第71話 第三王子様が総指令殿
さてさて、やっとこさ最前線まで来たはいいが好き勝手に動くわけにもいかないので、グーダイド軍を指揮している総指令殿(っていうのかな?)のご尊顔を拝しに行きましょうか。
総指令殿は王家の旗が立っている幕舎に居る様で、父さんと着任の挨拶に行くと、近衛騎士さんに中に通された。
俺を見たフルプレートの大男がヘルムの面を跳ね上げてニヤリと笑ってので、何事? と思ったら、いつぞや模擬試合をしたゴリラ近衛騎士さんでした。
幕舎の一番奥でふんぞり返っているのは、どう見ても俺よりちょい年上の成人したばっかって感じの若い男。
あんた誰~?
「ヴァルナル・デ・アルテアン、トールヴァルド・デ・アルテアン、陛下の命により本日300の兵を率いて参上いたしました」
父さんと俺とが跪き、総指令さんに頭を下げると、
「良くぞ参られた、ヴァルナル伯、トールヴァルド卿。総指令の任を拝命したグーダイド王国第三王子ウェスリー・ラ・グーダイドである。私は陛下では無いので、そこまでの礼は不要。さあ、頭を上げて」
そう言われたから、遠慮なく顔を上げてみました。
第三王子かあ……そもそも王子って何人いるんだ?
気さくそうだけど顔は直視しない。
どんな難癖付けられるやら……。
「着任早々ではあるが、そなたらの意見が聞きたい。この膠着した状態を打破する良い手は無いだろうか?」
気が早いな、おい! 状況説明ぐらいしろよ!
「殿下、いかに武に長けた高名なお二方とはいえ、状況が分からずでは良い案など出せませぬ。まずは某が説明をいたしますので、今しばらくお待ちくだされ」
「ああ、それは確かに。では説明を任せる」
お、横に控えてた白髪オールバックの強面のおっさんが説明してくれるとさ。
軍部の偉いさんらしいから、軍務大臣さん? 名前聞いたけど、俺の脳の記憶野は覚える事を拒否した様だ。
名前覚えたりしたら、この先も何やかんやと担ぎ出される予感がす……。
「は。ではまず真アーテリオス神聖国の布陣とこれまでの動きですが………………」
グーダイド王国と真アーテリオス神聖国は、国境でもある幅約100mはあろうかという大河を挟んで対峙していた。
この河は流れの中心部の水深が急激に深くなっており、それに伴い流速も非常に高く泳いで渡る事はまず不可能。
渡河には堅牢な石造りの大きな橋を利用するか、渡し船を利用するしか手が無いのだが、緊迫したこの状況ではそのどちらも出来ない。
両軍の睨みあいは、実に3週間にも及ぶという。
なんという暇人達だろ……渡れないのなら諦めりゃいいのに。
そもそもこの急流で船を出したとしても、渡れるのは人のみ。
騎士が馬にも乗らず敵軍が待ち受けている所へ手漕ぎの船でえっちらおっちらたどり着いても、フルボッコにされるだけ。
決死の覚悟で橋を渡れば、まだ五分で敵軍と正面衝突出来る可能性はあるが、まあ先陣を切る奴は間違いなく死ぬ。
だって待ち構えられてるのに、普通突撃するか? 無駄死に決定だろ?
誰も、好き好んで無駄死にするための特攻なんてしたくはないよな。
って事で、両軍とも動けないってわけだ。
「……………という状況である。何か両名から意見などあればお聞かせ願いたい」
くっそ長い説明を、じっと聞いてたよ。
俺、さっき着いたばっかで疲れてるんだよ。途中で何度か欠伸が出そうになった。
要約すると、両軍とも攻め手が無くて睨めっこしてる状態だから、何とかしてくれってんだろ?
父さんが俺の横っ腹を肘で突いてきた所を見ると、お前何とかしろってとこか。
ハイハイ、父さんは戦うのは得意でも考えるのは面倒くさいってか。
さて、どう切り出そっかなぁ。
「では、畏れながら申し上げます。私が出征するにあたって、ネス様よりお言葉とお力をお借りしております」
ざわ……ざわ……ざわ……ざわ……ざわ……ざわ……ざわ……ざわ……ざわ……。
幕舎がざわめきに包まれた。カ〇ジかよ!
「ネス様は仰いました。他の神を貶め国を戦へと導く様な神は存在しないと。太陽神もまた神であるので、その様な神託を下す事はあり得ないと。つまり太陽神の言葉を曲げて民に伝え、邪な企みを持つのは真アーテリオス神聖国の指導者であると。敬虔なる信者を欺き、欲に塗れ神への信心すら無くした宗主と側近こそが敵であると。そして、トールヴァルドよ使途であるあなたが1人で行きなさいと。その言葉に従い、私めが1人で橋を渡りましょう」
まあ、こんな事をしでかした真アーテリオス神聖国のトップには交代してもらわないとね。
「なんと! 卿が1人で行くというのか! 聖なる女神ネス様の使徒である卿が!」
王子様がびっくりしてるけど……はっきり言って、俺ってチート持ちなんだよね。
チートらしい活躍してないから、忘れられてるかもしれないけど……。
『活躍してるのは精霊さんと狼と蜂ですもんね!』
ああ、そうだよ! 悪かったな!
実際、精霊さんが大集合したら何万の軍勢でも瞬殺で終わる気もするけど、なるべくなら殺したくはない。
「ええ、お任せください。もしも1人が心配であると言われるのでしたら、伴には先の戦の英雄であり我が父であるヴァルナル伯爵と従魔だけで十分でございます。私には女神ネス様がついておりますれば。どうか近衛騎士団や兵達には、殿下の周囲の護りを固めさせて頂きたく存じます」
足手まといは不要だよって意味を込めたけど・・分ってくれるかな?
ざわ……ざわ……ざわ……ざわ……ざわ……ざわざわ……カイ〇はもういいって!
「うむ、了解した。トールヴァルド卿、ヴァルナル伯、よろしく頼む」
あら、あっさり。
英雄がお伴なら王子様も文句は無いか。
「「は、了解しました!」」
さって、仕込みは完了!
素人役者の即興劇場、始まり始まり~!
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