第40話  エルフの長

 うん、そんな気はしてたよ。

 でもさ、もうちょっとテンプレに則って、転生人生楽しみたかったよ。 

 長の屋敷の応接室的な所に通されたんだが、壁に鹿の首のはく製掛かってるよ。

 お金持ちの家にある奴みたいなの。

 それだけじゃないぜ、川で出合った熊がガオー! って立ってるはく製もある。

 どう見ても虎にしか見えない皮がフロアーに敷かれてるし・・。

 ファンタジー感ゼロだよゼロ!

 変な悪だくみしてそうな金持ちの家みたいじゃん!

 やたら豪華な皮張りのソファーだし、俺イヤだよエルフの家がこれなんて。

 そして目の前のエルフの村(?)の長……金髪角刈りの浅黒いマッチョ……。

 白のランニングシャツで、たまに大胸筋ピクピクさせてるし!


 あ、ブレンダーは庭で待たせてる。

 めっちゃ人気でもふられ中。

 クイーンはついて来たがったので、背中にくっついてます。

 

『コノモリ、オマエキタ、ナゼ?』

「北方の山から、森を抜けた先にある海を目指している途中です」 

『ウミ? スグソコ。イクナゼ?』

「あ~この森を開拓して、出来たら海まで道を繋げたいなあって」

『ナゼ?』

「山の付近が僕の領地になりまして、出来たら観光地になんて出来ないかな~って」

『カンコーチ?』

「はい、みんなで遊びに行く場所といいますか……」

『タノシイカ、ソレ? ウミ、シオミズ、カライ』

「えっと、僕たちの領地から海は遠いんです。近くにあったら行きたがる人もいると思います。あと海産物も欲しいと思って」

 エルフって森の民だから、開拓とか嫌がるんだろうな・・まあ最悪、別の方法を探そう。

『……モウカルカ?』

「え? ……はあ、僕の計算では儲かります」

『エルフノムラ、モウカルカ?』

 あれ? なんか思った反応と違うんだが・・。

「ええ、もちろん儲かる様にしますよ。僕は観光地と海産物が欲しいだけです。儲ける方法は幾らでもありますから。森を通して頂けるなら、この村に通行料を支払っても構いませんし、仕事をお求めなら幾らでも用意出来ますよ」

 結構、俗物的?

『ハナシ、ワカッタ。オマエナマエナニ?』

「僕はトールヴァルド・デ・アルテアンです」

『キゾク? トール? ワカッタ。マタクル』

 おお、いい感触か!?

「あ、ご検討頂けるんですか? ありがとうございます。このまま海まで行っても構いませんか?」

『イイ。スキニイク、ウミ。マタクル、イイ。スル、カンゲイ』

「有難うございます。また話に寄らせて頂きます」

 立ち上がって頭を下げると、ニカッ! っと真っ白な歯を見せつけ良い笑顔で笑った色黒マッチョとガッシと握手をした……ちょ!握力!

 うん、もうエルフこれでいいや……。

 

 村の出口まで送ってもらい、海の方向にブレンダーで森の中をのんびり進む。

 すぐ近くって言ってたけど、急ぐ事もないしな。


 そう言えばドワーフが居るって言ったな。

 会いたくない気がす……。

 いやね、やっぱこれ以上、自分の中のファンタジー感を壊したくないじゃん。

 夢とか希望って人生において大切だと思うんだ、うん。

 ん、どうしたクイーン? 頭ポンポンって、慰めてくれてるの? ありがとうね。


 今日はそろそろ野宿場所探そうかな、もう日も傾きかかってるし。

 まあ収穫の多い一日だったよ。

 この森にエルフ(?)が居たなんてねえ。 誰も住んでないと思ってた。

 先住民族は大切にしないと、だいたい荒れる結果が待っている。

 これはどの世界・国・民族だって同じはずだ。

 王国史とか見ても、エルフの集落はかなり昔に確認されてはいたらしい。 

 しかし現在の王国にエルフの集落はなく、他国にその集落が移ったって書いてあった。

 こりゃ父さんと相談して保護しなきゃな。

 

 などとつらつら考えながら野営地を探していると、またブレンダーとクイーンが警戒を始めた。

 おい、やめてくれよ……俺さっきフラグたてちゃったの?

 もうファンタジーのイメージ壊したくないんだけど、大丈夫だよね?

 

 目を凝らし木々の間を見ると、遠くで何かが動いている。

 警戒態勢のブレンダーとクイーンだが、俺の方をチラチラ見始めた。

 戸惑ってる? この先の何かに?

 

 警戒態勢を維持したままゆっくり前進させると、華奢で可愛らしい女の子が手に籠を持って山菜か何かを採っていた。

 うっわ、めっちゃ美少女!

 紺色のサラサラでセミロングのストレートヘアーが似合ってる!

 俺と同じぐらいの背だから……10歳ぐらいかな?

 ミニのキュロットスカート? 白いふくらはぎがまぶしいぜ!

 いや……俺はロリじゃない……ロリじゃない……うん、嫌いじゃない……。

 でも何でこんな森の中に女の子が?

 

 ブレンダーとクイーンは驚かすかもしれないので、下げて隠れさせた。

「えっと、こんにちは~初めまして。こんな山の中でどうしたの? 迷子かな?」

 女の子はビクッ! として、一瞬警戒をしたが、俺が子供だったからだろう警戒を解いて右手を上げた。

 訳も分からず俺も右手を上げると、

『あんたぁ、どこのむらのどわーふじゃ?』

 ああ……やっぱりドワーフかよ……残念な事にフラグは回収されました。


 後で聞いた話、初めて出合った人に右手の平を向けて上げるのは、ドワーフの挨拶だとか。

 知らんよ、そんなん。

 俺、ドワーフと思われたのね……。

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