第274話  地下の世界

 俺達はカパス老の許可を貰い、この広大な地下空間を観光…もとい、見学させてもらう事にした。

 何でも老の言うには、この場所には約700人だが、同じような集落がこの盆地の地下には幾つかあるらしく、他の集落にも連絡を取るらしい。

 そりゃそうか。

 直径200kmもある盆地なんだから、たった700人って事はないだろう。

 この地下の空間というか洞窟は全部繋がっているらしいので、数日で全集落に連絡がつくだろうとの事。

 連絡がつくまで、俺達はこの地下空間でここの生活を見せてもらう事にした。


 そもそも、恐怖の大王と戦う前は、人工的に造られた地下都市に人々が住んでいると思ったのだが、どうもこの地下空間は元からあった巨大な洞窟に、人が生活しやすいように手を加えられた物らしい。

「トールさま。この空間は…自然に出来た洞窟なんでしょうか?」

 ミレーラが、人の背丈の数倍もある高い天井を見ながら、そう訊いてきた。

「うん。間違いなく自然に出来たものだね。それを上手く生活空間として改造して利用してるんだね」

 鍾乳洞の様な石灰岩では無いな…壁や天井は黒っぽいし、ちょっと脆そうな感じ。

 記憶にある地球の物で似てるやつと言えば、溶岩洞窟かな?

 って事は、この巨大な盆地は…もしや噴火口跡かもしれないな。

 いやいや、こんな直径200kmもの巨大な火山口がもしあったとして、それが噴火したのか? クレーターなはずは無いから、やっぱ噴火口跡なのか?

 って事は、この大陸は元は火山島? 海底火山だったここが噴火して生まれたのが、俺達の住んでいるこの大陸って事か? もしそうだったら、すげえぞ!


『大河さん、大当た~り~!』

 え!? やっぱそうなのか、サラ! 自然の力ってすげえな、おい!

『まあ、管理局で意図的に爆発させたんですけどね…この海底火山』

 どゆこと?

『いえ、この星は海しか無かったんですよ。陸地面積ゼロでした。でも、それじゃ海洋生物しか生まれないでしょう?』

 まあ、そうだな。当たり前っちゃ~当たり前だけど。

『なので、小さな海底火山の奥底に、地球で言う所の水素爆弾を投下しました。TNT換算で1500メガトン級です。地球なら完全に滅亡する威力ですね』

 うん、凄すぎてピンとこない…ってか、TNT換算が良くわからんのだが…

『え~広島型や長崎型原爆では、大体15~20キロトンだと言われてますので、その数千倍の威力だと思ってください』

 おま、ちょっと待て! んじゃこの星は放射能まみれなのか!?

 ってか、核兵器は日本人が最も痛ましく忌まわしく感じる戦争の記憶だぞ! 軽々しく使うなよ! マジで反核団体様に怒られるぞ!

『いえ、言ってみればこれは進化を促すための物です。この爆発によって、海底火山が大爆発を起こし、この様な巨大な大陸が生まれたのです。それにそもそもこの星にまだ単細胞生物しか存在しなかった、数十億年前の話ですから』

 そ、そうなのか…それじゃ放射能は?

『もう人体に影響は一切ありません。そこはきちんと計算してますので、ご安心ください』

 まあ、管理局っていうぐらいだから、ちゃんと管理してるとは思うけど…しょっちゅうバグ起こすシステム使ってるところだからなあ。

『痛い所を…ですが、これは信じても大丈夫です。そもそも放射能まみれの世界には、私だって来たくありませんから』

 そらそうだな…今回はサラと管理局を信じるとしよう。

『ま、地球型ヒューマンへの人為的な進化をコントロールする過程で発生した、亜種の誕生に影響してるかもしれませんが』

 ちょっとまてーーーい! エルフさんにドワーフさん、魔族さんに人魚さんに獣人さんは、放射能のせいで生まれたってのか!?

『いえ、あくまでも憶測です。もしかしたら、影響あったかもしれないな~っと』

 むむむ…つまりは種の起源は同じであったかもしれないと…ダーウィン先生もびっくりだな、そりゃ。


「トールさま、どうなされました?」

「ん? いや、ミレーラ…何でも無いよ。この洞窟のすごさにびっくりしてるだけだから」

 サラの話は置いといて、この洞窟は本当にすごい。

 天井なんて、黒っぽい溶岩質な岩に着いたヒカリゴケが美しく光ってて、まるで夜空の星の様だ。

 なのに人の背の高さでは、生活に何の不自由も無いほどの光量を、コケは発してくれている。

 微妙な自然のバランスで、この洞窟は成り立ってるんだな。

「確かにすごい洞窟だ。地上ではあの暑さと乾燥だったのに、ここでは適度な湿気と快適な温度…だけど、これって紫外線を浴びれないから、この洞窟に籠って生活していたら、身体が弱くなりそうな気がするなあ…」

「しがいせんって何ですか、トール様」

 日焼けから最も縁遠そうな、シミひとつないメリルが訊いて来た。

「うん、太陽の光に含まれる光の一種だな。ん~そうだな…その光の成分に当たると日焼けするんだ。日焼けって皮膚に悪い様に感じるかもしれないけど、適度な量を浴びていると病気の予防にもなるって感じだね」

 皮膚におけるビタミンDの生成とか言ったところで、この世界ではそういった化学分野が発達してないから理解できないだろうから、この程度の説明でいいか。

「なるほど。適度に太陽の下にいる事は良い事なんですね」

「そうそう。あんまり長時間だと日焼けするけど、適度になら身体に良いんだよ」

 そんな事を話しながら、俺達はこの洞窟の世界を見て周った。


 あれ? ちょっと待てよ…過去のサラの言葉とさっきの会話…引っかかるものが…

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