事になるはずでございます。我が妹であるコルネリアも、ネス様の巫女でございます。同じく神に仕える者同士、仲良くして頂きたいものですな。はっはっはっは」

 目論見外れたって表情にありありと浮かぶカパス老だったが、良く考えれば将来は宗教のトップの血縁。

 まあ、悪くないかな~っとか考えてるんだろう…ちょい俯いてぶつぶつ言ってるし。

 

 実は不思議ちゃんを教会に引き渡した後、こっそりイネスに聞いた話なんだが、密室で母さんに…

「なんですか~おばさん?」「おばさんは毎日のお肌のケアが大変でしょう? 私なんて若いからぴっちぴちです! 水もはじきますよ!」「やっぱり、そろそろ加齢臭とか気になります?」「おっぱい大きいですね~! でも、そろそろ垂れてきたんじゃないですか?」「え? 使徒様のお母さん? それじゃ~もう50歳ぐらいですよね?」

 などなど、母さんに対して絶対に口にしてはいけない、恐ろしいワードを連発していたらしい。何て命知らずな…

 母さんの背後に燃え盛る炎で象られたドラゴンが見えたとか…スタンドかな? 

 憐れ空気を読めない不思議ちゃんは、我が家の真のボスの怒りを買ってしまったため、教会に矯正…もとい、強制的にドナドナされたのでした。

 カパス老…ハニトラ要因として送り込むなら、もちっとまともなの選べよ。

 不思議パワーで全てが泡と消えたぞ。

 まあ、まともなのを送り込んだからと言って、俺がそんな罠にかかる事は無いが。

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