第273話  いよいよ地下へ

 神様の退場と共に大騒ぎとなった場を取りあえず収めて、まずは家族を紹介。

 両親と妹、婚約者一同、神の眷属としてナディアとサラと天鬼族3人娘、使用人でユズユズ、そして隠れていた妖精さん沢山。

 若い男性は、俺に婚約者を5人紹介した時に、血涙を流しそうな顔をしていた。うん、その気持ちは良く分るよ。

 その後のナディアやサラや天鬼族3人娘を見て、口々に美しいと騒ぎ、妖精さんを見てその可愛らしさにノックダウンした。

 実はこの場にいるメンバーで地上に巣食っていたあのゾンビとキノコの化け物を退治し、瘴気で汚染されていた土地や泉、空気まで浄化したといったら、さらに驚きの声を上げていたが…まあ、今さらだな。


 さて、紹介も終わったので、この地の纏め役のカパス老…もう長老でいいか、長老に案内され(長老は腰抜かしてて、若い男性に背負われてるが)、地下の都市へと招かれた。


 この盆地を囲む山脈の裾野にゴロゴロと転がっている岩だと思っていた物は、実は入り口を隠すためのハリボテであった。

 いや~このカモフラージュは凄い。本物の岩にしか見えなかった。

 精霊さんのカモフラ衣装とは、一味違うな。それを言っちゃうと、精霊さんが拗ねちゃうから言わないけど。 


 入り口は人が2人ほどが並んで歩ける程度の大きさで、どうも自然の洞窟を利用している様に見える。

 何故かトンネル内は、うすぼんやりと全体的に薄く黄緑っぽく光っていて、やがてなだらかな下りの階段に差し掛かっても、特に不自由せずに、しっかりと歩く事が出来た。

「何で光ってるんでしょう?」

 ミルシェが何気なく俺に向かって呟いた事だが、それが聞こえたのか、先導していた男性の一人が、

「これは光るコケが生えてるからです」

 そう教えてくれた。

 確か地球ではヒカリゴケは、自身が発行しているのではなく、微細な光をレンズ状の細胞で反射していると、ディス○バリー・チャンネルで観た記憶があるが、この世界だと自ら光る様だ。ん~自然の神秘ってとこか?

「ほ~! そうなんですね。いや、とても綺麗ですねえ」

 ちょっと感心して、俺がそう言うと、

「私達には見慣れた物ですから、綺麗とか考えた事なかったです。これが無いと生活出来ないので」

 そりゃそうだよな。部外者の俺達からしたら、ただの珍しいコケ。それも真っ暗な洞窟の中で淡い黄緑色に光る、神秘的な光景だが、ここで生活している人にとっては当たり前の光景なんだもんな。

「なる程…」

 男性の言葉に、俺はそう返す事ぐらいしか出来なかった。


 やがて階段は少しだけ急になり、そのまま下ると大きな広場の様な場所に出た。

「使徒様、ここが村の広場です」

 何故か男性の背中でこちらを振りかえり、ドヤ顔している長老だった。

「なるほど…この地に住む人は、全部で何人になりますか?」

 努めてビジネスライクに話を進めよう。時間がもったいない。

「え~、ここで大体700人ちょっとですな」

 ふむ…そんなに多くないな…2回ぐらいの往復でいけるか?

「そうですか。移住に反対される方は居ないのですか?」

 嫌々移住されてもなあ…

「まだ神々のお言葉を知らされておらぬ者もいますので、全員が賛成かはわかりませんが…」

 まず、そっからか。

「では、カパス様。まずはこの地に住まう方々全てを集めて、意見を纏めてください。神も嫌々移住したり、無理やり移住させたりは望んでいません。出来るなら、皆さんに喜んで頂きたいのです。生まれ故郷を離れるのです。残りたい方がいるのであれば、それはそれで構いません。皆様のご意思に従いますので、きちんと話をしてください。多分、移住された方は…二度とここへは戻って来れないでしょうから」

 俺がそう告げると、改めてこの地を離れる事を真剣に考えたのだろう人々が、難しい顔をしていた。

 どんな所だって故郷。そこを離れるとなれば、色々と思う所もあるだろう。

 決して無理強いをしてはいけない。

 もしも反対する人がいるなら、その人達にとって最善の策を探すとしよう。

 この地に住まう人々全員が笑顔になれば良いなあ…

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