第173話 試作品発表!
昼食後にリビングに集合した我が家の面々は、俺からの言葉をじっと待っていた。
ドワーフメイド衆が淹れてくれたお茶で唇を湿らせて、ゆっくりと皆を見回し、
「お集りの皆さん。研究と研鑽の成果をここに発表いたします。さあ、これが通信の呪法具の試作品です!」
全員が注目する中、俺が小脇に抱えた小箱から取り出したのは、使い捨てライターほどの大きさの2つの魔石。
よく見ると表面に細かい模様が刻まれているそれを、皆がもっとよく見ようと集まって来た。
「え~そんなに近寄らなくても、後からちゃんと使わせてあげるから、ちょっと説明を聞いてね」
俺の言葉で食い入る様に見つけていた面々も、一応は落ち着いた様だ。
「これは、遠く離れた人と話す事が出来る呪法具です。あとで皆にも試してもらいますが、この2個の魔石で1セットになります。まずは…そうだな、メリルこれ持って。もう1個はミルシェね」
そういって2人に手渡す。
「使い方は、魔石の真ん中に書いてある呪法陣の丸いマークに指を押しつけるだけです。そうするともう片方の魔石が光り始めますので、光ったら丸いマークに指を押しつけてみてください。んじゃ…メリル、ちょっと丸いとこに指をあててみて…」
指示通りにメリルが魔石に刻んである呪法陣に、しなやかな白く綺麗な人差し指を、そっと押し付けた。
やがて魔石がぼんやりと明滅を始めると、メリルは驚いたのか口をパクパクさせた…ちょっとおもろい。
同じように手に持っていた魔石が急に明滅を始めたミルシェも、どうした良いのかわからず不安そうに、魔石と俺の顔を視線が行ったり来たりしている…さっき説明したんだけどなあ…
「ミルシェ、光り始めたら丸いとこに指をあてて。それで話が出来る状態になるから」
ミルシェは、メリルよりちょっと日に焼けた、でもほっそりとした人差し指で、おっかなびっくりそっと陣に触れる。
すると、2つの魔石は明滅を止めてぼんやりと光り続けた。
「トール様、どうしたらいいのですか?」
あたふたしながらメリルが俺を見つめる…何故に涙目?
「慌てないで。その魔石に話しかけてみて」
メリルは眉間にしわを寄せながら、小声で、
「『えっと…魔石さん、魔石さん…』」
メリルの声がだぶった。当たり前だが、目も前に居るミルシェの魔石から発せられたものだ。
ってか、魔石に話しかけるって、そういう意味じゃ無かったんだけどな(笑)
「「「「えっ!?」」」」
集まった一同、目ん玉が飛び出るぐらい見開いてる。ちょっと面白い…ごほん…
「それじゃ…ミルシェそのまま廊下に出て、魔石に向かって話してみて」
めっちゃ壊れ物を運ぶように魔石を掲げ持って、しずしずと廊下にミルシェが出ていった。
『あのぁ…トールさま…これでいいんでしょうか?』
メリルの持つ魔石から、ミルシェの声が聞こえて来た。
「「「「おお!」」」」
ふっふっふ…どうだ、すげえだろう!
「メリル。ミルシェに戻ってくるように、魔石に話しかけてみて」
あたふたしながらも、メリルが魔石に向かって、
「ミルシェ、戻って来てくださいって、トール様が…」
廊下にいるミルシェにも、ちゃんと伝わったらしく、またしずしずとリビングに戻って来た。
「まだまだ試作品で、改良しなくちゃダメなとこもいっぱいあるんだけど、ユズキとユズカと3人で作り上げた通信の呪法具です。互いに持っていれば、遠く離れた所に居る家族とも話が出来る様になるよ」
そう言うと、ミレーラやマチルダさんが、すごく嬉しそうに呪法具を見ていた。2人共、実家は遠いからなかなか家族に会えないし、手紙で伝えれる事にも限りがある上、タイムリーじゃないからね。
やっぱ遠距離通話が出来るっていいよね~。完成したらちゃんと2人にあげるからね。
「あ、通信が終了したら、丸い所をチョンチョンって2回触ってね」
メリルとミルシェが言われたとおりに、指先でチョンチョンと陣に触れると、魔石の光は収まった。
その後、みんなが代わる代わる通信の呪法具を使って遊んでいた。
裏庭とリビングとかに別れて話したりしてたようだが、まあそんな距離で通じなくなる事は無い。
多分、この大陸の端から端まででも通じるはず。
ただ…この形だと、周囲の人に会話が筒抜けなんだよね。
あと、呼び出しが光るだけだと、携帯のバイブをオフにしたマナーモードみたいで、着信に気付かないかもしれない。
まだまだ改良点はいっぱいある。
「今後は市販化に向けて、さらなる問題点を洗いだして改良して行きます。もうしばらくこの呪法具製作にユズキとユズカに手伝ってもらいますので、みんなでその他の仕事は手分けしてください」
今日のとこは、こう締めくくっておこう。
ん? そういや、サラはまだ30階層攻略出来ないのか? そろそろ許してやるか…
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