第70話  出立だーー!

 真アーテリオス神聖国が我がグーダイド王国侵攻に向けて兵力を国境付近に集結させつつあるという情報は、実は1か月前にサラから聞いた時にすぐに冒険者ギルド経由で王城に報告をしておいた。

 もちろんネス様のお告げだと言っておいたので、王国トップは即座に対応し、国境に監視網を敷くのと同時に、ありったけの兵力を即座に移動させたという。

 兵力は実に8万人で、1/3以上が冒険者らしい。

 もっとも輜重部隊なども含めた兵数なので、実戦部隊が何人かは知らされてない。

 

 さて、この国の冒険者ギルドと冒険者は、父さんの領地を主な稼ぎ場としている。

 当然ながら、ギルドの幹部も冒険者の多くも1度はネス様詣でをした事があるから、もうギルドを挙げて他国の訳分からん宗教国家などに祖国の土を踏ませるなと、ものすごい気勢を挙げて冒険者を向かわせたそうだ。


 だが、真アーテリオス神聖国も徐々にその兵力を増やしつつあるらしく、国境での両軍のにらめっこが続いているため、各地の貴族にも派兵の通達が来た。

 圧倒的兵力で事態の打破を狙ったのだろうが……兵員数が増えたからと言って、

この状況が変わるとも思えないんだけどなあ。


 俺の所には兵力が無いので今回は俺だけの参加だが、父さんの領地からは約300名の派兵が決まっている。

 集まった兵士は、全員熱心な聖ネス教の信徒だ。

 俺、そんな熱心に布教活動もしてないんだけど?

 今度、経典とか聖書でも作ってみようかな。

 一応、ドワーフ作のネスの木像はお土産物屋さんで一番の売れ筋だから、聖典とかも売れるかも。

「トールヴァルド、俺の馬車を見てくれ! ネス様の像を屋根に付けたんだ! ほらマントにもネス様のお姿を刺繍したんだ!」

 やたらと父さんが自慢するんだよね……。

「領主様、素晴らしいです! 若様見てください! 私も懐に常に!」

 兵士もキーホルダー型ネス像を鎧の胸当てから出して見せてくるけど、本当にそれでいいのかなぁ……それって、お土産物だよ?

 そもそも俺が作った女神像が戦争の発端なんだよなあ。

 心が痛むが、懐は暖まるだけに何とも言えない……。


「ネス様のために、俺はやるぞー!」

「真アーテリオス神聖国なんか一捻りだ!」

「我らにはネス様のご加護がある! 死を恐れるな!」

 領都に集結した兵士達が、熱く盛り上がっている所に、父さんが行軍前の演説を行うべく木箱の上に立つ。

 あれ、ミカン箱みたいな奴じゃねーか? もちょっとましな台なかったのか?

「グーダイド王国の勇猛なる兵にして我が愛する領民よ! 信心深い女神ネス様の信徒よ! 諸君らは正義を行う者だ! 諸君らはこれより我が愛する祖国を侵略しようとする邪教の徒との戦に赴く。しかし恐れる事は無い! 我々には聖なる女神ネス様がご加護を与えてくださっている! これは正義の戦だ! 死を恐れるな! その正義を持って邪教を打ち砕くのだ!」

「「「「「「「「「おーーー!!」」」」」」」」」

 うお! 熱気がすげー!


「これよりネス様の使徒である、トールヴァルド・デ・アルテアン子爵より、言葉を賜る! 傾聴するように!」

 え……ええええええええ! 聞いてないぞ!

「……トール。早く何か言え……」

 無理やり父さんに台に乗せられたけど……もう破れかぶれだ!

「私はトールヴァルド子爵である! 此度は愚かにも我が国を、ネス様を害せんと真アーテリオス神聖国が侵略戦争を企てた。あえて言おう、カスであると! それら軟弱の集団が、このグーダイド王国軍を抜くことは出来ないと私は断言する。無能なる者どもに思い知らせてやらねばならん。今こそ、我々は明日の未来に向かって立たねばならぬ時であると!」

 うむ乗って来た!

「国民よ立て! その熱き想いを怒りに変えて、立てよ国民! グーダイド王国は諸君等の力を欲しているのだ。!」

 すぅぅぅぅぅぅ……

「行くぞーー! 出立だーー!」

「「「「「「「「「おおおおおおおおおおおおおおーーー!!」」」」」」」」」

 やっちまった……演説で思い浮かんだのが、コレしか無かったんだよぉぉ!

 俺、ラスト間際でコルネちゃんに後ろから頭を撃ち抜かれるかもしれん……。

『総帥とお呼びしましょうか?』

 止めてくれサラ……それだけはマジで……。


 めっちゃ涙と鼻水垂らしながら父さんが、

「素晴らしい演説だ、トールヴァルド! 俺は感動で涙が止まらん!」

 ……坊やだからさ。


 ▲


 アルテアン領を出発して12日目、俺たちは各地の貴族から派兵され前線を目指す兵士達と合流した。

 あと4日程で国境の前線にたどり着く。

 どの兵士を見ても、長い行軍で疲れは見えるが、心は熱く燃えていた。


 正直な話、俺が聖ネス教なんてでっち上げたから戦争の火種が起こったんだよね。

 この星の神様には申し訳ない気持ちでいっぱいだよ。

『気にする必要はありませんよ?』

 ん? どういう意味、サラ。

『前にも申し上げた様に、この世界における太陽神や月神は、あらゆる次元や並行世界に実在しません。太陽神を崇める宗教を政治に利用して民衆を都合よく煽動しているに過ぎないのです。地球でもありましたでしょう? 過激な宗教的原理主義によるテロ行為。あれを国家単位で行っているのです。それを潰したぐらいで、この星の神は怒りません。むしろ宗主をヤレば多くの民衆の魂が浄化されて喜ばれると思いますよ? あの国は腐ってますから』

 あ~でも結局は宗教戦争じゃん。泥沼だよな、これって。

『地球の宗教戦争とは、ちょっと違います。地球の場合は、多次元や並行世界に本当にその神が実在しますので、信仰心の問題や魂のエネルギー量の問題などで色々と大きな影響がありますから、地球では止めて欲しいところではありますね』

 うん、神の存在とか前に言ってたね。

『ですが、この星の宗教において信仰の対象として尊崇や畏怖されている神は、どの世界にも存在しません。つまりあちらもあらゆる世界において完璧なまでにでっちあげの神です。つまり結局は単に国同士の戦争と言う事です。戦争は文化・文明の発生した星では普通に見られますし、文化や技術の発展にはつきものです。何ら問題はありません。大いにやっちゃってください!』

 でも人がいっぱい死ぬと思うけど……。

 あ、そう言えば元々魔族さん達が独自に信仰してた神様は? 

 あれはこの世界に実際に居るんだろ?

『いませんよ? あれは単なる妄想です。魔族達が妄信してますが、実際には存在しませんから、気にする必要は全くありません』

 あら、そうだったんだ。んじゃ遠慮はいらないかな。

『前にも言ったじゃないですか、2世代はこの星に転生できるだけのエネルギーが確保できてると。最近の変換玉での創作で、もう少し世代を重ねても行けそうです。それに死なすつもりもありませんよね、アレを創ったんですから』

 まあね。もっとも、今までの小ぜり合いで死者が出てたら、それは仕方ないけど。

 俺が戦場に出たら、誰も死なせずに終わらせるつもりだ!


『この世界は残酷だ……そしてとても美しい』

 ……いや、進撃してくる巨人なんぞ相手にせんぞ?

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