第157話  定番だからね

 真アーテリオス神聖国の方々との挨拶も無事すませ、取りあえずだが代表者だけホワイト・オルター号へご招待する事に。

 首長であり、ミレーラの又従兄のべダムさんと騎士数名を船内に招いた。


「これは…すごいですな、使徒殿…」

 船内に足を踏み入れ、とある一室を見たべダムさんの第一声。

「女神ネス様がお創りになられた、使徒の使命を果たすためだけの船ですので華美な装飾など一切ない実用本位の船内ですが、それゆえ各機能は非常に良く出来ておりますよ」

「使用感は…?」

「最高の一言です!」

 右手を握りしめ、親指をピンっと立ててウィンク付きの最高の笑顔で答えてあげました。

「さ…早速使わせて頂いても?」

 もう会話中も目が離せない様だ。

「どうぞどうぞ。我々は離れておりますので、ごゆっくり…」

 俺の返事を聞くが早いか、早速扉の向こうへと消えて行った。

 water closet … washroom … toilet … 国によって呼び名は違うが、つまりは便所。

 異世界物では定番の温水洗浄機能付き便座を、魔石を利用してドワーフ職人さん達と開発したのだが、両親だけでなく民衆にも大好評だった。

 魔石を使用しているので少々お高いのだが、販売予定にしている。

 陛下にも献上する予定だが、城中に付けろとか言われると面倒なので、陸送便で送りつけてやろう。

 扉の向こう側では、暫し何の気配も感じられ無かったが、不意に…

「あぁ…? おぉ! うひゃ! ひょほほほほほほほほほほおぉぉ!」

 うん、《水流 弱 ⇒ 強》にしたね。あ、そのあと《ムーヴ》入れたのかな? まさか最後は《ビデ》にしてはおるまいな?

 実は、男がビデ使うと微妙な所に当たって気持ちが…いや、何でも無い…


 ビデってのは、元々は女性器の洗浄だけでなく、肛門の洗浄もその用途に入っていたんだって。実は地球でも17世紀以降のヨーロッパではかなり普及していたらしい。当時は水を溜めていただけらしい。その後、19世紀頃から便器とは別に洗浄用の水道がついた便座っぽい洗浄専用の物が併設されていったそうだ。便器と一体化したのはアメリカさんが世界初だが、魔改造して現在の良く知られる洗浄機能付きトイレの形にしたのが日本だって話。

 聞きかじった程度の知識なんで、本当かどうかは良くわからないけどね。

 

 やがて、赤い顔で興奮した様子のべダムさんがトイレから出てくると、

「使途殿! この便器は我々でも手に入るのだろうか?」

 自国の首長のあまりの興奮振りに、一緒に乗船してきた騎士さんは困惑気味だ。

「ええ、この便器を真似て開発した便座を、近日中に発売予定です。よろしければ発売と同時に贈呈いたしましょう」

 ふっふっふ…輸出するぞ! 外貨獲得だ! 微々たるものだけど…

「おお! して…何個ほど?」

 厚かましいな! 

「1つだけで申し訳ないのですが」

 もっと欲しけりゃ買え!

「ふむ…出来ればその時に10セットほどお願いできないだろうか。無論、代金は支払わせて頂きますれば…」

 ほう…そう来ますか。

「分りました。他ならぬべダム様のご用命とあらば、出来る限りご要望に沿える様に努力いたしましょう。ただ、まだ販売価格が決まっておいりませんので、そこはご容赦を…」

 ボッタクリたいところではあるが、ここは適価で提供だよな。

「無理を言うのですから、輸送費を含め相応の金銭は用意させて頂きます」

 ガッチリと握手しました。

 そんな俺達を、周囲の人々は無表情で見ていた。

 この話題は流す事にした様だ…トイレの話だけに…


 その後は、全員が下面がガラスで出来たコクピットを見たり客室を見学したりと、1時間ほどかけてキャビン内をウロウロしてから、帰って行った。

 王国の某軍務大臣の様に、この船をよこせなどと言う不埒者はいなかったので、ちょっと安心かな。

 まあ、俺に敵対すると、また太陽神の天罰の雨霰が降り注ぐ可能性が有るからね。

 戦争の時の事は、まだ記憶に新しいはずだし。

 別れ際にべダムさんへ、明日は真アーテリオス神聖国へ入国する事と、出来ればミレーラのご両親にも、一緒に城に集まってもらいたい旨を伝えると、二つ返事で了承してもらえた。

 余談ではあるが、べダムさん…つまりこの国の首長が住んでいるのは、戦争前は教皇宮殿と言ってたらしいが、現在は単に城と言っているらしい。


 我が家の面々には、内覧会の最中は、客室でおとなしくして貰っていた。

 ミレーラも、べダムさんの顔を見ただけなんだが、満足そうだった。

 妖精のナディアや天鬼族3人娘のお披露目は、明日にする予定。


 明日はいよいよ真アーテリオス神聖国入りと、ミレーラのご両親とのご対面だ。

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