第172話  そう言えば…

 ユズキとの相談の結果、まずは色々な呪術具を作りだすよりも、新たな理の手引書を作成するべきだという結論に達した。

 道具だけ造りだして普及させても良いのだが、それだと全ての呪術具を、俺達だけで作らなければならない。

 呪術具製作が出来る専門職や工房を作れば、それだけ俺達の負担が減るという事で、呪術陣の教本というか手引書を作り、それを世に広めた方が簡単じゃね? って考えたんだ。

 まあ、今作りたいのは通信機だけなんだが。


 1週間ほどの試行錯誤の末、【呪術陣作成の手引書】が完成した。

 途中、何度かユズカが頭から煙を噴き出したり、口から魂が抜けそうになったが、ユズキが必死に繋ぎ止めていた…この世に。

 手引書のための尊い犠牲者が出なくてよかったよ…割とマジで。

 ただ、手引書が完成した瞬間、マチルダさんに執務室の机に物理的に縛り付けられ、書類の山と格闘して死にかけはしたが…


 兎にも角にも完成した手引書を元に、通信機を作ろう!

 まずは、我が家で惰眠を貪るノワールこと、モフリーナとの連絡要員である猫又に、モフリーナにてきとうな魔石を用意して貰う様に連絡をお願いした。

 質より量。初期は失敗もあるだろうから、とにかく数を揃えてもらう。

 ノワールによると、モフリーナは『すぐにご用意させて頂きます』との返事だったらしいので、5~60個ぐらいあったら嬉しいな、などと考えていたら甘かった。

 1個数十グラムの魔石が10㌧近く屋敷に届いた。

 うん、俺の言い方が悪かった…嬉しいけど多すぎだって。

 しかも真夜中にゴーレムが荷車を引き、人目に付かぬ様しずしずと運んで来てくれたのだが、まるで笠地蔵がお礼の品を運んで来た様だった…雪は降ってないけど。

 あまりにも多すぎたので、荷車1台分だけ地下シェルターに運び込んでもらい、後は丁重に引き取ってもらった。

 もちろん、モフリーナへのお礼の手紙を持たせた使者を、帰りのゴーレムについて行かせたのは言うまでも無い。

 気遣いは大事。これを忘れるとあっという間に交友関係は崩れるからね。

 

 さて、呪術陣作成の手引書は完成したのだが、呪術陣を魔石に刻む工程はまだ未完成…っていうか、やった事が無いので、また試行錯誤をしなければならない。

 ユズカは、目の前にうず高く積み上げられた魔石を見て、ダッシュで逃げた。

 その逃げ足は、オリンピック100m走で確実に金メダルを取れるほどのダッシュだったが、もちろん俺が逃がす訳がない。捕まえて襟首掴んで引きずり戻した。

「鬼! 悪魔! 人でなし! キ〇コルゲ!」

 散々な言われ様だ…ってか、最後のは超人バ〇ム・1の怪人だろーが! 

 しかも見た目が巨大キノコに目が付いた奴だろーが! 

 そういや、キノコ〇ゲって夜行性だったな…ある意味あってるかも…

 だが、何でそんな古いの知ってるんだよ!

「マニアの基本です!」

 さいですか…もうユズカに突っ込むのやめよう…


 さて、今度は使い捨てライター程の大きさの魔石に、ちまちま呪術陣を刻みこむ日々の始まりです

 もう細かい細工すぎて、目がしょぼしょぼします…

 色々な試行錯誤の結果、硬い針で魔石に陣を刻むのが最も効率と成功率が高い事が判明。山の様な失敗作の果てに、とうとう呪術陣を確実に魔石に刻み込み、陣の効果を発揮させる技術を確立できました! いや~1週間長かったよ。

 ユズキは楽しそうにやっていたが、ユズかは途中何度か「うがー! こんなチマチマしたのなんて、やってられるかー!」と何度か爆発しておりましたが。

 これも性格が出るんだなあ~。

 ユズキ、本当にユズカでいいのか? あんなユズカも可愛い? さいですか…


 そう言えばサラがやたらと静かだな…どこ行った? まさか真面目に仕事などしてなかろう。

 あ! モフリーナへの御礼の手紙を持たせて、ゴーレムに同行させたんだった!

 あれから見てないけど…ちょいモフリーナに確認してくれるか、ノワール君。

 ほうほう…ただいまダンジョン19階層をソロで攻略中とな?

 なんでそんな事に? え? サラが魔石の質が悪いからお返ししますと言った?

 それに怒ったモフリーナが、それじゃ自分で取って来いとダンジョンに放り込んだと…ダンジョンに念話を防止する障壁まで張ったの?

 うん、そのまま攻略続行させてていいよ。30階層を攻略出来るまで、帰らせないでってモフリーナに伝えてね。よろしく~。

 うん、屋敷が静かでいいね! 


 さあ、それでは完成した呪術具を皆に発表しましょう!

 本日の昼食後に、全員リビングに集合!

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