第263話  セーフです

「えっぐえっぐ…ぐずぐず…ごしゅ…ご主人様が…無理やり…ひっく…私を手籠めに…」

 おい! サラ、涙が出て無いぞ! 

「トール様…なんて事を!」

「待て待て、メリル! 見ろ、サラのはウソ泣きだ!」

 お前ら、ちょっと冷静になって良く見ろ!

「ひっくひっく…ナディアさんまで…一緒に…」

 オイコラマテ!

「メリル! トール様の部屋にナディア様が!」

 ミルシェ、何時の間に部屋の中を見たんだ!? あ、俺の後ろに立ってたのね、ナディアさん… 

「皆さま、冷静に。私とマスターの間に、今現在は肉体関係は御座いません。例えお互いが求め合っていたとしても、今のところはセーフです!」

 おい! 何を言っちゃってくれてんの!? 話がややこしくなるから、お前は黙っとけ!

「トールさま…ひどいです…」

「いや、あのね…ミレーラ。酷い事は何もしてないよ?」

 ってか、酷い状況にしてるのは、間違いなくサラだよな!?

「トール様。いくら言い逃れようと、この夜更けにサラとナディア様を部屋に連れ込んだのは事実です」

「やはり戦のあとは昂ぶっていたのですね。それならば私達の内の誰かを呼べばいいものを…もちろん全員でも可ですが」

「あの…マチルダさん、そういう意味で一緒にいたんじゃないからね。あと、イネス、昂ぶってません!」

 何で冷静に分析する方に行くかな…あ、マチルダだからか。

 あとイネス…そんな初体験でいいのか? 本当にいいのか? 俺は良くないぞ! もっとこう…雰囲気をだな…

『トール様! 取りあえず正座!』

 君達、こういう時って、絶対に声が揃ってるよね? 練習してんの? 


 その後、俺は正座して必死に状況を説明した。

「まず、サラとナディアに部屋に居てもらった理由だが…」

 それはもう必死に説明した。

「サラには、封印した恐怖の大王をネス様の元へと送ってもらってたんだよ! ナディアはもしもの時のために、この部屋に結界を張ってもらってたんだ!」

 微妙に事実とは違うのだが、大筋では間違ってないので、大丈夫。

「皆が考えてるような事をしたりなんて絶対にないからな! そもそもサラの嘘なんだよ!」

「マスターの仰る通りです。マスターと2人で、普段のダメダメドジっ娘サラの所業を責め立てたら、私達を困らせようと、サラが嘘を言い放っただけなのです。やましい事は何一つありません。もちろん、私はいつでも、バッチコ~イ! ですが」

 もちろんナディアも、援護射撃をしてくれたぞ。何か微妙に誤解されそうな言い回しだが…

 こうして俺の長く辛い戦いは、サラの突然の逃走という幕引きによって終わった。

 これにより、トール君は推定無罪となり、俺を陥れようとしたサラの虚言がばれた瞬間でもあった。

 ふ~…今回は、脚が痺れる前に解放されたか…


 逃げた所でサラが飛行船内から出れる訳もなく、呆気なく捕まって現在正座の真っ最中なのですが。

 婚約者~ずの、それはそれは有り難いお説教を雨霰と受けたサラは、完全に目が死んでました。何となくその説教中、部屋で寝ている事も憚られた俺は、婚約者~ずの後ろの方で、物言わぬ置物になってました。

 怒らせたら怖いんだよ…本当に…

 

 サラの説教が終わり、解放したあとでメリルが、

「ところでトール様。本当に昂ぶっていませんの? 私達は全員シャワーも済ませて、準備できてますけれど?」

 超爆弾発言をしやがった!

「何でしたら、全員でお部屋にお邪魔しましょうか?」

 た…確かに皆さん、身体のラインが透ける様な薄い寝間着ですけど…


『ふ~辛い戦いでした…』

 サラ、全然反省してないだろ! 

『してませんけど何か? それより、据え膳ですよ、据え膳! 男の夢でしょ?』

 だ~か~ら~! 俺は初めては、時と場所と雰囲気を大事にしたいんだよ!

『ふ~~~~~~~ん。つまり、ヘタレって事ですね』

 ヘタレじゃない! ロマンチストなだけだ! それこそが俺の美学なのだ!

『ナル』

 おま、それ納得したって意味じゃないよな? ナルシストって馬鹿にしたよな?

 そうだよな?

『ご自由に想像してください』

 ちくそー!


「いや、メリル。いや、皆も聞いて。そう言う大切な事は、こんな所で勢いではしたくない。皆が大事なんだ。だから、もっときちんとしたシチュエーションで、せめて初めては…ね?」

 そう言うと、全員がうるうると感動した様な目で俺を見つめた。

 うむ、回避できた。


『ナル。ヘタレの上にナル!』

 うるへー!


「そうですね…私達も少々慎みが足り無かったかもしれません。では…お約束も頂けた事ですし、こんな場所では無く、帰ったらきちんとしたシチュエーションでお願いします。皆さん、それでいいですね?」「「「「はい、お願いします!」」」」


 あれ? 回避できてない?

『ぷっ!墓穴乙!』『マスター、私達もお願いしますね』

 えっ!? 

 え?? 俺って墓穴掘った? 

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