第38話  領地予定の森の中

 山~を越え行こう~よ~♪

 口笛は苦手だから吹けないけど、ダンジョンのある山を越えて俺の領地予定地である森に来た。

 

 ブレンダーもクイーンも周囲の索敵をしてくれているが、問題は無さそうだ。

 この地を起点としてこのまま索敵をしながら、海を目指して進むとしよう。

 測量と地図作製もしていかないといけないんだが、ブレンダーとクイーンにはマップ機能がある。

 試しにクイーンの前足(?)にインクを付けて紙に色々書かせてみたが、簡単な地図なら書ける事は実験済みだ。

 ブレンダーもその地図を見て間違いを指摘する事が出来る様なので、俺は面倒な測量も作図もしない。

 なのでうろうろと気になる場所を歩き回り、帰ってからブレンダーとクイーンが頭の中に記録している地図を紙におこすだけの楽ちんマッピング。

 優秀なペットって素晴らしい!

 気になる場所を好きにうろうろして、海までのんびり行こう!

 何かいい観光資源があればいいけど……。

 

 この森は思ったより豊かで広大なようだ。

 とてつもない巨木がそこかしこに生えてる。

 さすが有史以来、人の手が入って無い原生林だ。

 時折ブレンダーを止めて巨木を見上げて、その巨木の歴史や生命力に感動しつつ観賞した。

 これは縄文杉というより、セコイア杉かな。

 ジャイアントセコイアと言えば聞いたことある人もいると思う。

 駄菓子で有名なフ〇タ製菓のセコイヤチ〇コレートで有名な、あのセコイアだ……うん懐かしい。

 名前のヤとアの違いはあるが、まあ一緒の物を指してる。

 転生前の若い時に旅行した、屋久島で見た縄文杉よりはるかにデカい。

 日本の巨木の記録だと6~70mがせいぜいだが、セコイアは樹高100mを越える。

 これはもっと高いかもなあ…根元は周囲が20mじゃきかないぞ。

 確かアメリカの国立公園だったかな?には、ジャイアントセコイアの倒木をくりぬいて車が通れるトンネルがあったはず。

 う~ん、この世界の人はこの樹やそんなトンネルを見て感動してくれるかなあ……観光の目玉としては弱いかも。異世界遺産はちょい保留。

 

 さらに奥に進むと、森が少しだけ開けて来た。

 クイーンがちょんちょん頭をつついて右手の山を向けと言うので進みつつ耳をすますと、段々湿っぽくなりゴウと音が聞こえる。

 樹々の間を通って進むと山が切り取られたみたいな崖があり、見事な滝が流れ落ちていた。

 おう! 水量はそんなに多くないが見事な直瀑だ! 滝つぼも深そう!

 これは観光資源として異世界遺産登録だな、うん。

 滝から流れる川も大きくはないが綺麗な水だ。

 マス科の魚っぽいのもいるっぽい。釣りしたいな……

 

 そんな事をぼ~っと考えていると、ブレンダーとクイーンの索敵に引っかかる物があった。

 大型のクマが、水を飲んでいた。

 こちらを一瞥しただけで、すぐに興味を失ったみたいだ。

 うむ、無駄な殺生は止めて置こう。どうせ持って帰れないしな。

 水を飲み終わったクマは静かに森に帰って行った。

 出来るだけ自然を壊さない様に、ここを観光地にしたいなあ。

 後でじっくり案を練らなきゃな。


 川沿いに下ると、森の植生が変わって来た。

 ダンジョンのある山付近では、かなりの高木の針葉樹が大半を占めていたが、この辺りは変な木が多い。

 あれなんて、バオバブの木にそっくりだ……砂漠地帯の植物じゃないんかい?

 ヘチマみたいな感じの実を付けるんだよな。

 あれはマングローブじゃね? 何で森の中に?

 これはバナナにリンゴか? あ、レモンに桃もあるじゃん!

 生態系がファンタジーだ……ありえない。

 植生が変わったからだろうか、ブレンダーの索敵にかかる動物も増えて来た。

 生命反応が増えたが、脅威となる獣は少ないようだ。

 鹿とか猪なんかの草食系の動物が多いかな。

 これだけ豊かな森なら、この草食動物を捕食する獣がいてもおかしくないが。

 

 そんな時、クイーンが急に羽を震わせ身体を縮めて前方を威嚇し始めた。

 ブレンダーもグルルルルと低い唸り声をあげている。

 前方に危険な動物でもいるのか?

 兵隊蜂を20匹ほどファクトリーから出して、俺の周囲を警戒させる。

 やがて、樹々の間の下草を静かに掻き分けて顔を出したのは人だった。


 その姿を見て固まっていた俺に、その人は話しかけてきた。

『…オオカミアオイ、ハチオオキイ、キケンナイ?』

 蜂蜜色の髪の毛に緑色の瞳のものすごい美女だった。

 うん、あの胸のでっかい膨らみは女だね。

 エルフ…じゃないよね、だっておっぱいさんだし。

 

 顔に緑のペイントが……頭には草で作った飾り……。

 あれは、おしゃれなのかな?

 まさかカモフラージュじゃないよな?

 

 カタコトの王国語だけど、言いたいことはわかるから会話は出来そうだな。

「初めまして。このオオカミもハチも危険はないです。僕の使い魔ですから」

『ソウ……オマエキタ、エルフノモリ、ナゼ?』

「エルフの森! ってことは、あなたはエルフですか?」

 え…だけど耳尖ってないよ?

 てっきりエルフって緑の髪で耳が尖ってると思ってた。

 森の緑に紛れ込むためか、オリーブグリーンの服を着て、槍と弓を持っている。

『ソウ、エルフ。オマエ、キタナゼ?』

 イメージと大分違うけど、自分でエルフって名乗ってるからエルフなのかな?

 そういえばエルフのイメージって、何かの映画が元だって聞いたことあるな。

「あ、この先にある海を見たいと思って来たんですけど」

 この世界に来て獣人はよく目にしたけど、エルフは初めてだ。

 何とか仲良くなれないかな? 上手くすると、ものすごい観光資源になる!

『オマエ、テキナイ? オサトハナシスル』

 エルフの長と話ですか、当然いきましょう! 

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