第93話  気付いた事

 朝のランニング、筋トレ、型稽古、それに加えてイネスさんとの異種立ち合いが、俺の日課となってから約1年たった。

 まだ恐怖の大王とやらは来ていないし、サラも特に何も言わないので、この世界に転生してないのかもしれない。

 型稽古とイネスさんとの立ち合いだけでは不十分かと思って、エルフの村でマッチョな戦士達とも稽古をしてもらっている。イネスさんも一緒にだけど。


 転生してからこの歳になるまで気が付かなかったが、身体能力と言うか・・この身体の、というかこの星の人の基本的なスペックは地球人よりかなり高いらしい。

 ずっと俺自身の肉体にはチートは無いと思っていたが、そもそもこの世界の人の肉体がチートっぽい性能らしい。地球人とは遺伝子とか構造とか違うんだろうか?

 人間であれば全く地球人と変わらなく見えるんだが……不思議だ。

 ストップウォッチとか無いから分からなかったけど、あらためて計測してみたら、イネスさんを含め戦闘職の人は100mをみんな普通に10秒切ってる。

 父さんなんて100m7秒だった……無茶苦茶だよあの人。

 メリル王女ですら俺達の走りにそんなに遅れずに付いてこれるし、長距離走でもそんなに息が上がらない。

 俺だけがチートなんじゃ無く、この星の人皆がチートっぽいぞ?

 いや違うな……地球人と比較したらこの星の人々は皆チートで、この星の人々の中だと、俺って微妙にチートなスペックの肉体なのかな。

 ただ残念な事に、肉体の基本スペックが高いからか戦闘技術がこの星では発達していない。というか武術や技ってものが無い。

 ただ単に剣や槍を力と速度で振り回すだけで、技や工夫が全く見られない。

 そう言えば、チートで鬼の様な父さんも、剣と盾をものすごい速度と力で振り回してるだけで無双してたなあ。

 だからか分からないのだが、イネスさんやエルフとの稽古でも、面白いように俺の技が決まってしまう。


 あともう一つ。どうやら俺の思考速度が加速している気がする。

 メタルガードをガチャ玉で創った時に、肉体強度、筋力、物理衝撃防御、動体視力、気配察知、などなどが強化されるように創造したんだが、その時に思考能力加速や並列思考も入れてあったんだ。

 ここの所、メタルガードの戦闘能力の確認と慣れのために、毎日何時間も変身して修練をしていたのだが、変身し無くても思考が加速してる気がする。

 特に顕著だったのは、何かをしながらでもブレンダーやクイーンへの指示などが出来る様になってた事だ。もしや変身後の能力が元々の俺の肉体に影響しているのか?

 確かに変身中は無理やり思考を加速されてたり、思考を分割してる様な感覚はあった。だがここ最近では、普段から頭の中にパソコンで言えば別のウィンドーが立ち上がっていて、そちらでも別の仕事をさせている感覚があるし、その仕事の処理速度が異常に早いしスペックが半端無い気がする。言ってみれば戦いながら国語理科算数のテストを同時に受けている様な、俺と言う人間が何人も同時に存在して全く別の仕事をしている様な奇妙な感覚だ。

 うん、悪いことじゃない。けど、ちょっと気持ち悪い。

 動体視力もなんかやばい感じだ。

 ちょっと前かがみになったメリル王女の服の胸の隙間から覗くちく……げふんげふん……ほんの一瞬をはっきりばっちり捉える事が出来てしまう。それも超ドアップでばっちり! うん……これじゃ変態だ。

 

 なんで俺がこんなに変わったのか理由を考察してみたが、魔素が精霊さんに進化しちゃった様に、俺の中の魂のエネルギーが俺自身を変質? 進化? させているのかも。

 今まで魂のエネルギーを使って俺自身が何か行動を起こそうとしていなかったが、積極的にエネルギーを使用する変身を幾度も繰り返すうちに、俺自身に影響が出始めたとかかな?


 うん、肉体性能が良くなるのはいい。

 だけど、あたしゃも少し背が欲しい……切実な問題。

『わたしゃも少し胸が欲しい!』

 ヌーブラ付けとけ、サラ。


 よくわからんけど、この世界に転生して12年もたってから、やっと自分が本当にチートなんだと実感してる。特に俺にボコられて目の前で大の字になってる、エルフさんやイネスさんを見てると。


「はあはあ……トールヴァルド様は本当にお強いです……せめて……あん……今日こそはぁ……んん……1本……取りたかったのですが……はあはあ……ぁあん」

 息も切れ切れにイネスさんがそう言うんだが、その息の切れ方がエロイ……この人普通に日本だとアイドルになれるよ。

 アイドル級の女の子がはあはあと紅潮した顔で……やばい、俺のお棒ちゃま君が暴れん棒将軍になる! ここの欲望はチートにならなくてもいいぞー!

 自重しろ~! 自重しろ~! 落ち着け~落ち着け~! セクハラだぞー!

 決してエロい目で見てはいけない……汗で肌に張付いたシャツが透けて、ノーブラでぽっちが薄っすら浮き上がっていても、見てはいけない……見たいが見てはいけない……そう、心を澄んで凪いだ湖面の様に静かに落ち着けるのだ……。

「はぁん……トールヴァルド様、はあはあ……どうか……ぁん……されましたか?」

 やめろー! 四つん這いで雌豹のポーズは破壊力が! ボリュームが少々足りないお胸様とはいえ、そのポーズは破壊力が!

 あ、だめだ……鼻血が……。

「はあ……トールヴァルド様、鼻血が!? もしや私の剣が当たっていたのですか? やった、1本取れた! はあはあ……」

 万歳して胸反らせないで! めっちゃ透けたシャツが……透けて強調される!

 見てはいけないのに、視線がそこにまるで磁石のN極とS極の様に引き寄せられて動かない! 

 ああ……喜ぶのはいいけど、抱きつかないで! 俺とイネスさんの身長差だと俺の顔がイネスさんのお胸様に……頬に微かに他の柔らかい肌とは異なるぽっちの感触。

 俺の心のブレーカーが飛んだ……そこからの記憶が無い……でもそれまでの映像と頬の感触は俺のメモリーに永久保存完了。 


 言っとくが、もちろん領主としても日々奔走してるぞ。本当だぞ?

 それに、実家にも顔出してコルネちゃん成分も補充してるし。

『シスコン乙』

 うるせー!

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