第19話 決意と後悔
彼は見知らぬベットの中で目が覚める。
「そうか……生きているのか」
彼が地龍を葬ってからすでに3日が経っていた。致命傷になる大量の傷、魔法の2重詠唱の反動の影響で、ずっと眠り続けていたのだ。
一時は死の淵を彷徨い、回復魔法が使える魔道士とシルフィーが総動員で魔法をかけつつ、医師による外科治療で何とか命を取り留めていた。
体を起こすとベッドに顔をつけ寝ていたシルフィーが、起き上がった振動で目を覚ました。
「ウィルさん……うぃるさん!」
彼女は泣きながら彼の胸に飛び込む。そこに扉が開きアリスが部屋に入ってくる。
「ウィル……」
アリスは小さくつぶやくと早足でベッドに歩み寄り、彼に強烈なビンタをお見舞いした。
頬にひりひりとした鈍痛が響く中、ウィルはビンタを受ける心当たりはもちろんあるためか、彼は何も言葉にしなかった。
「どうやら叩かれる自覚はあるようね」
「ああ。ごめん。」
胸で号泣するシルフィーが続く。
「どうしてあんなムチャな戦い方をしたんですか・・・もう少しで・・・命を落とすところだったんですよ。」
「ごめん。」
ただひたすら感情がこもらない言葉で謝るウィルを見て、怒りに満ちた真剣な表情でアリスが問いかける。
「納得のいく説明をしてもらえるかしら」
アリスの目を見るが適当にはぐらかしても納得はしないだろうと思い深くため息をつく。
そして意を決したように。
「あまりいい話ではないよ。それでも聞きたい?」
ウィルの問いかけに2人はうなずく。
そして彼は元いた世界の戦争のこと、彼の目の前で家族が焼け死に、自分だけが生き残ったこと、この世界に来る直前の軍役についていたことを全て話した。
爆撃機といったこちらの世界にない物も話に含まれていたがどういったものかは、彼女たちは理解できているようであった。
全て話し終わると2人の表情が強張っていた。そして全部聞いたアリスが言葉を搾り出す。
「あんた……死ぬつもりだったの?」
「えっ」
アリスの予想外の問いに彼は目を見開き固まる。ぐうたらな生活をする。ただそれだけを望んでいたが、自身でも気がついていない無意識に考えていたことがあったことをただ唖然した。
考えてみればアリスの裁定は真実で、人間の心理分析は彼女の十八番だ。
今まで親しい人間は作らず、一人で生きてきた。無意識のうちに人との関わりを持たないように敢えてそうしていたのだろうと自分のことを客観視し見直す。
彼は何かを決意したように過去のトラウマによって起こっている、自身の状態について説明すると続ける
「これ以上、俺のわがままで2人を巻き込むわけにはいかない。学院を辞めて、騎士の称号も返上するよ……あとシルフィーもこんな婚約者いやだろ」
ウィルが天井を仰ぎ、全ての繋がりを切り、物語の怠惰の魔道士らしく、魔物を切りまくって命を使い切るのも悪くないと、一人で生きて行く覚悟を決めた。
「ウィルさんの気持ちは理解しています」
「え?」
「私と正式に婚姻する気など最初からないことは知っています」
「ならちょうどいい。俺のことは最初からいなかったということにしてくれればいいよ。反逆罪とかに問うのであれば好きにしてくれていい」
その直後、また頬に強い痛みが走りひりひりとする。
胸で泣いていたシルフィーが起き上がり、赤くなった目じり、目から大粒の涙を流しながら彼を叩いていた。
「私たちに、あなたと同じ苦しみを与えるおつもりですか!。大切な人を無くす気持ちウィルさんが一番理解しているはずです。、私たちはまだ出会って間もないですが、ウィルさんはとても大事な人です。黙っていられるとお思いですか?・・・死にたいだなんて……そんな悲しいこと言わないでください」
ウィルは目の前で号泣しながら怒るシルフィーを見て驚きを隠せない。
いままで、彼女の怒ったところなど一度も見たことがなかったからだ。
そして彼女の綴った言葉に自身が覚悟したことをすごく後悔した。
彼から家族を奪った戦争という憎い概念と同じことを、彼自身が彼女たちにしようとしていたことを……そして自分を心から大切に思ってくれていることを感謝した。
「ごめん……本当にごめん」
ウィルは目から涙を流しながら心から謝る。
それを見たアリスも我慢が堰を越えるかのように涙が頬を伝う。
しばらくの間3人はすすり泣きその場に佇んだ。
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