第40話 意外な出席者

着替えを済ませたウィルたちはティティリの案内の元城の最上階にある晩餐会の会場に向かって歩いていた。当初は晩餐会と聞き着席して食事を取ると考えていたが、晩餐会という名称はあくまで敬称であり、形式はその時その時でことなり、今回は参加人数が多いため立食形式だそうだ。

ティティリの次に歩くウィルの後ろからは今にも炎が飛んできそうな殺気を感じる。


「まだ怒ってる?」

「治癒魔法を使えるエリーがいてよかったわね。もう一度焼いてもいいかしら」

「止めていただけると助かります……」

「これ以上迷惑かけるわけにもいかないし、帰ってからにしてあげるわ」

「それも止めてほしいんだけど……」

「人増えてきたね」


会場に近づいてきたのだろうか、参加する貴族の姿がちらほら見かけるようになっていた。


「来たかアースガルド卿」


ひと際大きな声で周囲にいた参加者が全員振り向く。そして同じように驚いた表情を浮かべる。

それもそのはずだ。ルミエール家の晩餐会の名目のはずが、他の七魔家レイバネン家の当主ガーロンド・レイバネンがこの場にいるのだから


「父様!」


マリは嬉しそうにするが、アリスを筆頭に貴族の関係性に疎いエリーでさえも何故いるのか困惑している。

ぽかんしている一行であったが一番最初に我に返ったアリスが口を開く。


「あの、なぜレイバネン候がこちらに?」

「家の箱入り娘が心配でな」

「はぁ……」

「というのは冗談だ。ルミエール候に呼ばれてな。今年のルミエール家の晩餐会はどうやら荒れる。心しておけ」


真剣な面持ちで語るレイバネンを見て、ウィルはくるりと向きを変えて大きな一歩を踏み出そうとするが、肩を掴まれ冷汗を垂らす。


「逃げたら今燃やすわよ」


脅されるもウィルはティティリを一瞬見る。


「それ絶対俺巻き込まれるやつじゃん! 一切関係ないのに巻き込まれる俺の身にもなってよ」

「自意識過剰よ」

「なら何でレイバネン候と一緒に俺を呼ぶんだよ! どう考えても何かに巻き込む気でしょ」

「例えそうであったとしたら頑張って解決しなさいよ」

「そうだな。人は困難を乗り越えた時こそ成長するぞ」


ただの晩餐会への招待であれば何も心配することはない。ただ、ついて早々バトワーのとの会談にティティリの秘密。もう不安しかない。


「ならレイバネン候。俺のことを守ってくださいよ。もしも切り捨てられたら、俺も娘さんとの師弟関係解消しますからね」

「娘のことは関係なかろう」

「何かあれば頼るように言ったじゃないですか。今がその時です!」

「良かろう。安心してこのガーロンド・レイバネンを頼るがよい」


自分の胸板を叩き、力強く宣言する。

そしてウィルの後ろにいる人物を一通り見るとエリーに目が留まる。

ガーロンドと目が合いエリーの肩がビクッと跳ね上がる。


「そちらの令嬢は見知らぬ顔だが?」

「ああ、学院でマリさんと同じチーム組んでいて俺の師弟の一人です」

「ほう」


ガーロンドは素早く移動するとエリーの前に立つ。


「お初にお目にかかります……レイバネン候……エリー・フォートリエと申します」

「フォートリエ……もしやフォートリエ商団のゴードナー殿と関係があるのか?」

「父です」

「あの者の娘か。あやつめ、俺と同い年の娘がいるなど聞いたことないぞ。薄情な奴め」

「父をご存じなんですか?」

「知っているとも、奴との商談には何度も泣かされはしたが、仕入れた商品は間違いがない。家で取引している商人の中では一番信用できる男だ。それにしてもネクロフィアは知っていたが、ルシュールにフォートリエ商団か。こんどは何をやらかす気だ?」


ガーロンドは疑い深くウィルを見る。それを見てウィルは細めで見返す。


「今度も何も俺は今まで何もやっていませんよ」

「馬鹿を言えモンニカーナで数千の魔物を屠り、七魔家の不穏分子を一掃するきっかけを作ったのはお前だろ」


オーランドの七魔家は現在は5つの家のみ。バラデュール家とラルエット家はオーランドの貴族からその席を外れた。厳闘のあとカルマ陛下の指示のもと、次期皇帝であるシルフィーの婚約者であるウィルを襲撃した罪を問われ、国内に混乱を招きかねない重大な問題とし、七魔家の称号の剥奪と侯爵の爵位を伯爵へと降格。

その時点ではオーランドの貴族ではあったが、元々財政に難があり、領民から高額な税を徴収していたこともあり、両家とも領民の手によって排斥された。


「本当は俺なんかが解決できるようなことではないです。なんで俺が地龍なんて化け物相手にしたり、七魔家相手の喧嘩を買わないといけないんですか。本来であれば力のある貴族が解決する事案ばかりですよ」

「うむ……耳が痛いな」

「それはそれは。もっと言いましょうか?」

「まぁなんだ。そろそろ我々も中へ入るとしよう」


そういうとガーロンドはウィルの肩を掴みと中へと進む。中は数百人は入りそうな巨大な空間は広がり、奥には数段の階段がありステージになっている。一階ではいたるところで貴族が談話し、城の侍女達は食事の用意だろうか、奥から次々と容器を広間に点在する長机おいていく。


「レイバネン候? 何処まで行くんですか?」

「奥までだが?」

「放してもらえませんか? 俺はこの辺で結構です」

「俺たちは部外者ではあるが、ここにいる奴らは全員身内みたいなもんだ。奥までいかなくてどうする。俺やお前は来賓なんだぞ」


今更になってウィルは気がついた。広間には百人以上はいるであろう。その中でルミエールとは関係を持たないのは自分たちと何故かこの場にいるガーロンドのみ。奥に進むにつれ談笑をしていた貴族達はガーロントとウィルの姿、そしてその後ろからついていく少女達を見て談笑を止めている。

七魔家の現当主であるガーロンドのことはもちろん顔を知っているだろうが、ウィルのことを知る者は少ないだろう。

だが、そのすぐ後ろに続くアリスのことは知らぬものはいない。ウィルとアリスが学院ではチームを組んでいることはもちろん知っているため、ガーロンドに肩を組まれている彼が誰なのかは、ウィルの顔を知らなくても容易に見当がつく。


他家の当主と怠惰の大帝、そしてアリスの出席は知らされていなかったのか、会場全体がいたるところで小声の話し声がざわめいている。当主ではないにしろアリスはネクロフィアの中では七魔家の会議に代理で出席するなど影響力はかなり大きい。


一番奥までいくとガーロンドは足を止める。

同時に奥の通路から足音が聞こえてくる。現れたのはバトワーだ。ゆっくりと階段の淵まで歩を進め足を止める。会場にいる全体がバトワーのことを見上げる。


「皆よく集まってくれた。もう気がついているだろうが、今宵はレイバネン候とアースガルド卿、そしてネクロフィア家からアリス殿に来てもらっている。」


バトワーは全体を一通り見直すと視線を鋭くする。


「察している者もいるであろう。わしももう万全とは言えぬ体調の日々が多い。よって今宵の晩餐会の最後で次期当主を正式に決定する」


バトワーは最後にちらりと真っ青な顔をしたウィルを見て鼻で笑うとステージを降りた。

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