第272話  びびった!

『其方ならば、きっとそう言ってくれると信じていました。我の力が必要になった時は、何時でも呼ぶが良い』

「ネス様の御心のままに…」

 それを最後に、空に浮かんだ巨大なネスの像は、段々と空に溶け込むように消えて行った。


『トールヴァルドよ…其方に全てを託すのは心苦しい物があるが、後は頼みましたよ』

 うっさうっさと耳を揺らす太陽神に、ちょっとお願い。

「太陽神様…一つだけお願いがございます」

『妾に出来る事であれば、叶えようぞ』

 妾って言わしてみたけど…意外に巫女服と合うな…うさ耳ロリっ子としては微妙だけど…

「はい、月神様にも願い出ようと思っていたのですが、出来る事ならば太陽神様に加護を頂いている隣国に、この方たちを連れて行こうと思うのですが、太陽神様の加護ある国に、月神様の信徒をお連れして宜しいでしょうか?」


 簡単に言っちゃえば、アーテリオス神国に、この人達を移住させちゃえって思った訳よ。

 こんな不毛な土地で、陽の光も浴びれず、明日の食料も心もとなさそうな暮らしさせてちゃいかんだろうと。

 まあ、色々とべダム首長には貸しもある事だし、この人達も押し付けちゃえと。

 んで、あの国に太陽神と月神の二柱を信仰させちゃおうかな~って。

 折角の巫女巫女コンビのロリ神なんだから、別々も面倒くさ…もとい、勿体ないじゃん。

 もう、グーダイド王国はネス様でお腹いっぱいだから、距離的にも近いし、お隣がいいだろうっ…て勝手な考えですけどね。


『ふむ…太陽神よ、出来る事であれば許してはくれぬか。妾も頭を下げよう』

 月神にも太陽神に頭を下げさせてっと。

『月神よ、トールヴァルドよ。無辜の民を救うためである。否は無い。アーテリオスの首長には、妾から告げよう…』

「ははぁ…ありがとうございまする…」

 ちょっと大げさに平伏すのがポイント。

 こうすれば、この地の人々は、「私達のために、神様に頭を下げて請い願ってくれた」と印象付ける事が出来たはず。

 ここで太陽神には、フェードアウトしてもらう。白い靄に包まれながら、静かに飛行船の中へと消えて(格納されて)行く。

 ここで更に追い打ちをっと。

『この地に住まう民よ。我らが主神である水と生命の神であらせられるネス様と、傍輩たる太陽神の許しが出た故、そこなトールヴァルドに従い、隣国への移住の準備を始めよ。トールヴァルドよ…後の事、頼みましたよ…』

 月神様も、太陽神と同じくフェードアウト。


 初めて見た神様トリオの威容に(うさ耳とキツネ耳はどうか分からんが)あてられていた人々が我に返った時、よくよく思いだすといきなりの移住という、とんでもない神様の言葉に大騒ぎとなった。

「ど、ど、ど、どうしたら良いのじゃ~!」

 いきなりカパス老が大声で叫んだが、脳の血管が切れるから、まあ落ち着け。

「カパス様。先ほどネス様、太陽神様、月神様が仰った様に、この地はすでに死の土地となっている様です。太陽神様の御許しが出ましたので、隣国へと移住しましょう」

「と、使徒トールヴァルド様でしたな…しかし隣国へは非常に遠く、また高い山脈に阻まれ、とてもその様な困難な旅に付いては行けぬ者も沢山おります…」

 ま、あんたもそうだよね。子供だっているみたいだし。

「ご安心ください。私が全員運びましょう。ネス様から賜った、あの空飛ぶ船であれば、ほんの数日で行けますよ」

 そう言うと、カパスさんだけでなく、目の前の人々絶句。

「全員…ですか?」

「全員です」

 そらそうだろ。残りたい奴がいるなら別だが…。

「数日…で?」

「ええ、数日です」

 ま、急げば片道1日半ってとこかな。

「…本当に?」

「ええ、本当です」

 疑い深い爺さんだな…って言うのも酷か。なんせ大勢の人の命が掛かってるんだもんな。

「や…」

「や?」

「やったーーーーーーーーーー!!!」「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」 

 うお!? びびった! この地の人々全員が雄たけびをあげた!

「有難うございます、有難うございます! これで皆、救われます!!」

 うん、喜んで貰えて良かったけど…まあ、落ち着け。

「まずは、移住計画を話し合いたいと思いますので、落ち着ける場所に移動しませんか?」

 よ~し、自分で演じた茶番だ! 最後まで責任もって頑張るべ!

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