第150話  ずっと気掛かりだった事

 さてさて、そんなこんなが有りましたが、王都に到着した翌日の昼過ぎ、我が領に向けてホワイト・オルター号に、王家一同+付き人を新たに加えて、空の旅に出発する事になりました。


 王家から、国王と3人の妃、3人の王子と4人の王女(メリルも王女だが俺の家族枠なので勘定に入れない)と、付き人が10人、我が家が総勢15名(メリルはこっちに計上)の合計36人が今回ホワイト・オルター号に搭乗することになった。

 部屋数は30だけど、シングル、ダブル、ツインがあるので、何とか部屋割りは出来た。

 部屋割りって修学旅行とか以来の言葉だな…前世の会社では社員旅行とか無かったし…

 

 練兵場に集まった人々に、手を振りつつ笑顔でタラップをあがる王家一同は、まさしく王族! って感じで、堂々としていた。

 俺? 俺は、な~んも考えずに普通にあがったよ。メリルに言われて、振りかえって手は振ったけどね。

 俺が手を振った瞬間、練兵場に集まった皆から、王族に向けたものより大きな歓声が上がったのは何でだ?

 え? 佞臣であった軍務大臣を誅した英雄扱い? ま、いいけど…何でそんな事をメリルが知ってるの?

 あ、兄妹に聞いたのね。んで兄弟はお付きの人に聞いたと…なるほどね。


 往路でぐるぐる飛び回った事により、この国の地理情報がたんまりと蓄積された。おかげで、簡易的な自動操縦も出来る様になりました。

 あくまでもこの情報のある区域限定だけどね。 


 空いた時間は、実質アルテアン家と王家しか乗っていない船内で、他人の耳目を気にする事なく、色々と話が出来た。

 今回の件が有るので、父さんには、早く王都に移り住んでもらって、空席の軍務大臣に就任してもらいたいと、陛下は思ってる事。

 俺が、王都にネス教の教会を造りたい事と、各領地にネスの神像と、巫女を置きたい(これに関する思惑はまた後程明らかにします)と思ってる事。 

 平和的で協力的な周辺各国との、今後の外交に関しての協議…等々。

 実に有意義な時間であった。王家とアルテアン家の密談の時間とも言うが。


 密談の中で、メリル達と俺との結婚についての話題も出た。

 ミレーラの年齢もあるのだが、ミレーラに関してだけ正式な籍は15歳で入れるとして、先に式だけでもあげちゃえと。

 そして、さっさと子作りしろと言われた。

 おっさんが2人も居ると、話題がお下品ですわよ?


 コルネの婚約者選定について…は、もちろん強力に反対したよ? 俺が!

 コルネちゃんに婚約者など不要だ! 純潔の天使は、生涯俺が護る!

『『大河さん(マスター)、それはあんまりだと…』』

 サラもナディアもうるさい! いいんだよ! コルネちゃんは、生涯俺の妹だ!

『『結婚しても妹ですけど?』』

 ……そうとも言う。

『『いえ、そうしか言いませんが?』』

 ちくしょう! 2人がかりで反論とは卑怯なり!


 そんなこんなで、空の旅を楽しみつつ、色々と実りのある話が出来た…はずだ。


 ちなみに夜間は着陸せずに、空中で静止した状態でシールドを張って一泊した。

 空から見る夜空って、綺麗だろうなって思うでしょう?

 この世界では、夜はさっさとみんな寝ちゃうんで、夜景は真っ暗です。

 月と星だけが光ってますが、それも頭上にある船体のせいで真上は見えません。

 もちろん横に窓はあるので、遠くの星空は見えるんだけど…地上で見ても、大した差はない。

 備え付けのお風呂でさっぱりしたら、それぞれ割り当ての部屋でさっさと寝るみたい。

 

 俺もちょっとねぶいんで、さっさと寝ちゃおうかな。

 そう考えながら、ぽてぽて通路を歩いていると、ミレーラが物憂げな表情で独りで窓から外を見ていた。

 彼女が、俺の元にたった独りでやって来て、もうすぐ1年が経とうとしている。

 大体いつもメリルかミルシェが一緒に居るから、2人だけで話す機会があまりなかった。

 ずっと気になってた事もあるので、ちょうど良いタイミングだし、ちょっと話をしようかな。

「ミレーラ、眠れないのか?」

 時折、こうしてミレーラは寂しそうな顔をする。

 分かっているんだ…彼女の故郷は遠い。

 メリルは俺の元に来てからも、こうやって何度も実家に…両親や家族に逢うことが出来るが、彼女は…

 そもそミレーラの両親とは顔も合わせた事が無い。

「トールさま…はい、なんだか寝付けなくて…」

 シールドを張っているとはいえ、上空で停止していれば、船内の気温も多少なりとも下がる。

「風邪をひいたらいけない。ほら、これを掛けて」

 俺が着ていた上着を、彼女に掛けてあげた。

「あ、ありがとうございます」

 嬉しそうに、俺の上着に頬ずりしてる様に見えるが…匂い嗅いでるの見えてるからね?

「故郷が恋しいかい?」

 そう、ずっと気掛かりだった事だ。

「…いえ…そんな事は…」

 そして、ミレーラは絶対に否定するという事も、俺には分かっていた。

 グーダイド王国と真アーテリオス神聖国間で起こった戦争での、戦利品、人質、生贄等々…彼女を揶揄する、心もとない声は後を絶たない。俺も当初そう思った事は否めない。

 だが、今は違う。

 慣れない王国での生活の中で、時間が掛かってはいるが、一生懸命に王国の法や慣習を学び、吸収し、俺の執務を手伝うまでなってくれた。メリルやミルシェとも仲が良く、恐怖の大王と戦う使命があると告げた時も、気丈にも俺を支えると断言してくれた。

 王国の制度を、この世界を根本からひっくり返す改革を行うかもしれないと宣言した時ですら、ただ俺について行くと真剣な顔で、目を逸らさずに告げてくれた。

 そして、これは3人ともだが、俺を誰よりも愛している…とも言ってくれた。

 

 俺を愛してくれる女に、俺が愛する女に、寂しい顔なんてさせたくない。

 だから、俺はミレーラにこう言った。

「王家ご一行が、神木とネス様を詣でた後、王都までお送りするだろう?」

「…ええ、そうですね」

 何を当たり前の事を、と言いたそうだな。

「その後だが、真アーテリオス神聖国へ行こう。ミレーラのご両親へも挨拶をしたいからさ」

 俺の言葉に目を大きく開き、驚いた顔で固まったミレーラだった。

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