第126話 王家の話
悲しい…何が悲しいって、俺の極楽お気楽異世界ライフが、強大な権力によって邪魔されているという事だ。
どうやら、心の叫びを吐露した父さんと、それを聞いた国王さんは、2人で隠居後の事をコソコソと計画してたようだ。
いや、ようだじゃない。完璧に計画を立てていた。
ここでグーダイド王国の王家の話ちょこっとしよう。
サンデル・ラ・グーダイド国王には、3人の王妃がいる。
第一王妃には、1男2女。第二王妃には、2男1女。第三王妃には、2女。つまり、王子は3人、王女が5人いるわけだ。
俺の婚約者の第四王女のメリルは、第三王妃の子である。
先の真アーテリオス神聖国で戦の指揮をとっていた…というか、お飾りの旗頭だった第三王子ウェスリーは、第二王妃の子。
継承権第一位である、第一王妃の子であり王太子である第一王子はすでに成人し、王都で薬学研究所で主任研究員をしているらしい。
第二王子は、同じく成人し、官僚として貿易関係の仕事をしている。第三王子は、士官学校を卒業後、士官として騎士団で勉強中だとか。
王女様達は、第一、第二王女は結婚済み。第三、四王女は、婚約済み。第五王女は、まだ8歳だそうだ。
基本的に、この国の王家はある程度の権力は認められてはいるが、議会が政治・経済を担っている。
議会で決済の下りた書類に承認印を押すのが、国王の主なお仕事。
国王の強権を発動する事もあるが、臨時議会で過半数の議員の反対があれば却下される。
司法に関しては、きちんとした裁判制度があり、(形式上だけだが)王家をも裁く事が出来る権限を有している。
まあ、王家や貴族家に対しての忖度が全くないとは言えないが。
何でかと言うと、貴民・勲民と官僚が行う議会で政策や予算編成が決まるんだが、貴民つまり貴族家は世襲出来る。
貴族への叙爵は国王の権限であるし、廃爵も国王の権限であるから、国王に逆らう貴族家は、まず無い。
なので、どうしても貴族は議会で王家寄りの決議をしてしまう傾向がある。あからさまにはしないけどな。
そんなわけで、そんなに国王…王族だからといって、絶対的な権力は無いが、ある程度の発言力は有るわけだ。
まあ、この国の王様や王家ってのは、衆目に晒される国家の象徴たる地位で、日本の天皇家とイギリスの王家との中間って感じかな。
父さんと国王は、研究馬鹿な第一王子では政務に関して、ただの神輿になってしまう可能性を危惧していた。
第二王子は経済には明るいが、政治・政策は得意では無い。
第三王子は、筋肉馬鹿であり、軍事には明るいがその他はダメ。
つまり、この国の将来の…次代のダメダメな国王に、信頼できる宰相を付けたいと考えていた。
まあ宰相っても、国王のサポート役であって、特に権力は無いそうだが。
議会で決議の終わった政策に関して精査し、問題があれば国王に奏上したり、議会に差し戻す事が出来るだけの権力は持っているのだが、自ら何か政策を決定したり出来るほどの権力は無い。多少の自由に出来る予算があるみたいだから、日本の官房長官っぽいな。まあ名前は同じでも、地球でいう宰相と同じじゃないって事か。
なので宰相には、真摯に仕事に取組み、収賄に転ばず、公正明大な判断を常に下せ、スキャンダルなど起こさず、機転が利き、国王に忠誠を誓える人間が求められてるらしい…めっちゃ大変な仕事だな。
国王も色々な伝手を頼り探したらしいが、どうにもそんな人間は見つからなかったらしい…まあ、ホイホイとそんな奴いないわな。
ところが数年前に俺がネスを創ってしまった。そしてその使徒となり、領地は加護を賜った報告が入った。
調べてみれば、先の大戦の英雄の息子であり、5歳にしてスタンピードから村を救った若き英雄であり、すでに謁見もしたあの子供。
おまけにダンジョンとも良好な関係を築く事に成功し、王国の経済を大きく発展させたあの子供。
止めに真アーテリオス神聖国との戦では、ネスだけでなく太陽神まで呼び出し、死者ゼロで戦を収めてしまった。
娘である第四王女も惚れているなら、これ幸いと婚約者にしておき、時を見て昇爵をして宰相に就けてしまえと。
ただ聖なる女神ネスの使徒である俺を、はたして王国の都合で使っても良いのかと、悩んでいたそうだ。
だが先日、父さんの心の内を聞いた俺が、父さんに侯爵になれと言った事が切っ掛けで、国王は俺が将来は侯爵を受け継ぐ気があると判断。
これは好都合! しかも事態は近いうちに良いように好転しそうだ!
王都に居を構えさせたとしても、今回の蒸気自動車の開発で、領地との行き来もかなり時間短縮が出来るので、問題は小さくなった。一年の半分でも王都に居てくれたら御の字。
それに、まだまだ色々と研究・開発する気だと聞けば、もうやるっきゃない!
これなら…元々、国王が考えていたプランに多少の変更は必要だが、父さんを巻き込んで計画を強力に推進してしまおうと。
「つまりは、こういう事ですか? あなた」
父さん、懲りないなあ…何かするなら、最低でも母さんに相談か報告ぐらいしとけばいいのに。
「ああ…うん。その通り。将来、トールヴァルドを次期国王の補佐として宰相に就けたいと、陛下に相談されたんで…」
まあ、それは仕方ないよな。
「トールちゃん、あなたはどう考えてるの?」
う~~~ん…でもなあ。
「何となく将来的には、国の中枢に取り込まれるのかも…とは、考えてたよ。メリルと婚約した時からね。だから、そんなに父さんを責めないで。ある程度の覚悟は出来てたから」
「そう。無理なら無理とお断りするのですよ? あなたはそんな下らない役職よりも大事なお役目があるんですからね」
母さん…宰相を下らない役職って、豪気ですな!
それはそれとして、ネスの使徒ね…あれは元々でっち上げだからなあ…。
「うん、大丈夫。その時は、また色々と母さんにも相談するよ」
「そう? 良い子ね、トールちゃんは。いつでも母さんに相談なさい。あなたには、いまからお話があります。部屋に行くわよ!」
父さん…また折檻されるのね…色々と搾り取られるだろうけど…枯れるなよ?
でも、宰相って国王に忠誠を誓える人間なんだよな? 俺にそんなのあると思う?
『あるわけないですよね。すでにこの国だけでなく隣国も欺いてますし!』
うん、さすがサラは良く俺の事を判ってるな。
もうネスと太陽神だけでも、とんでもない大嘘つきだもんな。
『しかし、マスターは誰も不幸にしていません。むしろ幸せにしているんですから、詐欺と同列には出来ません。あんな国王になど、形だけの忠誠を誓えばいいのです。
いいえ、形だけでも畏れ多い! マスターに補佐してもらえるだけでも、この国の王は、感涙に咽び、跪き、地に額を擦り付け乍ら感謝すべきです! むしろ忠誠を誓うのは、この国の王の方です!』
ナディア…最近、発言内容がちょっと過激じゃないかな…生みの親として、ちょっと将来が心配だよ。
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