第72話 茶番の始まり始まり~!
国境の大河にかかる堅牢な石造りの橋の前に、俺と父さんは立った。
もちろんブレンダーにファクトリーを背負わせてクイーンと共に俺の後ろに控えさせるのも忘れてはいない。
もう、これだけで過剰戦力な気がしないでもない。
だって、わくわくしてる精霊さんが周囲を埋め尽くしているからな……精霊さんの魔法一発で終わるぞ、あっちの国。
今日の父さんは、全身鎧と大きな盾と剣を装備している。
俺を慕ってくれている、ダンジョンの主である黒竜が最近脱皮したらしくて、モフリーナが、鱗を是非使って欲しいと言われたと大量に持って来てくれたんで、父さんの装備一式を新調してみたのだ。
黒竜の鱗の鎧は、日本の当世具足と呼ばれた甲冑をベースに西洋の鎧とミックスして、俺がデザインした。
特に小~中ぐらいの黒竜の鱗を加工し板札や小札を作って繋げて、関節などの可動部は黒竜の鱗を粉末にして鋼に混ぜ込み鍛錬した、黒竜鋼で造ったチェーンメイルでカバーしている。
胴は大きな鱗を加工して、複数枚重ねて使用。
ヘルムは黒竜鋼と鱗の複合材になっている。
金属を極力減らし黒竜の鱗を最大限に利用した鎧は、黒と鈍色で彩られて、見る者の本能的な恐怖心を呼び起こす。
装飾として、各所に意味は無いけど魔石を埋め込んでみた。
宝石だと高いからね。魔石は原価で手に入るし。
はっきりいって、俺のデザイン最高だ!
もちろん、父さんも滅茶苦茶気に入っている。
父さんの希望で藍色のマントに家紋とネスの姿を刺繍しているのだが、ネスの絵は必要なんだろうか?
盾は、これも黒竜鋼と俺の領地に生えていたローズウッドに似た非常に硬い木との複合材で、戦いに身を置く者なら誰もが欲しがる1品となっている。
剣はモフリーナ提供のダンジョン産のカミソリ並みに切れ味の良いブロードソードで、なんと普通の鋼ぐらいではスパッと切り裂いてしまう。
これ……聖剣じゃねーよな?
父さんの装備の総重量は、一般的なフルプレート・メイルと、盾、剣を装備したのと比較しても1/3程度しかない。
もはや、世界の至宝と言っても過言では無い超高性能なセットとなっており、しかも材料費は黒竜やモフリーナ提供の物がほとんどなので、とてもお安く仕上げることが出来ました。
あの天然チートで鬼の様な無双する父さんにこの装備だと、対岸の敵が万だとしても1人で蹴散らしてしまうかもしれん。
まあ今回は俺の護衛なんで、うずうずしてる様だが我慢してもらっている。
俺の秘策が失敗したら突っ込んでもらう予定だから、まあ落ち着け親父。
ちなみに本日の俺の‟衣装”は、淡い青色のシャツと紺色のスラックス。
白を基調として金の縁取りがされたローブを纏っている。
どっかの司祭様に見えるかな?
ちなみに防御力なんて全く無く、戦のど真ん中で着る衣装じゃない。
どの道、俺はいざとなったら変身するから、服なんて関係ないんだけどね。
王子様やら大臣やら近衛騎士のゴリラが、戦争舐めてんのか! って感じで何か言ってたけど、無視だ無視!
時間がもったいないし、説明が面倒くせえからな。
でも、マジで敵さん可哀相なんだけど……。
戦争の英雄にして天然無双チートの父さん&超高性能装備。
ブレンダーとクイーン&ヴェスピナエ・ファクトリーの蜂200匹。
俺の変身ベルトにエネルギー・ブレード&精霊の大軍。
うん、普通に勝てるね……真面目にやったら大虐殺だよ。
まあお気楽に生きたいから、後々恨みを買いたくない。
真アーテリオス神聖国さんもそこそこの人口なんで、将来的には良いお取引をしたいと思ってるから、しこりも残したくない。
だからこその秘策なんですよ!
さて、俺たちは自陣から散歩でも行くような足取りで国境の橋を渡り始めた。
案の定、相手さんからは罵声・怒声が飛んでくるが、橋を渡る前に自陣には相手が騒いでも一切言い返さずに沈黙を貫いてくれって王子様を通じて通達してある。
だからグーダイド王国陣は、不気味なまでに『しーーーーーーーーーん』としているが、まあこれを見た敵さんの頭には余計に血が上っただろうね。
神経逆なでしてるわけじゃないぞ? これは必要な事なんだ。
もうすぐ橋の中央だけど、敵さんは騒ぐだけで動き無し。
矢の1本、魔法の1つでも飛んでくるかと思ったが、敵の司令官は意外と冷静なのかな?
万の敵が待つ対岸に、武装していない子供が護衛を1人だけ(狼と蜂は別)連れて、ただ歩いてくる様子はさぞや不気味な事だろうな。
俺が相手の立場だったら、ものすごく気味悪いぞ。
ふっふっふ……だがな、今から敵さんは腰抜かすぞ!
いや、腰抜かすのは敵のトップだけかな? 全員だといいなあ。
サラと相談して練りに練った茶番の始まり始まり~!
父さん、ちゃんと台本読んだ? セリフは覚えた?
え、緊張してんの? 大丈夫、練習通りで上手くいくさ。
橋の中央まで着いた父さんと俺は、くるっと振りかえって自陣に向かって跪いた。
さあ、聞いて驚け見て笑え……じゃなく、見ても驚け!
ご登場願いましょう、水と生命を司る聖なる女神ネス様のご降臨だ!
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