第265話  戦いの跡

 ホワイト・オルター号を着陸させたのは、昨日カズムと激しく戦った(様な気もする)あの場所だ。

 今は、精霊さん達の努力(?)により、元通りの荒野と綺麗に浄化された小さな泉がぽつんとあるだけだ。


「確か、この場所からカズムは根を地下に伸ばしていたんだよな」

 サラ曰く、カズムの根っ子が地下に住む人々に届く寸前だったとの事。

 なれば、この場所から地下に行けば、地下都市の人々と会う事が出来るはず。

「マスター、それでどの様に探索するのですか?」

 当然と言えば当然なナディアの質問。

「うむ。それはな…土の精霊さ~ん! この下に人が住んで良そうな空間ありますか~?」

 もちろん、万能な精霊さんにお願いするのだ。

「え~っと…胸を張れる様な内容では無い気がしますけど…」

「何を言う! 俺の持てる全ての力を尽くして探索するのだ。精霊さんの力も、その1つなのだよ!」

 なにせ精霊さんは、俺のエネルギーをちゅーちゅーして仕事してくれてるんだから、これも俺の力と言っても過言ではないはず。

「ええ、そうとも言えますけど…ちょっと情けない気がします、マスター」

 ナディアのジト目が、良心に突き刺さった気もするが…いいや、気のせいだ!

「気にするな! 考え過ぎるとハゲるぞ?」

 ナディアがそんな事になるはずもないが。


 ナディアとそんな話をしている間にも、精霊さんは地下を探ってくれていた。

 お、もう調べ終わったの? ふむふむ…地下50mぐらいに、人が住んでいる空間があると。

 出入り口は…遥か先に見える山の麓? あちこちにあるって?

 ん~俺達が周回して調べた時には、そんな穴は見えなかったと思うけどなあ。

 ほう、岩に偽装した扉があると? なるほど…それなら、ちょっち行ってみましょうかね。

 って事で、一旦ホワイト・オルター号に戻りましょう。


「あれ? トール様、お早いお戻りですね」

 船内に戻った瞬間、マチルダとばったり顔を合わせた。

「ああ。探索の結果、この荒野を取り囲む山脈の麓に、地下への出入り口が有るらしいので、近くまでこいつで行こうかと」

 歩いて行けるか、あんな遠くまで! 

「なる程! では、お茶でもしながら向かいましょう」

 何てぬるい探索だと言われそうだが、無理する事も無いのだ。

 楽な移動手段があるのなら、使わねば損ってもんだろう。


 やがてコックピット裏にあるテーブルに全員が集まって、お茶をしながら向かう事になった。

 さすがチート(?)! ぬるい探索と移動だ。

 世の異世界転生から魔王討伐へと苦難の旅をする勇者君には、誠に申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

『嘘ですね』『マスター…心にもない事を…』

 サラもナディアも失礼だな! ちょっとは思ってるんだぞ、本当に。

 そうだなあ…コンビニで買った弁当に付いて来る爪楊枝ぐらいには思ってるぞ?

『意味不明』『その例えは如何なものかと…』

 うん、俺もそう思った(笑)


 そんなこんなで、のんびり飛び続けて約1時間ちょと。

 間もなく麓にたどり着こうかという時、何やら米粒ぐらいの大きさの動く物が視界に入った。

「あれは…人か?」

 思わず俺の口から漏れた言葉を聞きつけた我が家の面々も、キャビンに集まって前方を見た。

「トール、あれは間違いなく人だぞ」

 地球のマ〇イ族並みに視力がある(と、思われる)父さんが、そう断言した。

 他の面々も、グラス・キャビンに張り付いて、一目見ようとしているみたいだが、やっぱ米粒ぐらいにしか見えない様だ。

 慌てなくてもどんどん近づいてるんだから、すぐに肉眼で見えるべ? まあ、落ち着け。 


 何故か興奮している皆は放っておくとして、俺はどんなファーストコンタクトにするかを検討するのであった。

『え? 月神様の降臨チャンスですよ?』

『そうです、マスター。ここで一気に畳みかけないと、舐められます』

 いや、お前ら何言ってくれちゃってるの?

『大河さん、甘い事を言ってたら駄目です! 第一印象が大事なんです!』

『最初にガツンとやっておけば、後々の交渉がスムーズになるのです! 交渉事の基本ですよ、マスター!』

 うん、サラはともかく…ナディアの今後がちょっと心配になってきた…

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