第109話  初めまして

「これは……また、立派な御神木だな……」

 父さんは、裏庭に立派に育ったクスノキを見上げながら呟いた。

 決して【こんないきものは、まだ日本にいるのです。たぶん……】の奴が、夜中にドンドコ太鼓の音させながら、ん~~~ぱっ! とかやって芽が出て、一晩で育ったんではないと思いたい。

 いや、別にそれでも良いんだけどさ。

「これも聖なるネス様のご加護のおかげでございます」

 ナディアがそう言えば、誰も何も言えなくなる。

「コルネリア、これからナディアと一緒にこの生命の樹を守っていくんだよ。この樹が何で生命の樹というのかは、近いうちに分かるからね。ナディアの言う事をよく聞いて、しっかり世話をしてね」

「はい! お兄ちゃん! ナディアさんもお世話のしかたを教えてくださいね!」

 うんうん、それでいい。

『マスター、コルネリア様はとても素直で良い子ですね』

 でっしょ~! か~わいいんだ~! 自慢の妹だよ~!

『なるべく早く配下の妖精を生み出します』

 お願いね。


「あの~トールヴァルド様、昨夜みんなで話したのですが……私達もコルネリアちゃんの様な神具をネス様から賜れないでしょうか?」

 婚約者を代表して、メリルが俺に尋ねてきた。ミルシェ、ミレーラもコクコク頷いている。

『ほら~大河さん、言った通りになったでしょう?』

 まあ、サラでなくとも予想は出来た事だけど。

 ミレーラは元々太陽神の姫巫女だったから、神様から賜った神具ってのに惹かれるんだろうけど、メリルとミルシェは単にあの変身出来る衣装が欲しいんだろうな……でも、ここは心を鬼にして断る!

「それは難しいと思う。神具はネス様の巫女であるコルネリアだけだね。だけど、これも後から説明しようと思ったんだけど、3人にはネス様の眷属が側仕えとして来ることが決まってるんだ」

 神具がもらえないと分かるとガッカリ俯いたのだが、ネス様の眷属と聞いた瞬間、バッ! って勢いで顔を上げた。

 

 ナディア……悪い、3人用の妖精も生み出すね。

『ええ、それは構いません。ですがコルネリア様用の妖精と同じモデルでもよろしいのですか?』

 ちょっと手を加えて、ナディアの下位互換にバージョンアップした妖精にするよ。

 エネルギーを余分に消費すれば、生命の樹から改良型も創れるはずなんだ。その様に創造したから。実はこんな時のために、ちゃんと改良型妖精も設計して生命の樹にセットしておきました。

 でも、ナディアの配下の妖精をひとまず生み出そう。

「みんな、この生命の樹は何でこんな名前なのか分かる?」

 メリル、ミルシェ、ミレーラだけじゃなく、父さん母さん含め全員が頭にクエスチョンマークを浮かべてるよ。

「それはね、ネス様の眷属となる生命を生み出す樹だからだよ。見てごらん」

 そう言って、ご神木の上を指さすと、身長30cmほどの萌黄色に輝く蜻蛉の羽が生え、羽と同色のワンピースを着た少女がふわっと飛んで来て、俺の肩に降り立った。


 小さな少女は、スカートの裾をちょんと持ち上げ礼をすると、

「皆様、初めまして。聖なる女神ネス様の眷属であるナディア様、使徒であらせられるトールヴァルド様の配下となるべく、生命の樹より生み出された妖精でございます。よろしくお願いいたします」

「という訳なんだ。なんでこの樹が大切で、ナディアが派遣されてきて、巫女が世話をするのか分ったかな?」

 みんな、めっちゃ高速でコクコクしてる。

「それでこの妖精には、コルネリアを常に陰で護ってもらう事になります。もちろん姿を消して」

 そう言って、妖精に目くばせをすると、すーっと空気に溶け込むように姿を消した。

「「「「「「えっ!?」」」」」」 

 皆が驚いた後、今度はすーっと空気から滲み出る様に姿を現す妖精。

「「「「「「ええっ!?」」」」」」  

「こうして妖精は姿を消す事も出来るんだよ。だから陰から護ってくれる。3人には特別な妖精が派遣されてくる予定だから、少し待っててくれるかな」

「「「はい!」」」

 うん、いいお返事です。


「トールよ、その妖精様は1人だけなのか?」

 父さん良い質問だ!

「僕の肩に乗っている妖精は、まだまだ生まれてくるよ。基本的には姿を隠して暮らしてるから見えないかもしれないけどね。用事があって呼んだ時や、緊急事態で妖精の力を使う時には、姿を見せてくれる事もあると思うけど」

 みんな、昨日から展開が急すぎて付いてこれないのかな?

 まあ、付いてこれなくとも、どんどん色んな対策は進めちゃうけどね! 

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