第127話  俺の為に!

 もう色々と諦めたよ…やりすぎちゃった俺にも責任あるし、仕方がないかなと。

 でも、悠々お気楽極楽ライフは諦めない! 絶対にだ! 

『残念ですが、それは難しいでしょうね』

 何んでだ? サラ、何でだ?

『だって大河さんは、結局は勤勉に働いてしまう、根っからの日本人気質じゃないですか』

 だからこそ、この星でスローライフをだな…

『そもそも、スローライフというものを理解してませんね?』

 そりゃ、日がな一日中ぼ~っとしたり、のんびりしたり、趣味を楽しんだりする生活なんじゃね~の? 

『それはスローライフとは言えませんね。ただ目的もなくぼ~っとするのも、のんびりするのも、趣味を楽しむのも、単にダラダラした生活ってだけです。働いたら負けっていうニートと同じです。そもそもスローライフとはですね、時間単位で働く大河さんの生きていた現代社会から脱出し、日、週、月、年単位という大きな時間の単位で働きながら、その余剰時間を使いいかに心豊かに……』

 わかったわかった! んじゃやっぱりお気楽極楽生活って言うから! スローライフなんて言ってごめんなさい。

『分かればいいのです。所詮、大河さんには高尚なスローライフなど出来ないのです! せいぜい田舎で暮らす程度です!』

 酷い言われ様だな…いいよもう。俺はダラダラ生きたいんだよ! 


 でも、俺はゆっくりできる時間が欲しいんだ…いや、家族とゆっくりと過ごせる時間が欲しいんだ。


 そう、前世の大河芳樹として生きていた頃、俺は結婚していた。

 4歳年下の嫁さんは、ちょっと気が強かったけど、恋愛結婚だった…はずだ。

 結婚して2年後に子供が生まれた。嬉しかった。

 ちょっと標準より小さかったけど、可愛い女の子だった。名前は、ほのか と付けた。

 俺は、家族に良い暮らしをさせたくて、懸命に働いた。

 空手も引退して、昼も夜も無く働いた。

 ほのかが4歳になった時、俺に言った。

「おとさん、つぎはいつくるの?」

 朝6時に家を出て、帰ってくるのは深夜0時。

 いつも帰って見るのは、嫁とほのかの寝顔だけだった。出勤前に見るのも同じ顔。

 休日返上でひたすら働いたので、給料はかなり良かったが、その分だけ家族との時間は取れなくなっていた。

 たまの休日に、嫁と子供を連れて遊びに出かけても、子供はまるで‟顔は知っているが他人”に接するように、微妙に心に距離があった。

 次はいつ来るのって…俺は、毎日ちゃんと家に帰ってたのに…愛人に産ませた子供じゃないんだぞ。

 その頃から、嫁の様子もだんだんおかしくなっていった。心が離れていくのが分かった。

 そしてある日、嫁は俺に言った。

「もう別れましょう。ほのかは私が育てるから。あなたと一緒には暮らせない」

 浮気と言う訳では無いのだろう…もっと傍に居てくれる人が良いと言われた。

 もう、あなたから心が離れているから、一緒に居たくないとも。

 あなたは良いお父さんだと思う、本当にほのかを可愛がっていたと思うけども、それは自分の都合の良い時にだけでしょ…とも。

「さようなら…」

 そして、俺達は別れた。

 俺は、独りきりになった。

 仕事も手につかなくなった。

 あんなに仕事仕事と言っていたのに、何も出来なくなった。

 そして気が付いた。

 そうか、俺が仕事をするのは、金を稼ぐ事が目的じゃ無かったんだと。

 家族と幸せな暮らしをするために、豊かな暮らしをするために金が欲しかったんだと。

 そして、目的を忘れて仕事に入れ込み過ぎて、いつしか金を稼ぐ事が目的にすり変わっていた事に気が付かなかったんだと。

 俺は豊かな生活の為に、家族との心豊かな生活を置き去りにしていた事に、遅まきながら気が付いた。

 もう手遅れなのに。


 独りになった俺は、もう仕事は食えるだけ稼げればいい、余暇を楽しもうと、また空手を再開した。

 道場の子供達は家族でもないのだが、ものすごく可愛がった。

 本当の家族でもないのに…俺の満たされない感情や欲求が、そうさせたのかもしれないな…一種の代償行為だったのかもしれない。


 だからこそ、せっかくもらったこの命だからこそ、この世界では幸せになりたい。

 愛する家族との時間を、一緒に過ごす時間が欲しい。

 毎日、色んな事を話し、一緒にご飯を食べて、一緒に遊びに出かけて、子供と家族と色んな想い出を作りたい。


 婚約者~ずは、まだ本当の家族じゃ無いのかもしれない。

 でも、いずれ本当の意味での家族になれる気がしている。

 まあ、ミルシェは子供の時から一緒だから、もう家族みたいなもんだけど。


 そう、俺の家族との大切な時間を邪魔するものは、全て排除する!

 恐怖の大王? そいつに勝たないと世界が終わる? 世界なんて知った事か!

 父さん、母さん、コルネちゃん…絶対に護るんだ!

 俺の幸せな時間を邪魔するなら、恐怖の大王だろうが国王だろうが神であろうが、全力全開でぶっ飛ばす!

 誰にも邪魔はさせない! たとえどんな手を使ってでも! 

 今いる家族のためにも、そしてこれから出来る家族の為にも!

 そして何より、俺自身の為に!

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