第293話  さって、また茶番だよ~

「皆様、わざわざお出で下さり、感謝いたします」

 集まった長達が車座になり座る一角で、俺は立ち上がり、そう言うと頭を下げた。

 それに倣ってか、ナディアと天鬼族3人娘も同様に頭を下げる。

「この場に集まって頂いたのは他でもありません。私が信奉する聖なる女神ネス様のお言葉によるものです」

 そう言うと、一部の人は不信感を露にする。

 ま、隣国との交流も無いこの地の人には、最近名前が売れ始めたネスの事なんて伝わって無いだろうから、仕方が無い事だ。

「あのお…ネス様という神様は、聞いたことが無いんですが…」

 そう言いだす輩が出ることは、先刻承知之介でっせ。

「はい、その質問にお答えしましょう…ナディア、アーデ、アーム、アーフェン、いいかな?」

 ナディアにそう言うと、コクンと小さく頷いたナディア達4人が俺の横に並び立つ。

「このナディアは、ネス様の眷属であり、横に並ぶ3人も同じくネス様の眷属です」

 俺が言ったと同時に、ナディアは七色に輝く美しい揚羽蝶の様な羽を皆の目の前に現す。

「「「おお…!」」」

 一度見たことのあるカパス老でさえ、思わず声が出てしまうほどの美しさ。

「そ、その羽は!?」

 初めて見た人はもちろん驚くよね。

 仄暗い洞窟内だからこそ、なおさら虹色に輝く羽は一層神秘的だ。

 天鬼族3人娘も、背中を皆の方に向けて、美しい天使の様な白い羽を、パタパタと動かす。

「えええ! その羽は飾りじゃなかったのか? まさか…生えてるのか!?」

 丁度正面に座っていた男性が思わずといった風に立ち上がると、手をわなわなさせながら声を張り上げる。

「こちらの3人は、アーデ、アーム、アーフェンと申します。もちろん飾りではございませんよ」

 俺の言葉に合わせ、地を蹴る事なく3人はふわっと浮き上がり、そのまま羽をパタパタさせながら、俺が『もういいよ』と、念話で指示するまで空に留まった。

「彼女たちが神の眷属であるという事は、お判りいただけましたか?」

 別にきつい口調でもなかったんだが、全員首が取れるんじゃないかというぐらいの勢いで、首を縦に何度も振った。


「よかった。それでは神々の言葉をお伝えしようかと思いましたが、まだネス様の事をよく理解できていないでしょうから、この場に顕現して頂こうかと思います」

 まさかの神降臨!? この場に集まった長達は、いきなりの俺の宣言に慌てふためく。

 ま、このために先日ちょちょっと作ったんだけどね、こいつをガチャ玉で。 

 このために天鬼族3人娘それぞれが手に持ってきた、ティッシュペーパーの箱の倍ほどの大きさの木箱をそっと地面に置くと、蓋をゆっくりと開けた。

 そして中から取り出したのは、美しい布に包まれたネス、太陽神、月神の像。

 全高一尺ほどのネスと、それより少し小さめの太陽神と月神の真っ白な像。

 3人は地に置いた木箱の上に、包んでいた布を被せた後、その上にそれぞれの像をそっと置いた。

「これは、神々がこの世にお姿を現すときの依り代となる、神木で作られた神像です」

「「「!!!」」」

 俺の言葉で想像できたんだろうな、この後の展開を。

 俺とナディアと天鬼族3人娘は、女神像の前に移動し(つまり長たちの輪の中だな)箱に乗った女神像に向かって跪き、

「では、お越しいただきましょう。敬虔なる女神ネス様の使徒、トールヴァルドが願い奉る。聖なる女神ネス様、太陽神様、月神様…どうかこの場へお越しください」

 そう言葉を掛けた。微妙に緊張してたんで、コックリさん呼ぶ時みたいになってしまったが、そこは大目に見て欲しい。

 俺の言葉に呼応したかのように、女神像が光り始める。

 光はだんだん強くなっていき、やがて眼を焼く程に強く輝くと、不意に光が収まる。

 そして俺達の前、ちょうど像が並んだ場所の1m程上の空中に、3女神が降臨した。

 いや…まあ、適当にガチャ玉で創った、携帯用の女神投影装置なだけなんだけどね。

 あまりの輝きに目を瞑っていた長達だったが、瞼越しでも感じていた光が収まったのが分かったのか、そっと目を開けた。

 そして、宙に浮かぶ女神たちの神々しい(太陽神と月神は可愛いだけだが…)御姿に驚き、慌てて平伏した。

『我が名は、水と生命を司る女神ネス。我が使徒トールヴァルドの呼びかけに応じ、神界より降りて参った』

 慈愛に満ちた微笑みを湛えたネスが、俺達に声を掛けた。

『我が使徒トールヴァルドよ、我だけでなく、何故に太陽神と月神を呼び出したのだ』

 さあ、準備完了! 

 またまた番茶…じゃなかった茶番開始だ!

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