第295話  天然?

 神様達のおかげで、長達は満場一致で移住に賛成をしてくれた。

 ま、彼等の崇める月神様がお薦めするのだから、NOとは言えないだろう。

 しっかし何だね…アーテリオス神国との戦争の時にも思ったけど、あんな巫山戯た姿なのに、神様だと信じちゃうこの世界の人達って、マジで詐欺とかに引っかからないか心配だ。

 詐欺みたいなやり方、ってか詐欺その物の手法で移住させる俺が言うのもなんだけどさ…


 取りあえず、こんな過酷な土地から全員移住させる方向で、会談は円満に終える事が出来た。

 最終的には、10日後にこの場所へと移住希望者全員に集まってもらい、ホワイト・オルター号でアーテリオス神国へと2、3回に分けて運ぶ予定だ。

 集合まで時間もある事なので、べダムさんに直接会って、色々と打ち合わせしなきゃな。


 往路と同じくあの少女に先導されながら、ナディアや天鬼族3人娘と共に、地上に停泊中のホワイト・オルター号へと戻った俺は、我が家の面々に会談の内容を伝え、一旦アーテリオス神国へと向かう事を告げた。

 もち、ちゃんと通信の呪法具で先に連絡は入れるぞ。

 突然の訪問は失礼だからな。俺は礼儀を重んじるのだ。

『言うのは自由ですけど…』

『マスター、それは無いかと…』

『『『…ウソはダメ』』』

 何だよ、サラ! 俺はちゃんと礼儀は弁えてるぞ?

 ナディア、何だその残念な人に対するみたいな物言いは?

 アーデ、アーム、アーフェン! 嘘って何だよ、嘘って!

『『『『『自分の事は見えないって、本当なんですね』』』』』

 お前ら、何でそう言う時だけ何時も声が揃うんだよ! 練習でもしてんのかよ!

『『『『『……ふ~~……』』』』』

 何だ、その意味ありげなため息は! 俺は残念な奴なのか? そうなのか?

『『『『『…ふっ…』』』』』

 ちくそー! 鼻で笑いやがって! また拗ねるぞ…ちくそう…


 拗ねたぞ、俺は。

 でもちゃんと連絡したからな、べダムさんには。

 礼儀を重んじ…てるつもりなんだから、俺は…

 ユズカにめっちゃ可哀そうな子を見る目をされながら、お茶を出してもらった…すっげぇ悔しい…

 ともあれ、一服した俺はホワイト・オルター号の操舵席に座り、ゆっくりと船体を離床させた。

 操舵席のグラスキャビンから離れてゆく地上を見ると、多くの人達が手を振ってくれていた。

 あのカパス老も、凄く元気に手を振っていた。

「みんな、すぐにまた来るからね」

 ついつい、俺はそんな事を呟いていた。

「それでトールちゃん、あの娘はどうするの?」

 背後から、何やら楽しそうな母さんの声が聞こえた。

「あの娘って?」

「ほら、トールちゃんを地下に案内した女の子よ」

 ん? あの白い布の女の子の事かな?

「ああ、あの子の事? どうするって、何を??」

 振り向いて少し見上げる様に母さんを見ると、見えてはいけない物が目に入った。

「おじいちゃ~ん!」

 あの娘がキャビンから地上の人々へと手を振っていた。

「え? 何で乗ってんの?」

「え? トールちゃんが乗せたんじゃないの?」

 いやいやいやいやいやいや!

「知らないよ! 一体いつの間に!?」

 メリル達、婚約者~ずも、何故か当然の様に我が家に溶け込んでいる少女に、戸惑いを隠せない。

 いつもなら、「トール様、浮気ですか?」とか「また婚約者を増やすおつもりですか?」とか言って俺を責め立てるのに、どうにも勝手が違う様だ。

 いや、多分俺が浮気なんてしてない事は明白すぎるほど明白だからな…今回は。

 これって密航なんだろうか? いや、密航だな、間違いなく。

 

 ホワイト・オルター号をオートパイロットにセットして、俺は少女の元に向かった。

「え~っと…君は、どうしてここにいるのかな?」

 少女はキョトンとしながら、

「はい、乗ったからです!」

 そうだろうとも、そうだろうけど、そうじゃなくて!

「いや、どうして乗ったの? って事を訊いてるんだけど」

「はい、乗りたかったからです!」

 ……この娘は天然なんだろうか? それとも計算?

「え~っと…どうしてこの船に乗りたかったのかな?」

「え? 使徒様のお嫁さんだから、一緒に居るのは当然ですよね?」

 この女性比率の高い我が家の真ん中で、超ド級の爆弾発言しやがった!

 今まで天然娘と俺のやり取りを、黙って見守っていた婚約者~ずの目が吊上がって行くのが、気配でビンビン伝わってくる。

「お嫁さん? 誰が? 誰の?」

「私が、使徒様のですよ?」

 小首を傾げ乍ら、何を当たり前のことをと言わんばかりの目で、少し頬を赤く染めつつ俺を見つめる少女。

『トーーーールさまーーーー!』

 あ、はい…説明と釈明の前に正座ですね…分っておりますとも。

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