第92話 修練開始!
半年前のサラの恐怖の大王がこの世界にやって来る予言から、俺の中で何かが変わった……気がする。
どんなチートな相手なのか不明な状態で出来る事なんて何も無い気もするが、取りあえず精霊さんと魔法に関する修行を行った。
俺と精霊さんで何が出来て何が出来ないのかを明確にしておきたかったからだ。
結果的に、俺が土・水・火・風の属性の組み合わせでイメージできる事に関しては、大体出来る様だ。
尤も恐怖の大王が俺みたいに精霊さんと意思疎通が出来て、精霊さんを味方に付けないとも限らない。
つまり精霊さんが敵側につく事も考慮しなければならない。
そう考えると、俺は魔法を本当の意味では使ってなかったって事になるんだよな。まあ、分かってた事だけど。
結局は、俺自身がパワーアップする必要があるって事だ。
前世で長い時間修練した空手ぐらいしか、俺自身が頼るものは無い。
空手だけが俺の自慢であって、唯一誇れるものだった。
この世界に産まれてからずっとコツコツ修練を積んできたが、俺の肉体はまだ12歳の子供。
チートだとか言われても、俺の肉体は一般的な人間の子供と何ら変わりない。
魂のエネルギーが多いからチートって言われても、それを活かす術が全くないのが現状だ。
だからこそ、空手の技を磨く。もしも魂のエネルギーを使って肉体を強化できる方法が見つかれば、その時に役立つように。
いや、少しでも自信を付けたいと思う弱い心からかもしれんな。
努〇した者が全て報われるとは限らん! しかし、成功した者は皆すべからく努〇しておる! って、かの有名なボクシングの道へはじめての一歩を踏み出した虐められっ子に言った某トレーナーのセリフにもあるじゃないか!
だから努力は怠らない。例えそれが無駄になろうとも、積み重ねる事が自信に繋がるのだから。
毎日の日課としてこっそり人目に付かないよう早朝にやっていた空手の型の稽古を、日中も繰り返し行った。
よく空手の型なんて実践で役に立たないなんて言って、型稽古を止める奴が道場に居た。
そんな奴は、空手や武道に即物的な強さを求める馬鹿だ。
そりゃ道場でしか型稽古してなけりゃ技なんて身につくはずが無い。
俺の前世は毎日毎日何千日も欠かさず何万回も繰り返したもんだ。
そこまでして初めて型の意味が分かり、反射で技を繰り出す事が出来る様になるんだ。
生兵法は怪我の元ってのは本当。武道の表面だけなぞって知った気になって実践に出りゃ、そりゃ負けるし怪我もする。
空手の修練は珍しかったんだろう。そもそもこの世界には、体系立てた武道って存在しないみたい。
父さん見てたら分かるけど、重装備で剣を振って相手を叩き切るパワーとスピードが求められてるだけなんだ。
だからかな? 俺が毎日繰り返す型稽古を不思議そうな顔で眺めるメイド兼護衛騎士のイネスさんが俺に、
「その動きには、どんな意味があるのでしょう?」と、聞いて来た。
百聞は一見に如かず、見てわからない物は聞いても分からないの言葉通り、立ち合ってあげた。もちろんイネスさんは真剣は危険だからと木剣を持った。真剣でも構わないけどね。
勝負は一瞬だった。俺の身長より遥かに高いイネスさんが上段から振り下ろしている最中に剣筋を見切り、イネスさんの外に身体をずらして彼女の手首に手刀を入れる。ただそれだけ。
手首の関節部には手刀などで叩かれると握力が落ちる急所があるんだよ。
意図せずイネスさんは剣を手放し、俺に側面から鳩尾にフック気味の振り突きを喰らい悶絶。あそこなら少しの間、横隔膜が動かなくなって呼吸が苦しくなるけど、まあ大きな怪我にはならないだろう。
立ち合いで瞬殺されたイネスさんは、復活すると俺を尊敬の目で見るようになった。遠くから見ていたメリル女王とミルシェちゃんも、めっちゃはぁはぁ興奮してたけど……。
何でだろ? 翌日から型稽古する俺の横で、イネスさんが剣を振るようになった。
まあ、護衛騎士さんなんだから練習も必要か。
でも汗に濡れてちょっと透けた服で俺にやたらとくっ付くのは止めようか。
俺の身が危険だから止めて欲しいの……最終兵器ミルシェちゃんが爆発する前に…………。
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