第256話  あばよ!

 うむ、涙目のカズム君…菌糸が無くなった、いわゆる石づきって部分? 胴体の一番下で地面に接していた部分が露出してるけど、やっぱりまるっきりベニテングダケだよなあ。傘の部分の目ん玉といい、柄に出来たつば(触手?)といい、ひょろっとした柄といい…。

 香りが松茸なのが、何と言うか感想に困るんだが、キノコ怪人として立派に特撮の敵役になれる見た目だ。


 しかーし、そんな事はどうでもいい! さっさと『全部すいとーる君』で分解吸収してやるのだ!

 敵の見せ場を作ってやる程、俺様はお人好しでは無い。

 戦いなどあらゆる手段を使って、さっさと終わらせるのが吉だ。

 わざわざ敵さんの口上が終わるのを待っていたり、二段階変形したりするのを待つなんてあり得ない。

 でも、そうでもしないと、俺の見せ場はやっぱ無いって事なのかな? 

 せっかく創った新装備の出番も無いまま、終わりそうだなあ。

 ま、それはそれでいっか。


『出番も何も…そもそも見せ場って言っても、この場には観客いませんけど…』

 あのな、サラ。これは気分の問題なのだよ! 

 俺が徹夜で異常なパッションとテンションの中で創り上げた新装備が、まるっこ無駄になってしまう気持ちを考えてみろ!

『しらんがな…戦争するなら、完璧なまでの戦略・戦術と圧倒的な戦力で、抵抗させずに終わらせるのがベストでしょうに』

 そりゃそうだけど…この俺のやり場のない、熱く溢れる想いをどうしてくれようか!? 

『もう…この争いの後にでも、その全てをリビドーに変換して婚約者達にぶつけたら良いんでは無いでしょうか? もちろん私でも可です』

 それはそれで、どうなんだ?

『よく有るじゃないですか。戦いの後に猛る男が、獣の様に女性に襲いかかるとか』

 うむ…確かに映画でもラノベでも良く見るシチュエーションだな。

『ま~初めての婚約者では荷が重いでしょう。ここは私が一肌脱いで全て受け入れましょう! 性的な意味で!』

 ごめん…急に萎えた…

『何でですかー! この美少女なサラちゃんで、燃え上がってくださいよー!』

 (´・д・`)ヤダ

『くっ…何故か念話なのに、めっちゃ冷めた顔文字が見えた…』

 どんまい(笑)


 おっと、サラと遊んでるうちに、カズム本体も吸収開始だな。

 うげ…分解中のサイクロン部が真っ赤になってる…こいつ、体液は赤いのか!?

 まるで、血の様じゃねーか…グロ…とか思ってても、当然止めません。

 むしろここで秘密のスイッチ、ハイパワー・ターボ・スイッチをオンにしてやるのだ!

 このスイッチを入れると、なんと吸引力が通常の2.5倍になるのだ!

 これにより、隙間に入り込んだ埃も残さず掃除できるという、お掃除好きの主婦にとって無くてはならない機能!


 うりゃうりゃうりゃうりゃうりゃーーーーー!!! 汚物は吸引だーーー!!!

 最後のキノコの傘の部分についた目が、全部涙目で俺を見てるけど…

 だから、どうした!

『この変態ーー! 私を縛って…あ、あ、そんなとこを…』

 ん?

『やめてーー! おかされるーーー!』

 んん?

『お母さーーーーん!』

 んんん?

『あ、あ、あ、…入っていく…』

 んんんん?

『この鬼畜! 絶対に許さない! 初めてだったんだからね!』

 サラ…何アテレコしてんの?

『いえ、何も出来ずに吸い込まれていくカズムの気持ちを表現してみようと』

 いらんことすな! さっさと倒せとかいったのお前だろ!

『いや~奥様とお茶しながら戦場を見てるだけなので、暇で暇で』

 そっか…まあ、好きにしてくれ…


 残ってるのは、もう傘の一部だけ。

 天辺の目ん玉が、すでに何かを悟った様に見えるのは、俺の錯覚だろうか?

 最後は、スポン! と、『全部すいとーる君』の中へと消えて行った。

 憐れ、恐怖の大王…いや、カズム。

 この俺のいる星にやってきたのが間違いの元だったな。

 サイクロンの中で、最後まで分解に抵抗してたのは、あの目ん玉。

 ぐるぐる回っていたが、俺と一瞬だけ目があった。

 なんか目ん玉だけで、『あばよ!』って言われた気がしたが、これも錯覚だろう。

 サイクロンの中が綺麗さっぱり黒い玉の中へと吸収されたのを確認してから、俺は『全部すいとーる君』のスイッチをオフにした。


 こうして、俺の長年の懸念だった、史上最強にして最悪の敵との戦いは終わった。

 辛い戦いだった…

『いえ、簡単に終わらせてた気がしますが?』

 お前の茶々入れが辛かったんだよ!

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